第二話 変化
それからは恐ろしいスピードで毎日が進んでいった。西へ進んでいった。ある程度進むと、森の中に川が流れていて、それで水分を補給したり、水浴びをしたりした。また、道中にあった村に残されていた畑などに生えていた植物や、鳥や魚などを食べた。
加えて、道中仲間が出来た。弓使いのおそらく私よりもまだ幼い緑の髪の少女アリシア、回復魔法の使い手で金髪のまだ二十代前半のはずなのに妖艶な雰囲気を纏っているシトリア、重剣使いの女騎士カリア。この三人が私たちの仲間としてついてくるようになった。
はっきり言っておそらく全くもって必要がないのだが、この人たちが納得してるならまあいいのだろう。皆一人で生きてきた人で殺されそうになってるところを助けてもらったのだから、恩返しをしたいのだと思う。まあ、おそらくそこにいるだけで祐樹にとってはいいのだろうが。女性側も祐樹に好意を持ってそうだし。
ただ、不思議な点としては全員が全員美少女である。ここまで来ると恐怖を感じるが、おそらくこの世界の女性はみな美しいのだろう。そうに違いない。とすると場違いな気がするが、それは深く考えてはいけないことである。
私はこのことについて、何やら奇妙な感覚を覚えた。というのはどこか嫉妬にも似たような、憎悪のような、そんな負感情だった。はっきり言えることだが、私は祐樹には最近まで、あまり興味がなかった。実際、祐樹がいなくなると困るのだから、興味がないと言う訳にもいかないのだろうが、実際そうなのだから、しょうがない。それに加えて、私は祐樹に対して恋愛感情を抱いていないと断言できる。だが、最近は祐樹に対して、先ほど述べたような負感情を抱くようになった。その原因が何かは少しも分からない。ただ、日に日に、それも祐樹が女の子たちと仲良くなっていくたび、私の負感情は強くなっていった。しかし、これは私の問題だ。私が何も言わなければ、誰も気づかない。そう思っていたから、大きな問題とはしていなかった。
そして、シトリアから興味深い話を聞いた。この世界には魔法があって、祐樹は炎属性の魔法、シトリアは回復魔法が使える。魔法には炎属性、水属性、風属性、土属性、回復魔法の五つがあるらしい。あと、ごくごく稀に特別な魔法を使える人もいるらしい。ただ、それがどんな魔法かはシトリアも知らないらしかった。で、それらはマジックポイントというものを消費して使うらしい。ちなみに祐樹のマジックポイントは無限大だ。また固有スキルというものがあり、使える人自体はとても少ないらしいのだが、その固有スキル名を叫ぶことで特殊な能力を発動できるらしい。シトリア、アリシア、カリアは三人ともそれが使えるそうだ。まあ、どんな能力かは教えてくれなかったが。ただ教えてくれなかったからと言ってそれが必要になる場面なんて来ないだろう。そう思っていた。
三週間が過ぎたころ、私たちは海に出た。それからは海岸線に沿って歩いて行った。そして、海岸線を歩き始めて二日で、私たちは魔王の城にたどり着いた。別にここが魔王の城です、なんて書かれていたわけでもないのだが、それが纏っていた禍々しい雰囲気とその辺りだけなぜか曇り空で、遠くでは雷が落ちているようで、魔王の城だと判断するには申し分なかった。
近くには夥しい数の悪魔が群がっていたが、それらは祐樹の魔法によって一瞬で焼却された。城の中に入ってもまた同じような悪魔ばかりで、簡単に最深部にたどり着くことができた。
「ようやく、来てくれたか。さて、君は私の期待に応えることは出来るかな?」
開口一番、巨体を持つそれはそう言った。今までの悪魔とはぜんぜん違う風格があり、巨大な椅子に座っていた。そして、どこか悲しそうだった。
「てめえが魔王か」
祐樹はにやにやしながら言った。
「ああ、そうだ。さあ始めようじゃないか」
魔王は立ち上がった。
「さあ、本気のお前を見せてみろ」
「いいのか、本気を見せちゃって?」
「ああ、来い」
祐樹は走り出し、魔王の顔面を思い切り殴りつけた。魔王は大きくバランスを崩し、倒れる。
「やるな。お前は何者だ?」
魔王は異常に大きな剣を椅子の後ろから取りだし、言った。
「俺はこの世界で最強らしい。俺に分かるのはそれだけだ」
「ふっ、最強か」
魔王は笑った。
「ならこれを受け止めてみろ!」
魔王は大きな剣を振った。それは祐樹なら避けられる。しかし、祐樹はそこに立ったまま動かない。剣は今にも祐樹の体を切り裂く。
「危ない!」
私は叫んだ。が、他の三人は心配している素振りすら見せない。
「そんなものが俺に通用すると思うか?」
