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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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第十六話 転換点

 視界が唐突に横に流れていく。そして、止まった。黒い光線は私の右側を通っていった。そこで自分が誰かに抱きかかえられていることに気づいた。しかし、抱きかかえられている割には視点が低い。ただ、それだけで誰が来てくれたかなんてすぐに分かった。

「ネルべさん……」

「悪いな。遅くなっちまって」

「いえ……それより……」

 私はシュワイヒナの方を指さす。シュワイヒナは立ち上がれるようになったようだった。

「ああ、行ってくる」

 そう言って、ネルべさんは私を下した。背は低いし、おそらくまだ幼いのだろうが、とても頼りになる人だ。あの年で隊長になるだけはある。ネルべさんがこのまま決着をつけてくれるのなら私はランリスの腕を回収しないといけない。さっきの時点でランリスの腕を回復させなかったということは、腕を回復魔法で作ることは出来ないのだろう。さすがに範囲が大きすぎるのだろうか?

 そう思って、私は動き出そうとした。すると、ネルべさんが言葉を発した。

「エレキショック」

 唐突にネルべさんがそう言うと、ネルべさんの体が黄色く発光しはじめた。そして、一気に加速する。固有スキルだろうか。「エレキショック」という名前から考えるに電気系の能力だろう。

 ランがネルベさんの方を見た。圧倒的なスピードで動く人間を無視は出来ないのだろう。向かってくるネルべさんへ右手を向けた。そして、黒い光線を発射する。

 ネルべさんは横へそれを避けた。黒い光線は後ろの建物にぶつかって、消滅した。また、一つ建物が消え始める。

「なんだこれ!?」

 ネルべさんが叫んだ。

「それに当たったら、体が消滅します! 気を付けてください!」

 と私が叫んだが、ネルべさんは既にランのすぐそばにいた。そして、ランを殴りつけようとするが、避けられる。

「どうして、ネルべさんを呼んだんですか?」

 私が尋ねると、桜さんは

「ネルべの固有スキルは電気系なの。そして、あの闇覚醒フェーズツーを解除させるには記憶を消さなければいけない。電気を一定の方法で人に浴びせたら、記憶を消せることがあるらしいの。そして、ネルべはその方法を身に着けている。だから、ネルべを呼んだのよ」

「はあ……」

 と答えた。確かに電気で記憶を消せるという話は聞いたことがある。だが、本当にそんなことが出来るのだろうか。いまいち、想像がつかない。だが、今はそれしか道がないのだろう。

「さて、ランリスの腕の回収ね」

「はい」

 ランリスの腕はランから三メートルくらいのところにある。果たして、回収できるだろうか。

 その間にもランはネルべの攻撃をずっと避け続けていた。だが、避けるだけで精いっぱいなのか反撃は出来ていない。黒い光線すら放出できていないのを見ると、あれは無限に出せるといってもそれなりに集中しないと出せないらしい。その間にランの後ろからシュワイヒナが襲いかかる。そして、ついにシュワイヒナの蹴りがランの頭に炸裂した。鈍い音がした。ランの首が明らかにおかしい方向へ曲がっている。

 シュワイヒナはやらかしたという顔をしていた。信じられなかった。あんなふうに首が曲がったら、間違いなく死んでしまう。私はそう思っていた。

「殺しちゃってんじゃねえか。どうすんだよ。せっかく俺が活躍できそうだったのに……」

 とネルべが不満そうな声を漏らした。

 だが、ランは倒れなかった。そして、ランは首があり得ない方向に曲がったまま――笑った。

「シュワイヒナ、ネルべさん! 後ろへ!」

 そう叫んだ時には遅かった。ランは右手から黒い光線を発射した。ネルべさんは後ろへ下がるが、左手が黒い光線に飲み込まれた。

「うわああああああああああああああ!」

 ネルべさんが叫ぶ。ランは首を曲げ、元の位置に戻した。不気味だ。あまりの光景に体が震えた。闇覚醒ってそんなんまでありとは予想の範疇を遥かに超えてきている。

 シュワイヒナも同じように思ったのか、地面を蹴って私たちの方へ戻ってきた。

「どうなってんですか。これ」

「まあ、それもだけど……ネルべさんが……」

 ネルべさんの左腕は消滅し、体へ浸食を始めてる。

「あれは回復魔法でも無理ですよ、それより、救えるものです。はい、ランリスさんの腕です」

 シュワイヒナはあまり興味なさそうに言った。そして、ランリスに回復魔法を使い、腕をくっつけた。

「くそが!」

 ネルべさんは叫んだ。そして、

「奥の手だ! エレキチェンジ!」

 と叫んだ。その瞬間、ネルべさんの体が突然発光を始めたかと思うと、一瞬のうちに消えた。

「え……」

 驚きの連続で反応にすら困る。今までも固有スキルは原理がどうなっているのか分からないものだったが、まだ受け入れることはできた。しかし、さすがにこれは意味がわからないだとか、そういったものではなく、いや、それはなしだろというような理不尽の体系みたいなものだった。

