第十九話 集められた精鋭
対固有スキル使い用少人数制特殊部隊。めちゃくちゃ長い名前で嫌気がさす。
いや、名前のことなどどうでもいい。今、この王様、私にリーダーをやれと?
「もちろん、報酬は弾もう。エゴエスア、レベリアその両方から多額の報酬が支給される。受けてくれるな」
無理だなんて言える空気じゃない。
確かに悪い話ではないような気がする。けれど、私は竜王山に行きたい。その竜王山のシュワイヒナが行くだけで解決する問題だから、私に求められていることではないが。実際問題、私に今、一番求められているのはレベルを上げて、早く固有スキルを解放すること。そう考えると、対固有スキル使いというのは殺人はできないから、レベルが上げれない。
「質問をしてもよろしいでしょうか」
「うむ」
「対魔獣問題は解決しているのでしょうか?」
「それは……今のところはよくわからぬ」
「対魔獣戦もそのチームに寄越してくれませんか?」
「なぜじゃ」
「そのほうが僕にとって都合がよいので」
「よかろう。そのほうがわしらにとっても都合がよいからな。では、一週間後、エゴエスアとの国境に作った特殊部隊用宿舎に招待する。それまでは我がリバルでくつろぎたまえ」
「ありがとうございます」
それからの一週間は割と楽しかった。着替え(男物)を買ったり、おいしい料理を食べたり。一つ問題なのは公衆浴場に入れないことだ。女湯に入ろうとしたら、すごく怒られた。普通に酷いと思う。だからといって、男湯にも入れないので、ホテルの部屋についている安っぽいシャワーで我慢するほかなかった。まあ、それでも長いこと体を洗えていなかったので、十分だ。
そして、出発。王宮から直接人がやってきて、馬車に乗せられ、出発した。行程は約二週間。そして、乗せられたのは私だけではなかった。
「対固有スキル使い用少人数特殊部隊レインです。よろしくお願いします!」
と名乗ったかわいらしい女の子。髪は水色で、私と同い年のように見える。やけに胸が大きい気はするが、無視して次。
「同じくドライだ。よろしく頼む」
細身のイケメン風の男だ。どことなくアンさんに似ている気もするが、アンさんよりも気難しそう。年のほどはわからない。
「僕の名前はリク。この度、隊長になりました。よろしくお願いします」
この三人で二週間の旅になる。
「り、リクさんは、何魔法なんですか?」
まったく喋ろうとしない私とドライさんを見兼ねて、レインさんが喋り駆けてくれた。
「風魔法です。レインさんは?」
「水魔法です。ドライさんは?」
「吸収魔法だ」
「めずらしいですね!」
「だからこそ、呼ばれたというのもあるが……。レイン、と言ったな。君はなぜ、呼ばれた?」
「私は去年の魔獣侵攻を阻んだのが評価されたみたいで……」
「ああ、一人で魔獣を倒したとかいう水魔法使いか」
相当な実力者。こんなかわいい顔しておいて。その魔獣というのが私の想像している魔獣ならば、普通の水魔法で倒すことはできないはずだ。よほどの知略を張り巡らせていたとするならば、かなり頭が切れる優秀な人物だし、私の風魔法奥義風神のような技を持っているとするならば、かなりの火力を出せる技がある。
「知られているんですか……。お恥ずかしい限りです」
「恥ずかしいことではない。それより、リク隊長。一人で二万のヴァルキリア兵を屠ったというのは事実でしょうか?」
「あ……うん、まあ」
「一体、どのような手を?」
「風魔法で」
「あ、私と一緒ですよね!」
レインさんが間に入る。
「マジックポイントを集中させて、魔法を作り出す。私は水魔法極って呼んでるんですけど」
「ああ、うん。そんな感じ、です」
「なるほど……」
「あ、あの」
受け答えだけじゃなくて言いたいことを言ってみる。
「一応、僕が隊長だなんて席をもらっているんですけど、僕に敬語とか使わなくていいんで。一応ってだけで」
噛まずに言えた。一種の成長を感じる。
「そ、そんな隊長さんに向かって、ため口なんて……」
「わかった」
レインさんが戸惑った一方でドライさんは即座に受け入れた。
「そうだな。仲良くやろう。対等性というのは大事だ。もう一つ、リク。聞きたいことがある。君は剣術にも長けているという噂を聞いた。私と一つ手合わせをしてはくれないだろうか?」
「手合わせ、ですか」
「ああ。私も剣術には自信がある。君のような高火力の魔法がない分、チームの役に立つために、一つ取り柄がなければならない。手合わせの時に私の能力についても明かしておこう。体験したほうが、わかりやすいだろうしな」
「わかりました」
渡されたのは木刀。
昼休憩の際に、馬車から降りて、そこで一回剣を交えることとなった。
「行くぞ」
相手の立ち姿は素直に美しい。強い「芯」のようなものを感じる。これから繰り出される剣術はかなりの練度を誇っているのだろうと予測できるほどだ。
かといって、私の剣術もひどいものではないし、ステータス増強のぶんもあって、ぼこぼこにされるなんてことはないように思う。実際やってみなければわからないが。
「で、では私が審判を務めさせていただきます。一本先取です。では、はじめ!」
レインさんの一言で私たちは同時に駆け始めた。相手の先制攻撃に私が受けをする形。払うように放たれた剣に対して、私は衝撃に備え、強く構えた。