祐樹は言った。そして、祐樹は向かってくる刃物に正面から殴りかかった。
まるでそれが脆いガラスであったかのように、その剣は元がどんなものだったか分からないくらいに粉々になった。
「なんだと……!」
魔王はあまりの出来事に驚いている。しかし、どこか安心しているようでもあった。
「終わりにしようか」
祐樹はゆっくりと魔王に近づきながら言った。
「全力で行けばいいんだよな」
祐樹は拳を握った。
「さっきのはちょっとした肩慣らしだ。今度は違うぜ」
拳は魔王の顔へ振るわれた。魔王の顔は破裂し、それと同時に魔王の体も消滅していく。
「終わったぜ」
祐樹は満足そうな笑みを浮かべた。
あっさりしていた。魔王だなんて呼ばれているいかにも強そうな存在が祐樹には全く歯が立たなかった。やはり彼はこの世界最強なのだろうか。 彼を止めれる人が誰もいなくなったこととそして、今後起こりそうなことに私は恐怖感を覚え、何だか体が震えた。
それから二週間ほど歩いて私たちはこの国の首都ライゼルツにたどり着いた。そこにはまた大量の悪魔がいたのだが、全て祐樹によって駆除された。そういえば悪魔を倒すたび、アリシア、シトリア、カリアの三人に経験値というものが入っているそうだ。それが溜まっていくとレベルが上がるらしい。
宮殿に入ると、そこには王の娘、シュワイヒナ・シュワナがいた。私と同い年らしいが、見た目は幼く、とてもかわいらしかった。正直三つ下と言われても、何の違和感もなく受け入れていただろう。髪は綺麗な銀髪で、豪華とは言えないが、地位と品格を感じさせるドレスを身に纏っていた。だが、それも苦しい日々を送っていたからか、薄汚れていた。
とりあえず、彼女を見ていると、つい口元が緩んでしまう。そんな彼女は安心しきったかのような表情で、私達を出迎えてくれた。
「では、父の遺言に則ってあなた様を国王に任命します。魔王討伐ご苦労様でした」
これにより、正式に祐樹はこのシュワナ王国の王となった。私たちの生活も保障されるそうだ。
それからの生活というのはまあ酷かった。
まず、国王になった祐樹なのだが、彼に政治は出来ない。そう私は判断した。それで私たち女勢だけで政治をすることになったのだが、例の三人、アリシア、シトリア、カリアははっきり言って役に立たない。おそらく頭が悪いのか、それとも生きていく術を身に付けていて、面倒なことは人に任せて、自分たちは祐樹に媚びを売っていればいいとばかり考えたのかも知れないかだ。確かに彼女らは魅力的な女性であるから、そうしていればいいのかも知れないが、その面倒事を任せられる方はたまったもんじゃない。だが、文句を言ってても何も解決しない。というわけで良識人だったシュワイヒナと私で政治を進めていった。
最初に手を付けたのは復興だ。そのためにはリーベルテに行った国民に戻ってもらわなければいけなかったし、産業も発展させなければいけないのだが、これが難しい。
それに悩み始めて事態が膠着してから一か月が経った時、リーベルテの国王を名乗るものが訪ねてきた。
その男は名を葦塚湊と言った。そばには彼の妻であるという葦塚桜という人がいた。湊さんと桜さんはまさに日本人のような見た目をしていた。案の定彼らは日本からやってきた日本人だった。しかし、彼らもまたなぜ自分がこのような世界にいるのか分かっていないようだった。
私もこの国にある資料でいろいろ調べているのだが、闇覚醒やら中二病的単語が当たり前のように載っているのに加えて意味の分からない単語が多すぎてまともに読み進められない。ただ、日本語で書いているだけまだ理解は出来る。この世界では――というよりこのシュワナとリーベルテの二国が存在している島、リデビュの上では日本語が公用語らしい。ただ、日本語ではなくリデビュ語という名前だ。
「君たちの国に支援をしてあげよう」
話を戻すと、湊さんは私達にそう提案してきた。
「とりあえず一年分の国民の食糧は保証してあげよう」
この一言が状況を一変させた。
それからは着々と国の復興を進めていき、産業の発展、国民の増加、これらのことがものの六か月で成し遂げられた。
それが祐樹をおかしくしてしまった一因とも捉えられるだろう。
年が明けた三月、祐樹は唐突にある法律を設定した。
「反逆法」
反逆者と国王がみなしたものの人権を奪えるというものだった。これには私は反対するべきだっただろうし、実際に反対した。だが、なにぶん、忙しく、また、私の気づかない内に事は進められていて、止めることはできなかった。また、祐樹が軍を作り始めていたことにも気づかなかった。
