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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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第三十七話 自分よりも

 動かなければ、私は兵士たちに斬られてしまう。しかし、それでも私は動くことができなかった。本当なら逃げ出したい。本当なら、私が生き残るために桜さんを犠牲にしてでも動くべきだった。でも、そんなことはできない。桜さんを失えば、その瞬間に私たちの敗北が決まってしまうのだ。

 だが、ここでじっとして殺されるべきなのか? 

 あと一秒もすれば、兵士たちに追いつかれてしまう。それまでの間に策を練るんだ。

 私の残りマジックポイントは一。これでは魔法も肉体強化も使えない。だから、私のできることは接近して、相手を倒すことのみ。しかし、それまでに桜さんの首は掻き切られてしまう。

 何もできないのか? こんな状況を切り抜ける方法など、今まで一度も見たことも、聞いたこともない。こんなことなら漫画やら、時代劇やらで予習しておけばよかった。だが、そんな後悔をしても、状況は変わらない。

 もうすぐ後ろに人の気配を感じる。そして――

「えっ?」

 全ての兵士の動きが止まった。なぜ?

 辺りを見渡す。今になって気づいたことだが、アンさんもシュワイヒナも立ち止まってしまっていた。

「さて、交渉をしようか」

 シトリアだった。彼女が動きを止めた。

「私のマジックポイントもうほとんどないの。だから、交渉をしましょう」

「交渉だと……」

 アンさんがため息をついた。

「もう、お前の言いたいことはわかった」

「そう、さすがわね『見透かす目』。こちらの要求をのめば、この人は解放してあげる。まず一つ目。シュワイヒナ。マジカルレインを私に使いなさい。二つ目、凛。あなたの命、もらうわよ」