 そんなことを考えている時、既にランは行動を始めていた。いや、ネルべさんの姿が消えた瞬間に、行動を始めていたのだ。何を理解して、何を考えて、行動を起こしたかは分からない。ただ、ランは一回地面を蹴っただけで、一気に後ろの方へ下がり、ネルべさんがいたところへ、黒い光線を発射した。

 と、その時だった。黒い光線を発射した時、私が、「え……」という声を上げた時、途端に激しい熱を感じたかと思うと、突然発生した衝撃波によって私は吹き飛ばされた。

 現在の距離間をまとめると、私とシュワイヒナ、桜さん、ランリスがほぼ同じ場所にいる。それからネルべさんは私たちから五メートルほど離れた場所にいて、後ろへ行ったランはネルべさんから八メートルくらいの場所にいる。

 私だけでなく、桜さん、ランリス、シュワイヒナも吹き飛ばされた。その衝撃波は人が受けていいものではなさそうだった。どれだけ吹き飛ばされているのか分からない。なんとか目を開けて、見れば、雷のような閃光が発生していた。それはランの方へ向かって行く。黒い光線は激しい衝撃波を受けて、なおその勢いを緩めることはない。だが、閃光はその黒い光線を避けるように上の方へ動いた。また、目に見えるくらいの衝撃波が発生している。そして、ランの姿は黒い光線に隠れて、見えない。

 と、黒い光線が閃光の進んだ方向へも伸びているのが見えた。そこへ閃光は猛スピードで突っ込んでいく。黒い光線が通った後は白い空間が発生したかのように見えた。つまり、あの空間を消滅させる力を使っているのだ。そこへ閃光は突っ込んでいく。

 そこで、驚くべきことが見えた。その驚くべきことというのは目の前にあった黒い光線が消滅した。その黒い光線の方へ衝撃波によってまき散らされた土が当たり、消えたのだ。

 これらのことが同時に起こっていた。視界にある情報量が多すぎて頭が混乱する。

 白い空間は異常性をなくそうとして、元の方へ戻ろうとし始める。その速度は一度見た通り、とても速い。白い空間があったことを一瞬認知出来る程度だ。さらに、閃光は白い空間の前で止まった。

 そして、黒い光線がなくなっていたので、ランの動きをはっきりと見ることが出来た。ランは衝撃波で吹き飛ばされず、そこにいた。そして、どこかへ右手を向け、黒い光線を発射していた。

 白い空間は消え、閃光がまた、そこを通り始めた。目にもとまらぬ速度で進む。と、その目の前を黒い光線が通った。その間の時間は短すぎる。一秒もかかっていない。閃光はその黒い光線へ突っ込んでいった。

 この間、何秒ほどだったか、それは私には分からない。とても短い間にこれだけのことが繰り広げられた。一秒かかっていただろうか。

 とりあえず、私は衝撃波で目がおかしくなりそうだったため、目を閉じた。その直後、激しい痛みに襲われた。おそらく体を打ち付けたのだろう。建物のあるところまで、あんな短時間で吹き飛ばされたのか。確かに、目の前で見えた景色はかなりの速度で遠ざかって行っていた。だからこそ、上の方の景色も見ることが出来たのだ。