四月一日、私とシュワイヒナ、シトリア、カリア、アリシア、そして祐樹の六人での会議が開かれた。
「俺たちのシュワナは今じゃ信じられない速度で発展を続けている――」
祐樹はこう始めた。そして、
「俺たちの国はこれからも発展し続けるだろう。そう考えた時に、この国はちと狭くないか?」
確かに狭いようにも思える。感覚が私たちの世界だったからかもしれないが、この国は九州程の大きさだ。
「リーベルテの国土は俺たちの国の三倍あるそうだな」
「えっ! そうだったの!」
とシトリアが驚いた。もう二十過ぎてるのに政治に微塵も参加せず、毎日遊んでいるばかりだったからだろうと言おうとしたが、やめた。
「そうだ。三倍もあるんだ」
祐樹はそのシトリアの反応が嬉しかったようだ。よく分からない。
「それでだ、俺たちがリーベルテも治めてしまえばいいんじゃないか?」
彼は確かにそう言った。
「え……何言ってるの?」
私が尋ねると、
「なんだ? 悪いか?」
と明らかに不機嫌そうになった。分かりやすい男である。そしてその時、ここで祐樹を止めておかなければいけないと私の直感が訴えかけていた。
「どうやってリーベルテを手の内に収めるつもりなんでしょうね」
分かっていたが聞いた。
「戦争だ」
「ばっかなんじゃないの!」
分かっていたことだが本当にそんなことを言うとは心の奥底では思っておらず、思わず大声を出してしまった。
「バカだと、この俺がか、てめえなめてんのか?」
「バカでしょ! 何が戦争なの! そんなことしたらどれだけの人が死ぬと思ってんの!」
「いっぱい死ぬだろうな。だが、それがなんだ」
「それがなにって……みんな大切な人がいるのよ。悲しむ人もいっぱいいるのよ。どうして悲しむ人を作る必要があるの!」
「てめえ、俺に刃向う気か?」
「ええ、刃向うわ。犠牲者を出すわけにはいかないもの」
「へー、でもなその犠牲者とやらはお前の知らない奴ばっかなんだよ。だったらいいじゃないか」
「よくないわ! あなたには心がないの!」
「心はもちろんあるさ。あのときだってお前の力になりたいと思ったから話しかけてやったんだぞ」
「――!」
それを言われるとは思っていなかった。あの時の祐樹は優しかったはずなのに。
そうだ。私はまだ祐樹があのときのまま、心優しい人だと思っていた。
「あなたは……あなたは変わってしまったわ」
「凛さん……」
シュワイヒナの声ではっとなった。気づけば私は頬を涙で濡らしていた。
「もういい。お前は反逆罪で人権をはく奪する――」
「ダメです!」
シュワイヒナが叫んだ。
「凛さんがいなくなったらこの国はどうなっちゃうんですか! あなた達に政治はできないでしょ!」
「別にこんなやついらない。俺一人でもやっていける」
「そんな……それが今までずっと頑張ってくれてた人への仕打ちですか!」
「俺のために働かないやつはいらないんだよ!」
ここまで傲慢な奴だったのか。もうどうしようもない。もう私が何を言っても無駄なのだ。
「分かりました。出ていきます。この国を」
私はそれだけ告げ、部屋を出て行こうとした。
「待ってください!」
シュワイヒナだった。私は振り向いて
「シュワイヒナ、もういい。こんなやつのそばに私だっていたくない」
と言った。これ以上、この男といられない。それが私の本音だった。
「だったら、私もついていきます」
シュワイヒナはきっぱりと言い切った。
「祐樹さん、私がいなくなったって政治は出来るんですよね。なら私もこの国を出ていきます」
それは今まであんなにおとなしそうで幼かった少女の言っていることとは思えなかった。そして、私はそれを拒みたくなかった。
「分かったわ。シュワイヒナ。行きましょう」
シュワイヒナは微笑んだ。その姿は信じられないほどに可愛かったし、私の目には救世主のように写った。
私たちは兵士に連れられて国境の森へと三日かけて連れて行かれた。
「この森を抜けるとリーベルテだ。行け」
それだけ言って兵士は帰っていった。三日の旅の中で彼らはずっと冷たかったなと思った。
「さて、行こうか」
この森は湊さんの話によるととても広いらしい。ただの少女二人で抜けられるか不安ではあったがそんなことは言ってられない。もう引き返せないところまで来てしまったのだ。
今後のことはどうなるか少しも分からない。でもあんなところにいるよりかはましだ。人殺しの仲間になるだなんて、戦争を首謀したものの仲間になるなんて絶対に嫌だった。
不安で胸が張り裂けそうだったが、甘いことは言ってられない。私はシュワイヒナとしっかり手を握って森の中へ踏み出した。
次回更新は九月二十一日です