「なっ……!」

 今、なんつった。この人。命をもらうって……

「そんな要求のむわけないでしょ。シトリア」

 シュワイヒナはすぐに否定した。だが、シトリアは

「えっ、いいの? この人失ったらあなたたちの負けは確定するわよ」

「それは……なんで凛さんなんですか?」

「さあ、なんでそんなこと教えないといけないのかしら」

「教えろ」

 明らかに激昂していた。今の彼女なら桜さんが人質に取られていなければ、間違いなくシトリアを殺している。

「あらあら、そんなに怒っちゃって」

 ふふふと笑った。

「何がそんなにおかしいの」

「いや、あなたは本当に性格変わらないわね。全部凛さん、凛さんってバカみたい。そんなに大事なの?」

「殺します。覚悟してください」

「えっ。いいの? 凛はよくなさそうだけど」

 私のほうを見てくる。

「ねえ、凛。桜さんがやられるくらいなら、自分が死ねばいいって思ってるでしょ」

「……ええ」

 そうだ。私のこんな命くらい、いくらでもくれてやる。それで人が助かるならば、惜しくはない。

「ダメですよ。凛さん、あなたが死ぬわけにはいかない」

「……だが、それを思っているのは君だけのようだよ。シュワイヒナ」

 アンさんは悔しそうに言った。

「……凛は死にたがりだからな」

「……なんで、それを」

「心の奥底に隠していたとしても、君はそういうの隠しきれる性質じゃないからな」

「そんな凛さん……なんで」

「もっとも、最近はそんな様子もなくなったが。だが、君は自分なんかよりもシュワイヒナには良い人がいるとも思っているだろう」

「…………」

 私の心の奥の、奥のさらに奥の欲望。人には知られたくない――特にシュワイヒナには知られたくなかった隠していた感情。

「なんで……私にはあなたしかいないんですよ!」

 シュワイヒナの叫びが耳にこだまして、心を貪っていく。

「やめてよ……そんなの……私は……私は……」

 必要のない人間。戦術? アンさんがいればいい。やさしい? 私より優しい人間なんてこの世にはいっぱいいる。それに優しくなかったから、クラスでも孤立したんじゃん。

「ねえ、シトリア。私が死ねば、それで桜さんを解放してくれるんですよね」

「ええ、その前に、シュワイヒナにマジカルレイン使ってもらわないとね」

「いやです。凛さんの命も、マジックポイントも渡しません」

「へえ、じゃあ、この人殺すね」

 桜さんの首元からたらりと血が流れた。刃の先が首に触れたのだ。

「待って!」

 私は彼女に近づいていく。

「ねえ、それ以上近づいたら殺すよ」

 刃を桜さんの首にとんとんと触れさせた。桜さんが苦しそうな表情を浮かべる。

「だめ、凛……」

 彼女はそういうものの、私が死ねば、状況が変わることはわかっているはずだ。

「分かりました……使えばいいんですね。マジカルレイン」

 シュワイヒナははそう言った。その表情は憎しげで、悔しげだ。そして、その瞬間に、私は「作戦」の成功を確信する。

 走れ。

 私も、アンさんもシュワイヒナも走り出した。

「ちょ、じゃあ殺すか」

 シトリアがその刃を今、突き刺そうとする――

「できるならね。ワープ」

「マジカルレイン解除」

 シュワイヒナと桜さんの声が同時だった。桜さんは一瞬でそこから消え、後ろに戻る。

「さて、決着ですね。王流剣術第参法温情」

「岩魔法アースロック」

 岩により、シトリアの視界は遮られる。そして、彼女の目の前に突然現れたシュワイヒナはシトリアにとっては唐突に現れたかのように見えたろう。

 異常なスピードで彼女は一連の手順を使った。

 そして、その後ろには私がいる。これも作戦通り。倒れそうになるシトリアを後ろから剣の柄で支える。

「何が起こってるの……」

 呆然とし、されるがままのシトリアはそう尋ねた。

「あなたの作戦は既にお見通しだったのよ」

 桜さんが答える。時は二時間前に遡る……


「シトリアの作戦が割れた?」

 私が、思考の過程を話すと、桜さんはそう問いかけてきた。

「はい、彼女の性格と、能力、それらをすべて考えたときに、彼女の取る道はもう一つしかありません」

「また、随分と言い切ったね」

「はい。まず、私たちの作戦が成功したら、彼女がとる作戦は固有スキルの使用による兵士たちの復活です」

「それはしてくるだろうね。それで?」

「それは私の風魔法をマジックポイントの使用を増やすことにより発動させる超突風で乗り切ります。それでそれを使うまでの間に桜さんはワープを使って、逃げるであろうシトリアを追いかけてください」

「逃げるの? 本当に?」

「はい、逃げると言っても、彼女には報告の義務があるはずですから。次に桜さんは、こんな役押し付けて悪いんですけど、できるだけ肉弾戦を避けて、一旦、体力を減らしてから、彼女の固有スキルを受けてください」

「えっ……いや、まあいいわ。最後まで聞きましょうか」

「聞いてくれるんですね。まあ、まず彼女とて、同時に二百五十人を動かしたときのマジックポイントの消費スピードは大変なことになるでしょう。ですから、その辺りではすでにマジックポイントの残りは数少ないはずです。だから、マジックポイントを欲するはずですよね。そうするとこちらには都合のいいことにシュワイヒナのマジカルレインがあるじゃないですか」

 黙って、聞いていたシュワイヒナがその言葉に反応した。

「確かに、私の固有スキルはベンチって言えば便利ですからね」

「シュワイヒナさあ。マジカルレインのシステムについて詳しく教えてくれる?」

「いいですよ。私の固有スキルは発動から三十秒で自動消滅します。それに――凛さんはこの情報が欲しいんですよね――私の意思で消滅させれます」

「さっすが、ありがとう。シュワイヒナ」

「当たり前じゃないですか。私は凛さんの欲しいものくらいわかりますよ」

 やっぱり頼りになる。

 彼女に微笑みかけると、少し照れ臭そうに笑って見せてくれた。こんなふうに私が微笑みかけれるようになれたのも彼女のおかげ。

「では次に行きますね。だから、彼女は桜さんを人質にとって、私たちに要求をのませにくるでしょう。桜さんを引き渡すかわりに、マジカルレインを使えと」

「なるほど……でも、それじゃ話は振り出しに戻るだけじゃ……」

「だから、彼女はもう一つ要求します。それはおそらく私の命でしょう」

 少しも動ずることもなく、私は言い切ることができた。そこで、桜さんが

「なんで、あなたの命を要求することを望むの?」

 と尋ねた。ちゃんとそこも考えてある。

「まず、彼女は私が人のためなら、自分の命を喜んで差し出すような人間だったことを知ってます。『コネクトハート』でそこまで探知済みのはず。むしろ私が死にたがってたことも。だから、彼女は私なら命を捨ててくれると思うでしょう。だとすると、確実にシュワイヒナは彼女を殺しにかかるでしょう。ね、そうでしょ。シュワイヒナ」

