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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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第二十話 元へ

 昨日はここ最近の中で一番疲れていたからよく眠れた。寝すぎた。朝起きたらもう八時を過ぎていた。私はベッドから降りて、ポストを見る。ポストには一枚の紙が入っていた。

「今日は会議に来なくていい。ランの父親の所へ行ってきなさい 湊」

 と書かれていた。

 シュワイヒナはまだ目を覚ましていなかった。無理やり起こすのも悪い気がしたし。今日は休みだったからいいかなと思って私は制服に着替え、朝食に向かった。

 ひとりで朝食をとった。地図によると、ここからランの父親の家まで四十キロあるらしい。桜さんの手を借りるわけにもいかないし、レベルも上がっていたので私は走っていくことにした。あんまり食べたら吐きそうだったから、朝食はたくさんはとらなかった。

 私のステータスは初期の十倍くらいになっているから、そんなにつらくはないと思う。

 私は八時三十分に宮殿を出た。宮殿を出てすぐに昨日の影響で焼けた街が目に入った。それを見るだけで辛くなってくる。そこでは復興作業が進んでいるようで、家の立て直しなどを行っていたが、始めたばかりだからかあまり進んでいなさそうだった。

 街の端っこには城門があった。その城門のすぐそばに長い列が出来ていた。

「なんですか? この列?」

 と並んでいた人に尋ねてみると、

「ああ、これ? 知らないのかい? あの城門を通らないといけないから、こうやって毎日つかえてんだよ。それに朝はここに泊まってから帰るやつらが多くてね。こうやって混むのさ」

 と聞いてないことまで教えてくれた。優しい人だった。

 それから私は列に並んだ。意外とすいすい進んでいく。すぐに私も出そうというところに差し掛かった。

「特殊部隊ですか。どちらに?」

 と城門にいた兵士に話しかけられた。

「ああ……ちょっとここに」

 と地図を見せた。すると、その兵士は

「お疲れ様です! 頑張ってください!」

 と言ってくれた。ありがとうとお礼を言って私は街を出た。

 街を出るとのどかな田畑が広がっていた。そんなに日本では――特に東京ではこんな景色はあまり見なかったので新鮮な景色だった。

 そこから走っていくと、ところどころ、獣臭いところもあった。おそらく首都近辺では食糧系の産業が盛んなのだろう。

 かんかんと日差しが照りつけてきて、私の皮膚を容赦なく熱してくる。まだ五月なのに結構暑かった。それに水筒を持ってきて良かったなと本気で思った。

 

 何分経ったかは分からない。見慣れないものがあると人は時間が経つのがはやく感じるものだから、私の時間感覚は狂っているだろう。だから、体感ではまだ一時間くらいしか経っていないようだが、かなり時間は経過しているだろう。

 地図には特徴的な物として、寂れた家と畑と豚小屋と、旗が描かれていた。その旗は彼が切り盛りしている店の名前が書かれているらしい。「ボブラ園」という名前だ。また、近くにはまた他の大きな街の城門があるらしい。そこは主に工業系で発展しているらしい。

 で、その旗が目の前に見える。

 なーんだ。四十キロ結構近いじゃないか。基礎マジックポイントで体がかなり強化されているからだろう。ファンタジー世界さまさまだ。その名前からしてランの父親の名前はボブラらしい。じゃあその人を探さないといけない。

 あたりを見渡すと畑で農作業をしている四十後半くらいの男がいた。

「すいませーん!」

 私がそう叫ぶと、その人は訝しげに私の方を見た。そして、私の方へ歩いてくる。

「兵士がなんのようかね?」

 かなり低い声だった。渋く味があり、私は少しびびった。

「お、女の子か。ちょっとびっくりしたよ」

 失礼な。確かに男っぽい服だし、男っぽい胸だけど私、そんな見た目じゃないはずだ。

「冗談だよ。人を睨み付けるのはよしたまえ。私がボブラだ」

 あ、私、睨み付けてたんだ。そんなつもりはなかったんだけどな。しかし冗談でよかった……え?

