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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第二章 愛の方向
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第二十一話 代償

 そうして、また旅は始まりました。空は紅に染まっていき、馬車はまだまだ進み続けます。

 アレウスさんは怒りや恐怖をぶつけるように私に尋ねました。

「なあ、シュワイヒナ。君は、一体何者なんだ?」

「私は私。シュワイヒナ・シュワナ。それでしかありません」

「そもそもの話だ、君は人間なのか?」

「人間ですよ。逆にそれ以外何があるというのですか」

「悪魔だ。君は悪魔にしか見えない」

「女の子に悪魔だなんて失礼な話ですね」

「君は女の子として見てほしいのか?」

「別にそういうわけじゃないですけど。むしろ、見てもらわないほうが好都合ですね。旅中の心配が減るんで。あ、でも、さすがに下に着る用の服は欲しいですね。こんな寒い時節に生足をさらけ出すと言うのも良くないので」

 そうなんですよ!! 山に入ってからは、一層と寒くなり、ただでさえ、薄手の服を着ているため、寒くてたまらないのに、それでいて先の戦闘で、服の大半が消え、私は見るもみすぼらしい姿をしているのです。

「服の替え……か。残念だが、君に合うサイズのものはないよ」

「分かってますよ。言わなくても。あっ、そういえば、滅ぼされた街があるって言ってませんでしたっけ?」

「数時間前にな」

「そこ以外で、例えば危険だから、もうここは捨てようとかなんとかで放棄された街はないんですか?」

「滅ぼされた街ですら物資が残っているのはあると思うがな」

「じゃあそこに行きましょう。この格好ずっとしてたら、いつか凍え死にますよ」

「死ななそうだがな」

 アレウスさんは小声でつぶやきました。

 その認識は間違っていないと私も思います。

 しかし、私とて苦しいものは苦しいのです。感覚は遮断されるのではなく、むしろ活性化していますので、普通の人よりも寒いときには寒いと感じますし、痛いときには痛いと感じます。

