表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
18/153

第十七話 決着

 ネルべさんの攻撃は無駄ではなかった。あの攻撃のおかげで、私はあの固有スキルの仕様について、完全に結論を出すことが出来たのだから。

「ランのあの固有スキル――黒い光線は物質を当てることで消滅する。その物質はどんな物質でもいい。だから、私の風魔法で黒い光線が飛んできたら、さっきの衝撃波で舞った土を黒い光線にぶつける。だから、シュワイヒナ、黒い光線に怯えず、そのまま突っ込んで。そして、マジカルレインでネルべさんのマジックポイントを回復させて、シュワイヒナはランを押さえて」

「――!」

 シュワイヒナは息をのんだ。私とてこんなお願いまともに聞いてくれるとは思っていない。でも、信じてくれないと、この状況を乗り越えることはできない。

「凛さん、確かに怖いですよ。でも――」

 シュワイヒナはすーっと息を吸った。そして、

「さっき言ったじゃないですか。私はいつだって凛さんのことをとても信用しています。誰よりも信じてます。だから、そのお願いにいいえ、だなんて答えるわけないんですよ」

「シュワイヒナ……」

 泣きそうだった。こんなにも人に信用されているなんて、信じられているなんて、初めてだった。涙をぐっとこらえて、

「シュワイヒナ、ありがとう。私もシュワイヒナのこと信じてる」

 そう言った。シュワイヒナは今までで一番の笑顔を見せてくれた。

 ランの固有スキル――黒い光線は物質に触れた時、触れた面を消滅させ、さらにその物質を徐々に消滅させていく。ということはその効果を発揮しているマジックポイントはその対象物質に乗り移っているのだ。だから、物質に当たった時、消える。そして、その黒い光線はさっきのランの行動を考えるに横から当たっても効果があるようだった。ならば、私はそのことを逆に利用すればいいと考えたのだ。横から風魔法で物質をぶつければいい、そう思ったのだ。

 シュワイヒナがそれを信じてくれれば、ランはその黒い光線から突っ込んでくるとは思考の片隅にもないだろうから、反応が遅れるはずだ。その隙を突く。

 シュワイヒナが走り出した。私は桜さんに起こしてもらって、建物に体を預ける。まだ、動くことは出来るが、もう戦うことは出来ない。しかし、口を動かすことは出来る。つまり、魔法を使うための詠唱は出来るのだ。

 ランリスも既に動けないようだった。そして、桜さんは動けはするようだったが、ランリスに回復魔法をかけていた。桜さんは私を信じて戦うことは出来なかったようだ。それもそうだろう。私はこの国に来てから一か月ほどしか経っていない。それを信じろと言う方が無理というものだ。

 シュワイヒナは走り出した。一気に距離を詰めていく。

「マジカルレイン!」

 シュワイヒナは叫んだ。それと同時にシュワイヒナを中心に光り輝く粒子が半径三メートルのところに降りはじめる。ネルべさんはそれを見ると、すぐにシュワイヒナの方へ行き、その光り輝く粒子に触れる。そして、ランは右手を二人の方へ向ける。

「風魔法、突風」

 私がそう言うのと、ランが右手から黒い光線を放出したのと、地面にあった土が風によって跳ね上がったのは同時だった。

 シュワイヒナは黒い光線の方へまっすぐ走っていく。そして、黒い光線にあと一歩で触れるという時に、黒い光線は土に当たって消えた。

「肉体強化」

 シュワイヒナの綺麗な銀髪は浮き上がっていった。そして、シュワイヒナは一気に加速した。ネルべさんを置いて、加速する。

 ランは一瞬たじろいだが、また黒い光線を放出する。だが、それはまだ、空中にとどまっていた土に当たって消える。

 そして、シュワイヒナはランのすぐそばに切迫した。ランは後ろへ下がるが、動きが間に合っていない。シュワイヒナはランの右腕と自分の左腕を絡ませ、ランの右手を固定した。

「ネルべさん! 今です!」

 シュワイヒナが叫ぶと、ネルべさんは呆然とその場にいたのをすぐに切り替えて、ランの方へ向かった。そして、

「エレキショック!」

 ランはシュワイヒナから逃れようとしたが、力は敵わなかったようだ。そして、ネルべさんの拳がランの体に触れる。

 シュワイヒナが素早く、ランから離れると、ランの体に激しく電気が流れて行った。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ネルべさんは自らを鼓舞するため、叫ぶ。ランの体はどんどん、黒い部分が消え去っていた。そして、

