第二十七話 レインより
こんにちは。レインです。対固有スキル使い用――TSTに所属しています。名前が長いので噛まずに言えたら、結構すごくないですか? あ、すごくない……。なら、別にいいんですけど。
さて、私は実力を買われて、この隊に所属しているわけですが、悩み事が日に日に増えていくばかりです。
一つ目。女の子がいない。
二つ目。メイとかいう子が面倒くさい。
三つ目。一発目の任務が既に難題。
一つ目と二つ目は繋がっています。まず、この隊、女の子が私とメイちゃんと、入ってきたばかりの新人、アドニスちゃんしかいません。アドニスちゃんがどういう性格かはこれから交流してつかんでいくとして、問題なのはメイちゃんです。
このメイちゃん。そもそも感情が読めません。いっつも怒っているようにも見えますし、逆に何も考えていないようなミステリアスキャラ。全然喋りませんし、喋ったかと思ったら、怖い発言ばっかしています。協調性なんて少しもありそうには見えませんから、何か辛い過去があって、心を固く閉ざしているのかな、かわいそうだなと思っていたんですけど、どうもそうでもなく、隊長の前だと笑顔を見せてみたり、隊長の部屋によく出入りしてみたりと、どうやら隊長に首ったけみたいで、純粋にわがままなだけかもしれません。
うちの隊長は男の人らしいですけど、中性的なまあまあなイケメンです。女と言われたら、女だと思うようなそんな感じ。すごく優しい雰囲気ですけど、なんだか闇を抱えているみたいに見えます。というのも、彼、ふとした表情がとても険しいのです。メイちゃん関係でしょうか。にしては重すぎるような気がしなくもないんですけど、いつか、メイちゃんに何かを囁かれた時の青ざめ方はそりゃあもうかわいそうなくらいでした。
他のメンバーはまあ、なんだろうな、変な人とまでは言いませんけど、なんか独特な雰囲気を持っているんですよね。ドライさんはなんだか頭が良さそうですけど、怒ったら抑えられなさそうだし、ファイン君は元気はつらつすぎて逆に怖いです。ラングス君はちょっとそれどうなのっていう発言を繰り返していますし。本当、私このメンバーの中でよくやっている方ですよ。まだ一週間くらいしか経っていませんけど。
仲間の話はこのくらいにして、仕事の話をしましょう。
今までの私の仕事と言ったら、現れた魔獣やらなんやらに水魔法極みをぶっぱして、貫いて殺しちゃって終わり! だったのに、当然、盗賊たちは殺したらいけませんから、私自慢の超火力魔法を打つのはまず無理ですし、そして、みなさん、怖い人たちばかりですから、ちょっと嫌になります。
そして今、現在、私は隊長の指令を受け、アドニスちゃん、新規メンバーのアネモネ君、ドライさんとともに四人で王都に向かっています。どうやら、王、またはそれに近しい人が何かしらの情報を持っていそうなので、調査してしまおうという話です。
盗賊に金を流しているという二人の固有スキル使い。一人の正体はもうつかめていますが、もう一人――一体、何者なのでしょうか。王の息子であるバービル・エゴエスアと通じている謎の人。王都を調査して少しでも収穫があれば幸いです。
さて、旅は一日ほどでした。速すぎます。レベリアの王都から隊舎までは二週間ほどかかったはずです。ファイン君とかラングス君とかメイちゃんはあんな猛スピードで来てたんですね。まあアドニスちゃんとアネモネ君は手紙を出して四日で来たんですから、それ考えたら、まあ確かにそうだなとは思いますけれど。
ていうか、いきなりこんなとこに来させられたと考えると、アドニスちゃんとアネモネ君かわいそうですね。
「大丈夫だったんですか?」
「いや、なんか俺ら最初っからこの部隊に編成されるのは決まっていたみたいっすよ」
えっ、そうなの。
「はい。私たちへの連絡、間に合ってなかったみたいです」
「ならば、応援でもなんでもないではないか」
ドライさんが正論を吐く。
「王様の気持ちにもう少し寄り添ってあげても……」
「レベリア王でもないのに」
また正論。小声でごめんなさいって言いました。多分、聞こえていません。
「とりあえず、王の宮殿、ついたぞ」