「あなたがボブラさんなんですか!」

「ああ、そうだけど」

 もっと若いと思っていた。これこそ失礼かもしれないな。反省。

「で、なんだ。俺は残念だが、君たちに力を貸すつもりはないぞ。戦いはもう嫌いなんだ」

「いや、そういう用事ではないです」

「お、そうなのかい。じゃあなんなんだ?」

「あなたの娘さんであるランのことで参りました」

「ラン――ランが生きているのか!?」

「ええ、今は私たちの宮殿にいます」

「そうか……ルンもそこにいるのか?」

「あ……えっと、それは……」

 言いづらい。亡くなられただなんて、私たちに殺されただなんて。

「そうか……知らないのか」

「いや、知ってます」

「なら、早く教えてくれ」

「…………亡くなりました」

「えっ?」

「昨日のことです。ランとルンが首都で破壊活動を始め、交渉にも応じなかったため、止むを得ず。それで、ルンは亡くなり、ランは全ての記憶を失いました」

「なっ……ふ、ふざけるな! まだ十二だぞ! そんな幼い子を殺しただと! そんなことあってたまるか!」

「ごめんなさい」

「謝罪で済まされるものか!」

 ボブラさんは拳をわなわなと震わせていた。

「許さない。ザ・ストライク」

 ボブラさんは震えていた拳をまっすぐ私のほうに向けて手を開いた。それと同時に白い光線が放出される。突然のことだったが、なんとか体が反応し、右のほうへ体を投げ出す。

「落ち着いてください!」

 そう私が叫ぶとボブラさんは深呼吸をした。そして、

「悪かったな。突然こんなことしてしまって……大人げないな」

 そう優しい声で言った。少しは落ち着いたようだった。

「いえ、私たちが悪いんですから……」

「それで、俺になんのようなんだ?」

「えっと……ランを引き取ってもらいたいんです」

「ランをか……俺にそんな資格はないよ」

「えっ、なんでですか?」

 そう私が尋ねるとボブラさんは私の目をじーっと見て言った。

「ふっ、事情を聴かないと帰らないって目をしてるな。いいだろう。話してやる」

 とボブラさんは何やらかなり深読みをしたようだった。でもまあ都合のいいように話は進んでる。確かに私はNOと言われてすぐに帰るような性質の人間じゃない。

 ボブラさんが「ついてこい」と言ってきたので私はボブラさんの後をついていった。

 すぐそばにあった家に入った。家は一階建てで中はかなり汚れていた。

「ちょっときたねえな。まあいい。そこの椅子に座ってくれ」

 そういわれて私は今にも崩れそうな椅子の上に座った。

 ボブラさんが水を持ってきてくれた。

「そうだな。どこから話そうか。魔王が来た時からだな。俺が住んでいた街はシュワナでも南のほうにある海沿いの小さな村だった。そこに魔王と名乗る異形の怪物とたくさんの悪魔が突然現れたんだ。なんの前ぶりもなく、本当に突然だった。そして奴らは俺たちの街で虐殺を始めたんだ。俺は村を、家族を守るために必死に戦ったよ。その村で唯一の固有スキル使いだったからな。そして俺が戦っている間に家族や、仲間たちを逃がしたんだ。でも、あいつらの数は俺が一人で相手ができるようなもんじゃなかった。だから俺も逃げたんだ。魔王、あいつは本当に恐ろしい奴だった。あいつのレベルは五百らしいな。そんなやつに勝てるわけもないしな。それから隣の村に逃げた。でも隣の村はすでに全滅していた。だから、俺は家族はもっと別のほうに行っていると信じて俺は一人首都に向かった」

 ボブラさんは水をくいっと一気に飲んだ。

「それから、俺は王様に言ったんだ。魔王が現れた。早くしないと国が滅んじちまう。だから魔王を倒してくれって。そしてら王様は快諾してたくさんの軍を引き連れて魔王討伐に向かった。それに俺もついて行った。その道中のことだ。魔王のいるところに近づくにつれ、道に転がっている死体が増えていっていた。その中には俺のよく見知ったやつもいたんだよ。俺の女房もいた」

 ボブラさんの声が弱弱しくなってきた。

「でもランとルンはいなかった。きっとどこかに逃げたんだと思った。そう俺は信じていた。それに死体を見たとき、俺は怖くなった。そして、王の軍勢と魔王軍の戦いはそれはもう一方的なものだった。戦いにすらなっていなかった。悪魔には連戦連勝を続けていたのに魔王はだれも近づくことすらできなかった。俺は死にたくなかった。だから、逃げたんだ。逃げたのは俺だけじゃない。次々と死んでいく仲間たちを見て、兵士たちは次々と逃げて行った。逃げて、逃げて、そしてこの国にたどりついた。道中はつらい道のりで仲間は何人か死んだ。そして、俺はいまその仲間たちとここで農業とかをやってる。これですべてだ」