ランの体から黒い部分は完全に消え去った。その瞬間、ランは倒れた。

 決着がついた。視界の端にある例の画面に「闇覚醒討伐ボーナス」と表示され、大量の経験値が入っていく。それでレベルがニ上がった。各ステータスが四ずつ上昇している。

「凛さーん、やりましたよおおおおお!」

 シュワイヒナが嬉しそうな声を上げた。

 周りを見渡すと、ある建物は消えかかっている途中だったようで、崩れて行っていた。さらにはあらゆるところが焼け落ちていて、ところどころに焼死体が転がっている。地獄絵図のような景色だった。

 でも、私もシュワイヒナも、桜さんも、ランリスも、ネルべさんも、誰も死んでいない。皆生き残っている。全身ぼろぼろだけど、体中傷だらけだけど、皆生きてるんだ。

「ようやく終わったわね」

「はい、やっと終わりましたね」

「ほんっと、やっと終わったよ」

「凛さん、終わりましたね」

「ま、俺のおかげだな、へへへへへ」

 シュワイヒナやネルべさんも戻ってきた。ネルべさんはランを担いだままガッツポーズをした。まだ体力は残っているようだった。

「さて、宮殿に戻りましょうか。話はそれからね。あ、私、もうマジックポイントないから、歩いてだけど」

 桜さんが言った。

「ええー、私嫌だよお。もう体ぼろぼろなのにー。ストレスたまったら、肌が荒れちゃうんですよお」

 ランリスが文句を言う。

「いや、しょうがないですよ。凛さん、立てますか」

「立てるよ。大丈夫」

「それはよかったです」

「ほら、ランリスも、俺が担いでやろうか?」

「え、いいのお?」

「ああ!」

 ランリスの笑顔はそれはそれはかわいいものだったが、どっちかというとあざといものだった。それにネルべさんは乗せられている。年頃の男の子って感じだった。かっこつけたいんだろうなと思わせた。

「それじゃ、行きますか」

 私たちは立ち上がって、歩き始めた。結局ランリスは桜さんに担いでもらっている。さすがにネルべさんも疲れで、二人もかつげなかった。

 立ち上がってから、改めて見ると、かなり広範囲に被害が出ていた。ただ二人の固有スキル使いの襲撃だけで町がこんなになっちゃうなんて、信じられなかった。これで固有スキル使いが多かったら大変なことになるなとも思った。

 そこで、この間の大男の発言を思い出した。あと六人この国に来る――二人の少女だけでこれだけの被害が出て、アスバさんや、ファイルスさん、ネルべさん、桜さんの四人もの隊長を使ったのだ。これから戦っていけるだろうか。また被害が出そうだった。私は死者のいない戦争終結を目指していたのに、すでに死者が出てしまっている。もう戦争は始まっていると言っても過言ではない。そうなると、もう私の目標は破綻してしまっている。

「これからどうすればいいんだろ」

「どうしたんですか?」

 シュワイヒナが私の顔を覗き込んできた。

「いや、もう死者でちゃってさ……」

「それは……凛さん、これからは誰も死なないようにしましょうよ、ね」

「でも、昨日だって、出てしまっていたのに……」

「凛さん、だからってまだあきらめるわけにはいかないでしょう。助けられる命を助けましょうよ」

「うん、そうかもしれないけど……」

「凛さん、元気出してくださいよ」

 シュワイヒナが励ましてくれている。なんだか気を遣わせてしまっているようで申し訳ない。

 ふと、空を見ると、空は太陽がかなり上がって来ていたが、まだ、真上にあるわけではない。だから、まだ十二時にすらなっていないのだ。とても時間が経過したかのように感じたが、実際はそんなに時間が経っていないのだろう。

