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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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第十二話 ラン ルン

 それはおそらく火災旋風というものなのだろう。テレビでも一時期、話題になっていたし、ネットや、家にある本にも載っていたから、おそらく間違いはないだろう。ただ、実物を見るのは初めてだ。実際、テレビでも珍しいと報道されていたし、それは確か日本ではなかったはずだから、実物を見たことがあるはずがない。 熱風が吹きつけてきて、もう五月だというのに汗でびっしょりだ。ただ、この汗が出ているのは単純に暑いからというだけではなかった。これまで、こんな状況に陥ったことがなかった。この世界に来てからというもの、初めての状況というのはたくさんあったのだから、今更慌てるわけにもいかなかったが、それは無理だというものだろう。しかも、あちらこちらで聞こえる悲鳴が恐怖を増大させていく。一部の者は水魔法によってそれを消そうとしているが、この街で危険に冒されず過ごしてきた者たちはレベルが低く、魔力も低い。そのためか、目に見える効果はないようだった。

 震える足を押さえつけて、シュワイヒナに手を引かれたまま、立ち上がり、走り出す。たしか、火災旋風というのは火災が発生した際に、起きる現象だったはずだ。酸素を火災が発生していない空気から取り込むことによって、上昇気流を発生させるとか、確かそんなやつだったと記憶している。詳しくは覚えていないから、言い切ることも出来ないが、火災が発生していない以上、起きるはずがない。となると、それは魔法によって人為的に引き起こされたということになる。

 轟音が響き、耳からの情報はほとんどない。人々の悲鳴が、私に私の無力さを教えているかのように感じられて、涙を流しそうだった。また、焦げたようなにおいもしてくる。

 人為的に引き起こされたということは、当たり前だが、それを引き起こした人物がいるということだ。なんとなく、目星はつけれた。おそらく先ほどの二人組のそっくりな少女達だろう。あの二人を見た瞬間、シュワイヒナは逃げろと叫んだのだから、おそらくシュワイヒナはその少女達を知っていて、だから、危険を知らせることが出来たのだろう。

「シュワイヒナ」

 私はシュワイヒナの耳に口を近づけて、言った。

「なんですか!」

 シュワイヒナが返事をしてくれた。少し安心した。

「あの二人のこと知ってるの?」

「知ってるも何も……あの二人はシュワナからの使者です。彼女らは戦闘の特訓をしてたんですよ」

 それを聞いた瞬間、まるでバットで殴られたかのように――実際にバットで殴られたことは無いが――頭が痛み始めた。苦しそうな顔をしたのを感づいたのか、シュワイヒナは

「ごめんなさい、言うべきじゃなかったですね」

 と謝ってきた。シュワイヒナが謝るようなことでもないのに。そう言おうとしたが、頭が痛み、上手く、言葉を発することが出来ない。

 その時だった。今までのとは種類の違う轟音が響いた。立ち止まり、振り返ると、まるで岩なだれのように大きな氷が炎の竜巻の上に落ちていった。

 その氷はもちろん、炎によってすぐに溶かされ、消えて行ったが、炎は確実に勢力を弱めていった。

 巨大な氷は止まることなく、降り続ける。二十秒も経った頃には、火災旋風は完全に消え去っていた。

 街は、至る所で火災が起こっていた。おそらく飛び火によって巻き起こされたのだろう。綺麗な街並みは、もはや原型を留めていなかった。あちらこちらの建物は黒く焦げ、全壊しているものもあった。これでは死体も原型を留めている者は少ないだろう。吐き気が込み上げてくる。

 泣き声や、励ましあう声が聞こえる。起こされた火災は水魔法によって、消火されていく。

 シュワイヒナはさっきいたところまで戻り始めた。私も後を追いかける。

 シュワイヒナは倒れている人たちに回復魔法をかけていった。もちろん、人間と判別出来るものだけだが、まだ、一命を取り留めている人たちもたくさんいた。

「た……す……け……」

 人々の苦しそうな声が聞こえてくる。

「おーい!」

 桜さんとランリスが駆けつけてきてくれた。桜さんも回復魔法使いのようで、倒れている人たちに回復魔法をかけていく。

「ひひひひひひひひひ、ははははははははは」

 笑い声が聞こえた。そちらの方を見ると、例の二人組の少女が全くの無傷で、そこにいた。その後ろの方にアスバさんがいる。ということはやはり、先ほどの氷はアスバさんの能力によるものだったのだろう。