 まあ、死なないんですから、どうでもいいんですけどね。

「暖めるくらい、私がしますよ」

 と言いながら、テールイは自身の尻尾を私に巻き付けてきました。

「ありがとう。嬉しいよ」

「喜んでもらって私も幸せです」

 相も変わらない明るい笑顔を見せてくれました。

「なんだかテールイの尻尾にくるまっていると、眠くなってくるな……」

 意識がほんのりと消えていきました。先ほど味わったような苦しい意識の消失ではありません。もっと楽な意識の消失です。

 もし私に死ぬ時が訪れるとするならば、私はこうやって死にたいと思いました。


「やあ」

 おかしいですね。今、眠りについたばかりのはずなのに意識ははっきりとしていて、人の声が聞こえます。しかも、なぜだか、視界はぼやけています。

「また、あなたですか」

 神、イラクサ。

「よくわかったね」

「分かりますよ。なんの用ですか? 前回あんな風に無理矢理ぶった切っておいて、今更言うことなんてあるんですか?」

「随分と強気なんだね。……ほう。心はだいぶ固く、強くなっている。君に攻撃を加えても、もう効かないようだな」

「全部見えているくせに驚いたように言わないでください」

「いいや、本当に驚いているんだ。こっちはこっちで忙しかったもんでね」

「忙しい?」

「ああ、君がいつか知ることになるかもしれないことだ」

「いつか知るなら、今話しても構いませんよね」

「ダメだよ、そういうのはよくない」

 やはり、この人と話すのは嫌いです。喋り方がなんだか気持ち悪いのです。

「気持ち悪い? 神に対してそれは失礼じゃないかな?」

「失礼だから、なんなんですか」

「私も君と話すのは嫌だよ。なんだかいらいらする」

 話が停滞しています。

「話をもとに戻しましょう。何の用ですか?」

「簡単なことだ。君に忠告しに来たんだ」

「忠告、ですか。随分とお優しいんですね」

「ああ、私は優しい」

「思ってませんよ」

「じゃあ、なぜそんなこと言った?」

「話を進めましょう。何を忠告しに来たと?」

「くっ……なぜ、こうなってしまったか……。まあいい。教えてあげよう。いいか、君の体は既に半分が人間のものではなくなっている」

「は?」

 何を言ったのか理解できませんでした。しかし、よくよく考えてみますと、思い当たる節がないこともないのです。だって……。

「闇覚醒時に生成されている肉体が人間のものじゃないって言うんですか?」

「勘がいいな」

「人間のものじゃないなら、なんなんですか?」

「君のそれは、魔法の力によって生み出された特殊な肉体なのだ。人間のそれより、脆く崩れやすい。しかし、マジックポイントの流れが非常に美しく、コンパクトにまとまっているため、肉体強化の影響をより強く受けやすい。それに、平常時でも回復しやすくなっているのだ」

「良いことだらけじゃないですか」

「そうでもない。そんな美味しい話があるわけなかろう」

「ですよね」

「闇覚醒を使えば、使うほど、一旦体の一部が特殊な肉体に置き換わった時点で、全身が次々と変化していく。その先に待ち受けるのは何かわかるかい?」

「全身が特殊な肉体に置き換わる、ただそれだけじゃないんですか?」

「ああ、そうだ。全身が特殊な肉体に置き換わる。それは正しい。それにそのこと自体は生きることには影響を及ぼさないし、何も問題はない。最大の問題点は――そうだ。なあ、この世界の人間の寿命、短いと思わないか?」

「短い? 比較対象がないので……凛さんのいた世界と比べてってことなら、まあ短いかもしれませんが、それはしょうがないでしょう」

「しょうがない? じゃあ、なぜ、寿命が短いかを知っても、同じことが言えるかな?」

「は?」

「教えてやろう。この世界の人間が一生知ることのない真実を」

「真実……?」

「そうだ。いいか、よく聞け。マジックポイント、君たちの体を流れる魔法のエネルギー。それは、使用する度に、人間の体を蝕む」

「……」

 何も言えなくなりました。私たちの生活を、戦い方をすべて覆してしまうような事実だったのです。

「普通に暮らしている人ならば、魔法を激しく使っているわけじゃないから、他の人よりは多少はましだろうが、君のように戦闘を多々行うものは、それだけ肉体にダメージが加えられている。しかし、君たち自身ではそれを感じることはできない。ただただ気づかないうちに寿命が縮んでいく」

 私たちは何も知らずに、魔法を使い、自分で自分の寿命を縮めていた、ということでしょうか。しかも、神の言うことから察するにマジックポイントは使う量が多ければ、多いほど、寿命を縮めます。つまり、マジックポイントをマジカルレインで補給しながら、回復魔法と肉体強化を同時に使うという戦法を取っていた私はより被害が甚大なのです。

 私は今までの戦いの中で、かなりの寿命を削っていた。そして、これからも削っていく。

 その事実に震えました。単純に死ぬのが怖く、また、幸せな時間が失われていくであろうという事実が私の心を傷つけました。

「そんな、なんでそれをこの世界の人たちには教えないんですか?」

「本来、神というものはそんなに世界に干渉するべきじゃない」

「じゃあ、今私にこんなに干渉してくるのはおかしいですよね。どういうことですか?」

「……」

「答えられないんですね」

 まあ、それを知っていたところで、戦わねばならぬ運命に私はあったのですが。

「話を戻そうか」

 戦えば戦うほど寿命が縮んでいく。そのことについてはなぜだか納得してしまっている私がいます。だからといって、それを受け入れるだけということは私にはできないので何とかする方法を考えなくてはなりません。すべてが終わった後に、凛さんと一緒に幸せな生活を営む時間が減ってしまうなんてことは是が非でも避けたいのです。そう思っていた矢先、

「だが、君の闇覚醒により生み出された肉体はそうはいかない」

「そうはいかないって……マジックポイントのダメージを私は受けないってことですか?」

 そうなら、それ以上のことはありませんが……。

「ああ、受けない。だが、そのダメージは絶対に打ち消すことはできない」

「……?」

 何を言っているのかがわかりません。ダメージを打ち消すことはできないのに、私は受けない?