 私は地面に落ちた。あまり高さはなかったから、そんなに痛みはない。それよりも、さっき背中を打ち付けた時の痛みの方が強い。動けない。

 その場に倒れたまま、さっき見たことについて、考える。おそらく「エレキチェンジ」という発言を考えるに、さっきの閃光はネルべさんが変身したものだろう。そして、空気中を強引に進もうとした。その結果、雷が落ちた時のように空気は熱により、膨張し、衝撃波を起こしたのだろう。その衝撃波で私たちは吹き飛ばされたのだ。そして、ランは一瞬のうちにエレキチェンジと言ったネルべさんの行動を理解し、予知したのだろう。そして、黒い光線を放出し、後ろへ下がった。電気がランの方へ行くのを遅らせようとしたのだろう。その黒い光線は土に当たって、消えた。このことを考えると、あの黒い光線の対策、というより、封じる方法が簡単に導き出される。そして、ネルべさんはその黒い光線を避け、上の方へ行った。そして、その方向にランは既に黒い光線を放っていた。それは空間を削る光線だった。その削られた空間にぶつかったネルべさんは行く先を封じられた。あの白いところはおそらく一時的に「何もない」状態なのだろう。だから、その何もないところを伝える物質が必要な電気は通ることが出来なかった。だが、その白い空間はすぐに元通りになろうとするため、元に戻ろうとする。だから、これもランによる一時的な時間稼ぎだったのだろう。そして、通れるようになった先、そこにネルべさんがぶつかるようなところに黒い光線を放っていたのだろう。ということは――

「ネルべさん!」

 私は何とか手をついて、上の方を見た。ネルべさんは地面に落下していた。体のどこにも傷は見当たらないが、ここからネルべさんの所まで十メートルほど離れているため、確実とは言えない。

 シュワイヒナやランリス、桜さんもすでに起き上がっていた。シュワイヒナは何が起こったのか理解できてないようで困惑した表情を浮かべていたが、桜さんや、ランリスは既に理解しているようだった。

 ランはこの動きを短い間にしたせいで反動が来ているはずだが、何のこともなく普通に立っていた。

 ネルべさんが立ちあがる。

「くそが!」

 ネルべさんは叫んだ。そこへランは無慈悲にも黒い光線を放出する。ネルべさんはすぐに反応して、それを避けるが、既にさっきのエレキチェンジを使えないようだった。さらにマジカルレインはすでに止んでいるため、マジックポイントを回復させることすらできない。今、この位置からシュワイヒナがマジカルレインを使っても、距離がありすぎる。

 ネルべさんは避けるだけで攻撃に転じることは出来ない。さらに私や、シュワイヒナ、桜さん、ランリスもさっきの衝撃波でかなりのダメージを負って、すぐに動き出すことは出来ない。

 下の方にあるステータス表示をしているのを見ると、私の体力は13/130だった。このステータスとかいうのを注意深く見たことはないし、正直、視界の端に映る、ごみのようなものだと思っていたため、さっきまでの残り体力なんて覚えていないため、どれだけのダメージを今負ったのかは分からないが、体力が残りこれだけあるのに、もう体はところどころ、がたが来ているというのは驚きだ。この体力がゼロになるとどうなるのか分からない。

 さっきの衝撃で頭を打った。それを今まで意識していなかったのだが、突然、頭がくらっとした。時間差で脳震盪が来たのかと思ったが、残り体力は変わらないため、意識していなかったから、あんまり感じなかっただけかもしれない。

 それだけで、私は何とか起き上がろうとしていたにもかかわらず、体は逆の方へ向かって行った。

「凛さん!」

 シュワイヒナが駆け寄ってきた。

「シュワイヒナは……げほっ……大丈夫なの?」

 途中、むせたが、私はそう尋ねた。

「私は防御面にも肉体強化かけてましたから……それより凛さん、慣れてないから……桜さんとランリスさんはまだ動けそうですけど、凛さん、もうやばいですよ」

 そう言いながら、私に回復魔法をかけてくれる。だが、体力の数値はなかなか回復しない。

「あの、その体力数値、見た方がいいですよ。無理を防げますし……残り体力いくつですか?」

「あ……えっと、百三十中、十三」

「え!? 大変じゃないですか! 凛さんもう休んでてくださいよ」

「いや、でも……分かったんだ。あの固有スキルを封じる方法が……」

「そんなこと言ったって、凛さんが倒れたらどうしようもないですよお。だから、私にそれ教えてください。私が決着をつけます」 

 シュワイヒナならやってくれる。私はそう確信した。だから、

「シュワイヒナ、私を信じて、言うとおりにして」

「はい、私はいつでも凛さんのこと信じてますよ」

 そう言ってくれた。嬉しかった。

「おい! おしゃべりしてる場合かよ!」

 ネルべさんはランの攻撃を避けながら、そう叫んできた。ネルべさんは私たちの方へその攻撃が飛んでこないように動いているようだった。その優しさに心の中で感謝する。

「ネルべ、もうちょっとお願い」

 桜さんの声だった。

「あれ、なんとか出来るんでしょ。さあ、言いなさい」

 桜さんも目を開けていなかったのか、あの瞬間は見ていなかったようだ。私はもう戦えない。でも、桜さんや、ランリスや、シュワイヒナならやってくれる。

 そう確信して、私は話し始めた。

 

次回更新は十月五日です

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