言われなくてもわかっています。
この街に入ったあたりから、既に中央にそびえる宮殿は見えていました。豪華絢爛、その言葉がよく似合います。やっぱり、エゴエスアも裕福な国なんでしょうね。ただ、あんだけ盗賊がいた場所から少し行っただけでこんなにも栄えている場所が出てくるというのは少し不思議な気もします。
――いいえ、近いからこそ、王の息子はあんな行動をとったのでしょう。そう考えると、なんだかいやな気がしてきますが、とりあえずまあ、今は宮殿に入っていきましょうか。
アネモネ君とアドニスちゃんの顔だけで宮殿は入れました。よっぽど、エゴエスアでは腕の利く二人だったんでしょうね。彼らの戦闘しているところを見たことがないので、どれほどか全く想像がつきませんが、まあ私と同等、もしくはそれ以上なんでしょう。
簡単に、王の前にまで通され――というわけにはいきませんでした。継承順位第一位の皇太子とお妃が出てきたのです。お妃は非常に若い方でした。名をプリンシアと言い――って、そういえば、レベリア王の娘が嫁いでいってましたね。忘れてました。
「で、俺の弟が? 犯罪に手を染めている? なるほど。なるほど。あいつは確かにクズだ。ごみ以下だ。俺と同じ固有スキルを継いでいながら、能無し。まったくいつもいつも――」
長い長い悪口が始まりました。相当に嫌っているようです。人が声を荒げるのも、人が誰かの悪口を言っているのも私は嫌いなので、さっさと、この場から逃げ出してしまいたいですが、相手が次期国王ともなるとそうはいきません。
隊長さん、この仕事、結構めんどうくさい。まあ文句言ったところで仕方ないんですけど!!
「――で、そのマイブラザー退治に俺に協力してほしいと? よかろう。俺の手札の全てを切ってやる。と言っても、一つだが」
そう言って、皇太子は息を吐きました。
「バグダー・ドレスレット。こいつが怪しい。王家直属護衛団隊長にして、固有スキル使いだ。俺の弟とともに、行方不明。まあ百発百中こいつだろうな」
「…………」
「どこにいるか? まあそれがお前らの知りたいところだろう。その気持ちもよくわかる。だがな、俺たちとてそれを知りたいのだ。つまり、知らないのだ。わかってくれ。こればかりは不甲斐ないと思っている。が、見当はついている」
皇太子様は相変わらず傲慢な態度のまま、話し続けます。
「これは俺しか知らない情報だ。父上だって知らない。聞く前に取引を結ぼう」
「取引……ですか?」
ドライさんが返事をする。
「ああ、そうだ。まず一つ目。そこに本当にいた暁には俺にも手柄を寄越せ」
「……それはもちろんです」
まあ確かに皇太子様の情報で居場所がわかったのならば、その恩は返すべきでしょうね。私もドライさんの同意に賛成です。
「二つ目。対固有スキル使い……名前覚えていないが、お前たちの部隊、俺直属になれ」
誰も言葉にはしませんでしたが、衝撃が走りました。俺のもんになれ、なんていうのはよくある告白の決まり文句ですが、私は嫌いです。そんなんではキュンキュンしません。逆に、なんでこいつ私をもの扱いしてんの? ってイライラします。
今の皇太子様の発言はそんなもんに私は感じました。俺のもんになれって言われてるのとたいして変わりはしませんよね。俺直属になれっていうことはすなわち、私たちを自分が企んでいる何かに使おうという算段なのは間違いありません。
「この場に隊長はいませんので、判断しかねます」
ドライさんが対応しました。まあ、確かに私たちだけで決められるものではありませんから、保留という形がよろしいでしょうね。すると、
「……なるほど。まあ確かにそのほうが良かろう。後日、隊長を連れて、もう一度俺のところへ来い」
そんなこんなで、私たちは来た道をすぐに折り返しました。特に王都の見学をすることもなく、引き返すというのは少し味気ない気もしますけれど、まあ仕方ないと言えば仕方ないでしょう。
「隊長は……承諾すると思うか?」
ドライさんが言う。
「いやあ、俺たち隊長の性格、まだよくわかってないんすよねえ」
アネモネ君が困ったように言うから、