 と、ぐうーっとお腹が鳴った。恥ずかしい。だが、あんだけ動いたら、体がエネルギーを求めるのは自然なことだった。

「凛さん、お腹ならしちゃってえ、お腹すいたんですね」

「そりゃあ、ねえ」

 と返事すると、シュワイヒナもお腹を鳴らした。

「シュワイヒナもじゃん」

「しょうがないですよ。帰ったらかつ丼ですね」

「好きだねえ」

「はい! 大好きです! それに……」

「それに?」

「いや、なんでもないです!」

 シュワイヒナは頬を真っ赤にしていた。そんなシュワイヒナの様子を見ると、なんだか和む。

 と、アスバさんとそして、避難していた住民が前の方からやってきた。

「終わったんですね」

「うん、終わったよ」

 アスバさんの発言に桜さんが答える。住民の方からは、

「ああ、私の家が……」「お母さん……」

 という泣いている声が聞こえる。それを聞くと、胸が苦しくなる。私の力が及ばなかったばかりに、人々に悲しい思いをさせてしまった。

「軍のくせに!」

 という小さい男の子の声が聞こえた。「やめなさい」というその子の母親らしき声が聞こえるが、それを聞いた私たちは一様に表情を暗くする。

「ごめんなさいね」

 桜さんは、そういうが、

「謝ってすむもんじゃねえだろ!」

 という声が聞こえる。男の声だった。悲痛な声だった。自らの住まいを奪われたのか、それとも家族を奪われたのか、それは分からないが、返す言葉もなかった。

「大変申し訳ございませんでした」

 桜さんは深々と頭を下げた。私たちもそれにならって、頭を下げる。

 罵倒の声が聞こえる。彼らも追いつめられているのだろう。怒りをぶつける相手が欲しかったのだろう。

 気づけば、私は泣いていた。何に対して泣いたのだろうか? 自分の不甲斐なさに対してだろうか。人を悲しませてしまったからだろうか。それとも単純に罵倒されるのが辛いからだろうか。

 もう分かんなかった。

 結局、その場はなんとか桜さんが収めてくれて、私たちは無事、宮殿にたどりついた。

「お疲れ様、お帰り」

 湊さんが出迎えてくれた。

「ただいま~」「ただいま」「ただいまです」「ただいま……」「ただいまっ!」

 口々に言葉を発する。右側から、ランリス、桜さん、シュワイヒナ、私、ネルべさんだ。

「なんとか解決したようだね。ご苦労。で、それが、今回の犯人かい」

「うん、そうなんだけど。もう記憶は失われてるから生まれたばかりの赤ちゃんと一緒よ」

 桜さんが事後報告をする。なんだか落ち着いていた。

 私は正直、まだ十二時にも関わらず、とても疲れているため、早くお風呂に入りたいし、もう眠りたい。それに何か食べたい。

 また、それらとは別になんだかすっきりしない。泣いていた時、シュワイヒナは何も言わず、慰めてくれた。でも、私は自分がなんで泣いているのか分からなかった。

 なんだか辛かった。せっかく体感では長かった戦いが終わったにも関わらず、まったくすっきりしない。逆に出発前の方がまだ、すっきりしていた。

 短い戦いだった。濃度はすごいけれども。それにたくさんの人が犠牲になった。湊さんや、リーベルテ軍を責めるつもりはない。対応なんて出来なかったはずだ。いくら、来ると分かっていたとしても、人数が少ないのだから、警備なんて出来ない。それに顔を知っているのはシュワイヒナだけだ。私もどうやら知っている、というより知っていたようだが、記憶がない以上どうしようもない。一体全体どうすればいいのだろうか。少しだって思いつかない。やっぱり私には軍の指示なんて向いてないのかもしれない。そう思えてきた。私じゃ力不足だ。

 そんなネガティブな気分も取っ払いたかった。だからこそ早くお風呂に入りたかった。

「とりあえず、今日はもう疲れただろう。ゆっくり休みなさい」

 そう湊さんに言われた。その言葉に甘えて、私はシュワイヒナと共にお風呂に向かった。

 パジャマは驚くべきことにすでに洗い終わっていたようだった。それを確認して、私たちはお風呂に入っていった。

 汗を流して、お湯につかった。もう五月だが、やはりお風呂のお湯は気持ちがよく、一生浸かっていたいまである。まあ、のぼせたらそれはそれで嫌なのだが。

「ねえ、シュワイヒナ」

「ん? なんですか、凛さん」

「私さあ。もうわけわかんなくてさ。どうしたらいいの?」

 すごく曖昧な言葉だったが、シュワイヒナはそれでなんとなく理解したようで、

「まあ、目標が失われた時の痛みは分かりますよ」

「え、分かる?」

「はい。分かりますよ。私も目標なんて壊れっぱなしでしたし。でも、それでも目標を持ち続けるのは悪いことじゃないですよ。まあ、私は外部からの干渉でそれが達成されちゃったんですけど」

 と、ふふふと笑って見せる。

「そうか。やっぱりそんなことってあるよね」

「はい、ありますよ」

 今、考えてみると、私はシュワイヒナに信用してもらって、私の風魔法でなんとか決着をつけることができた。それを考えた時、私にもここにいるアイデンティティが生まれたのではないかと思った。だったら、私もここにいる意味が生まれてくるというものだ。

 なんだか、私は変な気分だった。私はシュワイヒナの肩に頭を置いた。

「シュワイヒナ、信じてくれてありがとう」

 そう言った私の頭をシュワイヒナは優しく撫でてくれた。

次回更新は十月六日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