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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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第二十三話 記憶

 一月のことだ。当時、人を疑うということを知らなかった私はシトリアのことを信用しきっていた。それで、シトリアの固有スキル「コネクトハート」の発動条件を満たしてしまっていた。だから、私はシトリアに操られる傀儡になっていた。彼女は祐樹の言うとおりにならない私やシュワイヒナを邪魔に思っていたようだ。だが、シュワイヒナはシトリアのことをまったく信用していなかったようだ。それで彼女の固有スキルの力を受けることがなく、私だけが彼女の固有スキルの効果を受けることになったのだ。で、そんな私の仕事、それはシュワナにいる固有スキル使いへの「教育」だった。

 国内にいた八人の固有スキル使いが招集された。少年、少女、大の大人といろいろいた。そのうちの半分、四人は最初から戦うことに抵抗がなかった。そのため、私は残りの四人の教育を担当していた。

 ラン、ルン、エリバ、ミルアとそれぞれ名乗っていた。皆、まだ若く、魔王の襲撃を生き延びてきた人たちだった。ランとルンの固有スキルは「ザ・ストライク」。十五歳の少年、エリバは「チェンジ」、確か物体と物体の場所を入れ替えるという能力だったはずだ。そして、十三歳のかわいらしい少女、ミルアの固有スキルは「キュートブレス」、催眠効果のあるガスを操るものだ。それらについて私は詳しくは知らない。実際に彼らの固有スキルの特殊効果を受けたわけじゃないし、誰かに使っているのも見たことはないからだ。それに私が彼女らの固有スキルの効果を詳しく知る必要はなかった。ただ、祐樹がそれを知っていればそれだけでよかったのだ。

 繰り返しになるが、私に課された仕事は教育という名の洗脳だ。それをするために感情の消滅したただの人形であった当時の私が使われたのだ。その洗脳というのは人の弱音につけこむ非道なものだった。

 彼らは皆おびえていた。それも当然だろう。あるものは親が目の前で殺され、あるものは仲間が目の前で殺されたのだ。それにほかの人たちも逃げるのに必死だったためか、彼らをいいように使ったのだろう。そのためか彼らが見つかったときは服も失いかけていたという。しかも食べるものにも困っており、非常にやせ細っていた。また、全身に傷を負ってそれはもうかわいそうな様子だった。そんな彼らにまだ傀儡になっていなかった私は気を使って早く社会復帰できるようにしていて、彼らも私のことは信用してくれていたのだが、それもまた私がシトリアの傀儡にされた理由になるのだろう。

 そのおびえていた彼らに私が――シトリアや祐樹たちが彼らに繰り返し言い聞かせたことはただ一つだ。

「自分たちを傷つけた世界は君たちにとっては敵でしかない。だが、私たちは君の味方だ。私たちはこの世界を変えようと思っている。だから君たちも協力してほしい。手始めに隣の国のリーベルテを変えようと思っている。私たちの言うとおりにすれば、君たちはなんの不自由もない暮らしを手に入れることができるし、傷つけられることはない。でも協力しなければまたこの残酷な世界が君たちに牙を剥くだろう。選択は君たちに委ねられるが、答えは一つしかないだろう」

 このようなことを私は毎日毎日繰り返し、彼らがうなずくまで言い続けた。協力するといったものはすぐに良い暮らしをさせた。彼らは私のことをよく信用していたからそれはそんなに時間はかからなかった。逆に彼らは自分たちが救われたと思った。そして、自分たちが世界を変えれるという状況に喜び、快楽を得て、何の疑いもなく私たちに従った。

 シトリアの固有スキルの効果は同時に多人数にかけられるものではない。だから、祐樹たちはこの方法をとったのだろう。そして、私は祐樹たちの願うがままに動いた。

 でも、その状況を看破した人がいた。シュワイヒナだ。彼女は私の様子がおかしいことにいち早く気づいたようだった。シトリアは私のすることをだいぶ、本物の私に近づける努力をしていたようだが、シュワイヒナの前には無力だったようだ。シュワイヒナは確実に私を救うため、証拠を着実に集め、ついに三月のはじめ、私をシトリアの支配から解き放った。