「何、笑ってるの」

 アスバさんの声はとても冷たかった。

「人の命を奪った時点で君たちは僕の敵だ」

 アスバさんは少しずつ二人の少女に向かって、歩いていく。

「そうよ。人の命を奪った時点であなたたちは重罪よ。私たちには勝てないだろうから、おとなしく一緒に来てもらおうかしら」

 桜さんは回復作業をもうあらかた終えたようで、二人に近づき始めた。

「ええ、勝てないって――あんたら、私たち舐めてますよねえ」

 ひひひひひと笑った。凄惨な笑みだった。おぞましい笑いだった。

「私たちこう見えて強いんですよお」

と、少女は表情を全く崩さず言った。

「話が通じないならもういいわ。アスバ、お願い」

「うん、分かった」

 アスバは両手を二人の少女に向けた。

「アイス・ダンス」

 アスバさんのその声とともに氷の塊が大量に空中に作られた。

「お、すごーい」

 少女の内、片方が感嘆の声を漏らした。だが、それはバカにしているようにも聞こえる。

 アスバさんは腕を左右に開き、手をスナップさせた。それと同時に空中に作られた大量の氷が目にもとまらぬスピードで二人の少女に突っ込んでいく。

「「だから、私たちには勝てないですって」」

 そう同時に言った少女たちは、いつの間にか繋いでいた手を前に向け、手を離し、手の平を氷に向けた。

「「ザ・ストライク」」

 少女たちの手のひらから白い光線が噴き出した。それは迫りくる氷を包んで、消えた。

「きれいさっぱり」「なくなっちゃいましたねえ」

 二人はまた、ははははははと笑った。

 一体、何が起こったのか理解が出来なかった。いや、理解は出来るのだが、なぜ、そのようなことが起こったのか全く理解できなかった。白い光線が氷を消した。その時、一瞬だが、地面に落ちていった水滴は見えた。一瞬のうちに熱で溶かされたのだろうか。だが、それにしては地面に落ちている水滴の量が少ない。蒸発したのだろうか。しかし、どこか引っかかる。

 そもそもこの攻撃は何の類のものなのだろうか。さっきの火災旋風を見たところ、おそらく少女たちの魔法属性は片方は炎、もう片方は風になるのだろう。だが、さっきの攻撃はその類のものではなかったかのように思える。二人の少女は同時に同じ技を放った。いつしか、シュワイヒナは固有スキルは遺伝すると言っていた。となると、おそらく血がつながっているであろう――双子のような二人の少女が同じ固有スキルを使えるというのは自然なことだろう。だとすると、彼女らの固有スキルの特殊効果を考えなければならない。今まで見たことのある固有スキルは、数は少ないが全て特殊な効果を持っていた。だから、この固有スキルも特殊な効果を持っているというのが妥当だろう。だとすると、その特殊効果がもたらしたもの――それが先ほどの現象なのだろうか。

 いけない、いけないとほっぺを叩く。全て仮定で話を進めて行ってしまっている。そうやって決めつけて考えてしまうのは良くないことだと思った。

「私たち、強いですよお」「いや、『とても』強い、じゃない、お姉さま」

 それに――と少女たちは、私たちの方を見て、ニヤリと笑った。

「凛さん、私たちがこんなに強いのは」「私たちがここに来れたのは」

「「あなたのおかげだったはずなんですけど、忘れちゃいましたかあ」」

 その言葉を聞いた途端、頭がまた強烈な痛みに襲われた。聞いてはいけない。知ってはいけない。私はそんな感情を何に由来することもないのに抱いた。

「あ……あ……」

 もう痛みで立ってられない。その場にへたり込んでしまう。

「凛さん!」

 シュワイヒナが私のそばに屈みこむ。

「落ち着いて、息を大きく吸って、吐いて」

 言われた通り、私は大きく息を吸って、大きく吐いた。それで幾分か痛みが軽減される。

 私の痛みが少しは落ち着いたことを顔を見て、察したのか、シュワイヒナは

「はあ、本当に良かった」

 と安堵の言葉を吐いた。

「凛、あの二人のことを知ってるの?」

 桜さんが尋ねてきた。それに答えようとすると、シュワイヒナが遮り、

「聞かないでください。凛さんは何も知りません」

 その声はどこか冷たく、どこか狂気のようなものを感じた。そして、

「ラン、ルン。あなたたちはもう来ないで。子供は速く帰って」

 と言った。ラン、ルン――それが少女たちの名前だろうか。それにも何だか聞き覚えがあるような気がする。だが、どこで聞いたかなんて全く分からない。しかし、確実に私たちは彼女たちを知っている。