「当たり前ですね。本当に殺しやがったら、私はもう我慢できません」

「うん。ありがとう。嬉しいよ。それに、シトリアはその性格を知っているでしょう。その時、彼女の視点からすると、手ごまには二百五十の兵士と、桜さんがいます。それで、桜さんとシュワイヒナを始末できます。あとは能力が『見透かす目』と多数を相手にできない能力保有者のアンさんだけになります。だから、彼女が注意するべきことと言ったら、アンさんにそれを知られないようにすることだけでしょうね」

「うーん。なるほど。それはそうかもしれない。でも、そんなのどうやって切り抜けるの?」

「桜さん、回復魔法使いですよね」

「あ、そういうこと」

「はい、マジカルレインはシュワイヒナを中心に発動させられるんです。だから、近づいた時、桜さんはそれをシトリアよりも先に、受けれますよね。そのタイミングで回復魔法を使って、彼女の固有スキルの解除をしましょう。彼女の固有スキルの発動条件は相手の『抵抗不能』ですから。そして、ワープを使って、彼女の元から抜けれれば、もう勝ちですね。シュワイヒナはマジカルレインを使っているため、彼女のすぐ近くにいます。そして、私もすぐ近くまで来ています。その状況を彼女が乗り切るのは無理ですね」

「なるほど……その作戦が失敗したときはどうするの?」

「これから話しますよ。でも、これが基本の作戦だと思っててください。それで勝てます。あと、できるだけ動揺とかは隠さないで、相手に自分の状況を間違えさせて、感覚を狂わせれば、きっとうまくいきますよ」

「じゃあ、もし作戦が失敗すれば、私が言おう。ちゃんと彼女の心の余裕を見ておく」

 アンさんの心強い一言も加わった。これで勝てる。


 で、結局、物事は思い通りに進んだというわけだ。

「じゃあ、しばらく眠っておいてくださいね」

 シュワイヒナは満面の笑みを浮かべながら、そう言う。そして、剣を地に置き、彼女を殴った。あまりのスピードにどこをどう殴ったかすら、分からない。ただ、彼女は気絶していた。

「だいぶ、強めにしたんで、しばらくは目、覚まさないですよ。罰が当たったんですね」

「じゃあ、この子どうする?」

「とりあえず、全員捕虜として、連れて帰りますか」

「そうね。ちょっとシュワイヒナ、マジカルレイン。お願い」

「はいはい」

 そして、シュワイヒナのマジカルレインを受けながら、桜さんは全員をワープで砦に運んだ。

 ところで、今初めて知ったことだが、ワープは触れていなくてもできるらしい。その時は地面もごっそり持っていくらしいけど。

 それから、私たちは持ってきていた紙をそこからシュワナのほうに二キロ離れた場所の木に、大きく立てかけた。その紙は特殊な方法で補強してあるため、簡単には破けない。

「これで、完了ね」

 書かれている文字は「宣戦布告」

 私たちが、宣戦布告をせずに軍隊を襲ったと相手に思われなければいい。それだけだ。気絶している彼女にはどれだけの間、気絶していたかのような時間はわからないし。

 彼らも今、どんどんこちらへ向けて、動いているようだ。そのスピードは驚異的で、もうあと一日もすれば、彼らはここにたどり着くらしい。シュワイヒナの話によれば、シトリアは一日以上は気絶しているだろうということだ。それに、あの辺はどんどん毒が広がって、動物も寄り付かないらしい。

 最初の作戦はこれで完全に成功だ。完全に思い通りに物事が運んでいる。それに今日はあとミルアのところに行けば、仕事は終わりだ。

「そういえば、凛さん。死にたがりってあれ嘘ですよね」

「嘘だよ。当たり前じゃん」

 心からの一言だった。まだ死ぬわけにはいかない。この世界で一番愛する者ができたから。

次回投稿は十月二十六日になります

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