 シュワイヒナはシトリアに証拠を突き付けたが、結局最後は武力行使に頼ったようだ。私はその様子を見ていて、とても嬉しかった。私は傀儡となっているといっても意識はあったため、私のしていることをすべて見ていた。その時の私といえば、ありがちな言葉で言えば、壊れていた。自分が若い少年少女の人生を狂わせていることへの罪悪感で頭がどうかなっていた。だから、シュワイヒナに救われて私はもうこんなことはしなくていいのだと、本当に安心したのだが、それでも罪悪感は消えなかった。だから、私がシトリアの固有スキルを解除されたとき、私はそのままそこに倒れて、泣き叫んだ。そして、私は自殺を図ろうとした。だから、シュワイヒナはシトリアに私の記憶を消去するように頼んだ。それをシトリアは快諾した。そのことがおかしいことに気付くべきだったのだが、私が死のうとしているのを見て、シュワイヒナもそこまで考えが及ばなかったのだ。

 今思うと、私とシュワイヒナは祐樹たちの掌の上で転がされていたんだろう。私は思うがままに操られ、シュワイヒナも間接的ではあったが、操られていた。そして、彼も私の性格をよく理解していたから、自分がどういうことを言えば、私が反対するのかわかっていたのだろう。だからこその反逆法だった。彼は用意周到だった。自分の掌の上ですべてが繰り広げられていくのはさぞ楽しかったことだろう。彼はその享楽を受け入れるとともに、リーベルテをわが領土とするために着実に準備を進めていたのだろう。

 そして、私たちはあの日、シュワナ王国を出て行った。そして、リーベルテの情報を祐樹たちに渡してしまい、情報面において、圧倒的な有利を与えてしまった。それは全部私の失態だった。シュワイヒナもそのことに気づいていたのだろう。でも、それを解除してしまうことが私の記憶をもとに戻すことに気が付いてしまった。だから、何も言えなかった。その間に、アンさんが彼女の思考を読み取り、彼女のかわりにそれの解除を行おうとした。

 ようやくすべての辻褄があった。私だけ置いてけぼりにされていたような感覚だ。だが、そんな感情は、記憶が戻ってきた直後は少しも起こらなかった。すべての辻褄があってすっきりしたなどという感情も私の中にはなかった。私もれっきとした人間であり、人間としての感情を持つものなのだ。私の中にあった感情はただ一つ――絶望などという言葉では生ぬるいほどの罪悪感だった。


「ああああああああああああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああ!」

 記憶が戻った私はベッドの上でただただ絶叫した。私が人を殺したかのように思った。私がシトリアのことを何も考えないまま信用しなければ、私が彼女の固有スキルを受けなければ、こんな事態を引き起こすことはなかったはずだ。全部私が悪い。私がルンを殺し、ランの記憶を失わせ、ボブラさんを悲しませた。それにリーベルテに情報を漏らし、リーベルテを圧倒的な不利な状況に追い込んでしまった。私は祐樹の掌の上で踊らされた。思考が弱すぎる。人を疑わなさすぎる。そんなにすぐ信用してしまって、私は自分では気づかなかっただけで相当な寂しがりやだった。私なんて死んだほうがいい。いるだけで周囲に迷惑をかけて、人を傷つけていく。そんな私なんてこの世にいないほうがましだと思った。

 私は謝罪のような、助けを呼ぶかのような、許しを請うかのような、言葉に形容しがたく書き起こすことができない叫び声をあげた。

「凛さん! 落ち着いてください!」

 そう言って、シュワイヒナは私の肩をつかんだ。朧げな視界の中にシュワイヒナの美しく透き通った目が映る。その目は間違いなく人を心の底から心配している優しい目だった。その優しさに触れて、私は我慢ができず、シュワイヒナを抱きしめてしまった。