「簡単な話だ。君が受けるべきだったダメージをこの世界の誰かが受ける。それだけだよ」

「それだけって……」

「闇覚醒は自分勝手な力。だから、無限のマジックポイントを使おうとも、君自身に悪影響を及ぼすなどと言うことは絶対にない。しかし、その代償により縮む寿命は長い。具体的に言えば一秒の使用で、ひと月分だ。さっきの戦闘は闇覚醒してから、一分ほどで決着がついたが、そこで、誰かの寿命が五年縮んだことになる」

「……」

 そんな情報を聞いて、尋ねることはただ一つ。

「それの対象に凛さんは含まれますか?」

「ふん、いい質問だね。それに含まれない人物は、使用者である君と、佐倉凛、だけだ」

「安心しました」

 凛さんに影響が及ぼさないなら、関係ない。どこの誰とも知らぬ人間の寿命が縮もうとも、それは私にとってはどうでもいいこと。

「微塵もショックは受けないと。さすがだな」

「これもあなたの思い通りですか」

「どうだと思う?」

「さあ、神様の考えることが人間にわかるわけありませんものね」

「もうお前は人間じゃないがな。いや――」

 神は笑いました。すべてが思い通りになっているという喜びを含めた笑い声でした。

「君に世界は救えなさそうだ」

「は? あなたがそう思っているだけでしょう? 私はシュワナを取り戻して、凛さんと一緒の生活をするんです。この未来は確定事項なんです。誰にも、止められやしませんよ」

「……確かに君の闇覚醒は様子がおかしい。だがな、神になしえぬことなどないのだよ。自分勝手な悪魔さんよ」

「なんとでも言えばいいのでは? 大体、制御できないから、私にわざわざ話に来ているんでしょう? 私が既にあなたの力の及ぶ範囲を超えているから、こんなことしているんですよね?」

 そう。神は、人の心に侵入し、思考を変えることができるのです。にも拘わらず、彼は私にわざわざ話に来ています。なぜならって、その必要があるからに決まっているからじゃないですか。

 つまり、私は神によって制御されていない、ということになります。

「図に乗るのも大概にしろよ。仮に、私が君の心に侵入できなくても、君の心は読めるし、君を私の思い描く方向へと動かすことは至極簡単なことなのだ。お前は私の掌のうえなのだよ」

「そうですか。なんとでも言えばいいですよ」

「お前もな、化け物が」

 そのあとに、神は確かにこう言ったのです。

「最初から人ではないくせに」


 世界は一気に暗くなり、またはっきりしていきました。一旦暗くなると思うと、今度は明るくなっていきます。

「朝……?」

「そうですよ、朝ですよ! もうシュワイヒナさん、いつまで眠っているんですか? あれ使ったせいですか?」

 テールイが心配そうに私の顔を覗き込んできました。

 私が眠ったときはまだ夕方だったはずです。よっぽど長い間眠っていたようですね。

 私以外のみんなはテントを立てて、そこで眠っていたようでした。私だけ、馬車の中で眠らされていたようですね。

 放置されてた、という表現が最も正しいとは思いますが。

 それにしても、魔法を使わないテールイは私より長生きするのでしょうか。守られているだけのアレウスさんも私より長生きするのでしょうか。

 なんだか、頑張り損のような気がします。

 本当は発狂したい。本当は文句を言いたい。でも、誰に? 神に文句を言ったって、あいつが何かを変えることはないでしょうし。

 だから、そのことはもう気にしないことにしました。これだけ、体を酷使し続けて、長生きしようだなんて、それも変な話だと思ったのです。

 それに、今を生き残らなければ、先はないのですから。

 たとえ、私が早く死のうとも、そのとき、後悔がなければいいと思うのです。自分は幸せだったな、とやりきれたならば、それが一番だと思うのです。だ

 だから、寿命を縮めてでも、私は私の幸せを手に入れるために、力を使い続けます。幸い、闇覚醒では寿命は縮まないみたいですから、むしろ良かったのかもしれません。

 酷使により、どこかの誰かが死のうとも、そんなこと私にとっては関係ありません。きっと、その犠牲者もそこが寿命だったと、諦めてしまうでしょう。

 マジックポイントにより寿命を縮めてしまった者たちが、自分たちがもっと生きられたことを知らなかったように、彼らも、どこかの誰かのせいで自分たちの時間を奪われたことには気づかないのです。

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