「来ないでだなんて、酷いなあ。私は凛さんのこと大好きなんだから、もっと一緒にいたいんですよお。それに私もあなたも見た目は同じくらいか、あなたの方が若いくらいじゃないですかあ」

「それより、シュワイヒナ。あなたがいなくなればいいんじゃない」

 二人はまた笑った。

「何がおかしいの?」

 シュワイヒナのイライラが見て取れた。徐々に語尾が強くなっていく。

 その瞬間だった。思わず、声を上げそうになったが、なんとか我慢する。

 氷がランとルンの後ろで生成されていた。

 動き始める。まさかの不意打ちだった。これで終わるならいい。私はできるだけ平静を装う。

 敵であるはずなのに激しく動揺しているのもおかしな話だ。だが、心に引っ掛かることがとても多く、依然、頭の痛みは治まらないため、平静を装うのはそれはそれで不自然だった。

「私たちにそんなの通用すると思いますかあ」「かわいそうですねえ」

 二人の少女はそちらの方をちらりとも見ずにそう言った。

 二人は高く跳んだ。氷は二人のいた場所をすり抜けて、私たちの方へ向かってくる。だが、アスバさんが手をくいっと上にあげると、氷は上に向かい、そのまま、向きを変え、ランとルンの方へもう一度向かい始める。

「今度は正面から来てくれるんですね」「優しいなあ」

 少女たちは迫りくる氷を蹴った。蹴られた氷は抵抗もなく、そこに砕け散った。

「ははははは、これ楽しい」「楽しいいいいい」

 ランとルンは笑いながら迫りくる氷を全て砕いていった。あまりのスピードで動く足と散らばっていく氷の破片が危険で安易には近づけない。

 まさかの光景にアスバさんは呆然とする。桜さん、ランリスも呆然としていた。

「アスバ! あなたは負傷者を連れて、逃げなさい!」

 アスバはうん、とうなずくと負傷者を担ぎ始めた。

「ははははは、諦めちゃうんですね」「逃げちゃうんですねえ」

 ランとルンは、ははははははと腹を抱えて笑った。

「いいですよお、私たちを笑かしてくれたから、どうぞ逃げてくださいよお。ほら、早く逃げないと、私たちの気が変わったら、殺しちゃいますよお」

 アスバさんは明らかにイライラしていた。そりゃそうだ。こんなことを言われて、腹が立たない人間はいない。だが、アスバさんは一瞬、二人の少女を睨み付けたが、それだけにとどまり、負傷者と動けず、じっとしている人たちを逃がし始めた。

「なめてるの。あなたたち」

 桜さんは二人の少女に対して怒りを隠そうとはしていなかった。徐々に二人に詰め寄っていく。

「手加減はしないわ。あなたたちが悪いのよ」

 桜さんは走り出した。間の距離は短く、瞬く間に距離は詰まっていく。

「へえ、そんなふうに言っちゃって、無残に負けちゃうのに恥ずかしい人だなあ」

「ほっんと、勝てないのに」

 ランとルンは構えない。どんどん近寄っていく桜さんを止めようとはしない。

「はあああああああああああ!」

 拳を振り上げ、桜さんはすぐそばまで接近した。

「あなたの負けよ!」

 桜さんがそう叫んだ時、ランとルンの後ろにはランリスがいた。

「だからあ、私たちがそんなことに気が付かないだなんて思いますか?」

 ようやく二人は動いた。片方は前を、片方は後ろを向いた。

 もう目と鼻の先にいる桜さんとランリスへ、ランとルンは

「「バーカ」」

 と、そう言った瞬間、二人の手はそれぞれ桜さんとランリスの腹についた。

「危ない!」

 私も動こうとするが、もう間に合わない。

「「ザ・スト――」」


次回更新は十月一日です

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