「ごめん、ごめん、ごめんごめん」

 シュワイヒナの胸の中で、ひたすらに謝罪の言葉を繰り替えす。彼女の肌は透き通り、触れるだけで人の心を安心させるような肌だった。そして、彼女は彼女の胸に顔をうずめた私に何も言わず、ただ背中をポンポンと叩いてくれた。それでも涙は止まらない。何も考えられない。また、過呼吸気味になっているのかめまいがして、動悸もする。

「凛さん……」

 優しい声が聞こえるが、それすらも届かなかった。助けが欲しいくせに助けの声は聞こえなかった。それだけ追い詰められていた。たった一つの記憶でおかしくなってしまうくらい私の心は弱かった。そのことを思い知らされた時、劣等感を感じてしまう。シュワイヒナはもっと苦しい思いをしているはずなのに人を気に掛けることができるのに私ときたら……

 怖くて辛くて、吐き出しそうだった。胸の苦しみは強くなっていく。

 ぎゅっとさらに強く抱きしめられた。

「凛さん、落ち着くまでずっとこうしてていいですよ」

 そう耳のすぐ近くで言われた。ピークは過ぎ去って、その声に反応し、またその声に甘えてしまって、私は目を閉じた。

 もう疲れた。泣きつかれた。そのまま私はシュワイヒナの胸の中で眠った。

 

 夢を見た。ランが、ルンが私に話しかけてくる。最初は他愛もない愚痴や世間話みたいなのだった。でも、それはいつのまにやら私への罵倒になっていた。お前がシトリアのことを信用しなければ私たちはこんな目に合わなかったのに。全部知って自分たちが操られていることに気づいたよ。命を落とすことになってさ――記憶を失うことになってさ。あなたのことを救世主だと思っていたのが馬鹿みたいだよ。ねえ、凛、凛、凛、凛、死んで、死んで、死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで。

「あああああああああああああ!」

 私は絶叫して起き上がった。気づけばベッドの上にちゃんと寝かしつけられている。

「大丈夫ですか? 凛さん。汗びっしょりですよ」

「あ……いや、ちょっと嫌な夢を見てね」

「そうですか……これ水です。飲んでください」

「うん。ありがとう」

「いえいえ、これくらい」

 のどが渇いていたからか、私は水をくいっと飲み干した。

「はあ……」

「凛さん、やっぱり見ないほうがよかったですよね」

「そんなこと言ったって起きてことなんだから、その事実は変えられないわけで。私は知らないといけなかったんだよ」

「そうかもしれませんが……まあいいです。少しは落ち着いたようですね」

「うん……」

 そう頷いてみたものの、まだ胸の奥には締め付けられるような苦しさが残っている。

「まあ『少しは』って私は言いましたから、落ち着いてはないんですよね?」

「……うん」

 NOと言っても良かったのだが、シュワイヒナの瞳を見つめていると嘘は言えなかった。嘘が許されないような気がしたのだ。

「凛さん。別に今すぐ落ち着けなんて言わないですけど、これだけは聞いてほしいんです――」

 シュワイヒナはすーっと息を吸った。そして、胸を押さえて、息を吐いた。

「私はあなたのことが世界で一番好きです。この世の誰よりもあなたのことを愛している自信があります」

 そう言った。

「え……あ……その……」

 なんて返せばいいのかわからなかった。でも凄く嬉しかった。とてもとてもうれしい言葉だった。

 シュワイヒナは私の頬に両手平で触れた。そして、顔をぎゅっと近づける。

「凛さん。あなたの本当の気持ちを教えてください」

 私の感情――なんだ? 恐怖、罪悪感、それと、それと――

「好き……」

 シュワイヒナが安心したようににっこりとほほ笑んだ。そして、

「なら、こうしてもいいですよね」

 と言った。何をしてくるのか馬鹿な私でもすぐに理解できた。涙でぼやけた視界の中の彼女の顔がさらに近づいてくる。

 私は目を瞑った。

 次の瞬間、唇に柔らかい感触が伝わった。

次回更新は十月十二日です。

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