 ボブラさんはいったん席を立ち、また水をついで一気に飲んだ。

 ボブラさんの話を聞いて、私は私がこの世界に来たばっかりのときのシュワナの様子を思い出した。私にはボブラさんの気持ちはわからない。でも、悲しい思い出したくないものだということは分かった。

「ボブラさん。魔王は退治されました」

「本当か!」

「はい」

「誰がやったんだ!?」

「祐樹という名前の現シュワナ王です」

「そうか……そうなのか……あの魔王を」

「はい。ですが、おそらくランとルンをここに向かわせたのも祐樹です」

「ん? なんだと?」

「彼は固有スキルを使える人物をこの国に向かわせて破壊活動を起こさせたかったのでしょう」

「そうなのか……ルン……そんなことで……なんで……」

 私は何も言えなかった。何を言えばいいかわからなかった。

「そう。今話した通り俺にはあいつを守ることができない。だから俺はランを引き取ることはできない。俺よりもお前らのところにいたほうがあいつにとっちゃあ安全だろう」

「守ることができないって……そんなことないですよ」

「そんなことあるんだよ」

「いえ……ボブラさん。守ってあげれないからって子を持っちゃだめなんですか?」

「あいつにとっての幸せを考えてやってんだ」

「それはボブラさんが決めることじゃないですよ。私はランはあなたのところにいるほうが幸せだと思います」

「なんでだ? なんでそんなこと言えるんだ?」

「ボブラさんがランのことを一番思ってるからですよ」

「そうだ。俺はあいつらの父親だからな」

「父親なんですよね」

 私はじーっとボブラさんの目を見つめる。

「ボブラさん。せめてランの顔だけでも見ませんか?」

 

 私はボブラさんと一緒に来た道を引き返した。ボブラさんも体力はかなりあるようだったので、私たちは走った。走りながら、ボブラさんからランの話を聞かせてもらった。幸せだったころの記憶を。

 例の焼けた街を通ると、ボブラさんが「これをうちの娘がやったのか?」と聞いてきた。首を縦に振るしかなかった。ボブラさんはそれを聞いて、少しうつむいた。

 宮殿についたとき、すでに一時を過ぎていた。帰りはそれなりに時間がかかったらしい。

 彼を連れて宮殿に入ると、湊さんに会った。

「あ、湊さん。こちらランの父親のボブラさんです」

「そうか。ようこそ。わが宮殿へ。ランはこちらです」

 湊さんがランのもとへ案内してくれた。


 ある一室に入るとそこではランがベッドの上で眠っていた。それを見た瞬間、ボブラさんは一気に走り、ランのすぐそばに座り込む。

「ああ……ラン……生きてたのか……つらかったろう」

 そういいながら、ランの髪をなでていた。顔はもう涙でくしゃくしゃだった。

 その時だった。ランが目を覚ました。そして、自分を抱きしめはじめていた男の顔をじっと見た。

 記憶をなくしているからだろうか。赤ん坊のように泣いた。

「ああ……ラン……ラン……」

 そして、ボブラさんは小さく「ルン、ごめん」とつぶやいた。

 それを見ていると私のほうも涙が出てきた。ランは何があったのか覚えていない。でもそれでいいのだろう。ボブラさんの話によるとランもルンも幼いときはおとなしい性格だったらしい。だからあんな性格になってしまったのは外的要因によるものなんだろう。

 では何が彼女たちをそうさせてしまったのだろうか? 悪魔から逃げる時の恐怖か? でも彼女たちは何かにおびえているようではなかった。一体何が……

 そう思った時だった。頭が突然何かで殴られたかのように痛み始めた。私はゆっくり部屋を出ていく。あまりの痛みに壁に手をついてでしか動くことができない。

 その時、目の前に景色がもう一つ浮かび始めた。それは最初はぼんやりしていたがどんどん明瞭になっていく。また、それにつれて頭の痛みは強くなっていく。

 もう一つの景色はシュワナの宮殿の一室だった。そんな不思議なことがおこっているのにも関わらず、私は頭の痛みで考えることができない。

 あそこにいるのはリブル……? なんでシュワナにリブルが? 

 彼はどんどんこちらから遠ざかっていく。いや、私から遠ざかっているのではないのかもしれない。私の姿が向こうに見えているとは思えないのだ。では彼はどこから遠ざかっているのだろうか?

 それを考えようとしたとき、私の意識はぷっつりと途切れた。

次回更新は十月九日です

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