「ああ、君たちはまあしょうがないとは思うが、レイン。どう思う?」
当然、私に振られるわけで。
「承諾する……かもしれませんね。あの人、プライドとかどこかに捨ててそうな雰囲気あるじゃないですか」
「まあ、あくまで偏見的イメージでしかないがな。私も彼は承諾すると思う。せっかく、手に入れたチャンスを離すとは思えないし、彼には皇太子の直属になるデメリットが思いつかないだろう」
「実際、あの人の命令で動くようになったところで、私たちにどんなデメリットがあるかわかりませんしね。私たちが何をさせられるのかも」
「王を殺せ、とかそんな命令じゃなければいいがな。そんな命令を遂行してしまえば、私たちは大罪人だし、彼も罪を免れないだろうからそんな心配もないとは思うものの、何を言われるかはわからない。大方、自分の軍隊を持っておきたいとかいう幼稚な考え方ではあろうが」
「まあすべては隊長さん次第、ですね」
あの人はまだ何か隠している。
私はドライさんやファイン君、アドニスちゃん、アネモネ君は信用できる人だと思っています。そして、ラングス君もなんだかんだ言って悪い人ではないと思っています。
けれど、メイと隊長。あの二人には確実に何かあります。メイは先ほど述べた通りですが、隊長、彼の後ろにある悪い雰囲気はえも言われぬものがあります。なんでしょう。彼は決して悪い人ではありません。それは断言できます。
ドライさんに話していた二つの魔法構造。片方のマジックポイント容量は無限大。
そんな人間、存在すると思えますか?
もしかしたら、隊長さんは私たちとは違う何かなのかもしれません。妖精族――いえ、彼らの体格は比較的小さいようですから、違うでしょう。
魔族。
その単語が頭の中に浮かんだとき、とてもしっくりきました。隊長が悪魔だという話をしたいのではありません。どちらかといえば、メイのほうが悪魔のような気はしますが、隊長はもしかしたら、その身に悪魔の力を宿しているのかもしれません。人間と悪魔の混血とか?
まあわかりませんけど。
「ドライさん」
あまりに気になるので、私はドライさんに打ち明けてみることとしました。今、考察したような内容をドライさんに告げると、
「……そうかもしれないな」
否定しませんでした。
「イーリアの英雄。こんなうわさを聞いた」
「うわさ、ですか?」
「ああ、彼はその身を貫かれても生きていたと。頭を刺されても生きていたと。そして、彼の姿が黒く変色するのを見たと」
「……どういうことですか」
「闇覚醒。固有スキル使いが稀に陥る暴走状態だ。その状態になればマジックポイントは無限大になる」
「無限大?」
「そう無限大だ。そのうえ、並々ならぬ回復能力を身に着けるという。彼の状況そのままではないか」
「でも、隊長さん、固有スキル使いじゃないですよね」
「自己申告だ。隠している可能性もある」
「……じゃあ、隊長さんはその闇覚醒を起こしているんですか」
「推測、だがな。それに闇覚醒は暴走状態。見境なしに他人を襲う力で、基本的には不可逆的だ。それなのに、彼は今、それを発動していない。制御している可能性がある。それに、彼の性格を考えるに、私たちを殺しに来ているなんてのは考えづらいだろう。制御できているのならそれに越したことはない」
「…………そうですね」
闇覚醒。初めて聞く言葉でした。
闇。その言葉は隊長には似合わないような気がしますが――、けれど、なぜか違和感は感じませんでした。
「そうですよ、先輩のこと悪く言わないでください!」
アドニスちゃんがなんだかむきになったように言いました。
「ああ、ごめんね」
と私がいうと、
「レインさん、先に言っときますけど、先輩は渡しませんから」
「?」
まじで?
「この場にいる人――と言っても、アネモネ君は知ってるよね」
「ん? ああ、まあ。言うのか?」
「うん」
なんだか話の流れ急に変わりましたね。何を言うんだろう、とゆるーく身構えていたら、全くの予想外、もう夜なのに、目も覚めるような一言を言われました。
「私、男ですけど、先輩、落とすために、しばらく女の振りしますので、よろしくお願いします」
 