放たれた攻撃は想像よりは強くなかった。それほど強く構えなくとも受けられる攻撃。しかし、その流れに一瞬の無駄もなく、続けて攻撃が放たれる。
続いた攻撃に私の軸が少しぶれた。相手の攻撃の威力は変わっていない。それなのに、私は攻撃に押された。
さらに攻撃は繰り返される。流れるように、放たれるその剣撃は全く持って無駄がない。そのうえ、一撃一撃は重い。私から明確な反撃の術がないのだ。しかも、攻撃の度に私の力が奪われていく。
これはまずい。そうはんだんして、無詠唱の軽い風魔法を発動させてから、地面を強く蹴って、距離を置いた。
「……吸収魔法って言ってましたね。剣に、その力を付与しているんですか?」
そう尋ねた私に、ドライさんは少し戸惑っていた。それから、少し考えるそぶりを見せると、口を開く。
「ああ、その考察はあっている。けれど、私からも疑問がある。私の吸収魔法は剣を通じて、相手の体のマジックポイントを根こそぎ奪い取り、力も同時に減少させるものだ。なのに、君からはマジックポイントをいくら奪っても、尽きる未来が見えない。何が起きているんだ?」
「…………」
その理由はわかる。だが、話していいものだろうか。一応私は隊長という職を預かっている。それなのに、不信感を煽るような発言をしていいのか。
いや、ここで理由を語らないほうが不信感を煽るのではないだろうか。わからない。正解の選択肢がわからない。
「リク、君は固有スキルがあるのか?」
「……いえ、実は僕は……」
「いいの、喋っちゃって」
突如として「私」が現れ、私の耳元で囁いた。
「二つの魔法構造を持つ人間なんて、本当に人間なの? 死なない人間なんて本当に人間なの? 気持ち悪いよね。変な話だよね。聞いている側からすれば、あなたのことを正真正銘化け物――悪魔だと思うんじゃない? それが普通だよ。そして、それが答えなんだよ」
「…………」
何も言えない。
「無限大のマジックポイントがあるのか? それとも、強くマジックポイントを引きつけているのか?」
「…………」
「仲間だろ。話してくれ」
隊長という立場である人間が自分のことだけ秘密にしていいものか。
いや、よくないだろう。
私はおそるおそる口を開く。
「僕には……二つの魔法構造が体内にあります。一つは風魔法を発動するための魔法構造。もう一つは回復魔法を発動し、マジックポイントが無限にある魔法構造です。おそらく、大きい方の魔法構造を勝手に選択して吸収魔法が発動しているためにそのようなことが起こっているんだと思います」
怖くてドライさんのほうが見えなかった。が、ドライさんの口から出た言葉は予想外のものだった。
「なるほど。二種類の魔法を使えるのか、それに加えて無限大のマジックポイント。イーリアの英雄は英雄と呼ばれるほどの特殊性を持つのか」
続けてドライさんは言う。
「正直な話、君のような小僧が隊長だというのを知って、不安だった。というより、嫌な気がした。けれど、君は隊長となるだけの素質があるようだ。いい、もう手合わせなんてやめだ。私も君についていこうという決心がついた」
そう言って、彼はゆっくり私の方へ近づき、右手を差し伸べた。
その意図が分かった私も右手を出し、握手を交わした。
「運が良かったんだよ」
「…………」
「普通の人間なら気持ち悪いって思うはずだから」
「…………」
「返してくれないね。私、寂しいよ」
黙れ。
「ふーん、まあいいや」
それから二週間後、夕方に、私たちはエゴエスア・レベリアの国境に位置する街インディヴァティにたどり着いた。そこのまあまあ大きい豪華な屋敷が私たちに用意された住居らしく、二国が私たちへそれなりに期待を寄せているのだとわかる。
さて、エゴエスアから来たメンバー三人を紹介しよう。
一人目。ファインという少年。その名の通り元気な少年で、扱う魔法は炎魔法。金髪で緑の目をしていて、そう言う層に需要がありそうな見た目をしている。背も小さいし。年齢は十四歳だそうだ。
二人目。ラングスという青年。年は十七だから、私と同い年だ。魔法は岩魔法。所謂、細マッチョでチャラそうだから苦手なタイプだ。茶髪で、オラオラ系のイケメン。殴り合いも強そうに見える。
三人目。メイという少女。白髪で少し不思議な雰囲気を纏っている。扱う魔法は炎魔法。さらに固有スキルも持っているらしいが、ラングスもファインも知らないそうだ。ずっと黙って、空を眺めている。私も話しかけたが無視された。割と活発なシュワイヒナとは別のベクトルの背の小さい美少女だ。
総じて顔面偏差値が高い。この世界の顔面偏差値はそもそも高いが、この五人の顔面偏差値は本当に高い。びっくりするほど高い。
「なんやねん」
一人、天を仰いだ。
まあそんなことはさておき。
「では、僕から自己紹介をさせていただきます。僕の名前はリク。対固有スキル使い用少人数制特殊部隊の隊長をさせていただくこととなりました。これから、どれくらいの期間かはわかりませんが、よろしくお願いします」
いつまでこんなところにいなきゃいけないのかはわからないが、いつかはリデビュ島に帰らなくてはならない。それまでの居場所にしよう。
「ああ、よろしく頼むぜ」
ラングスがぐっと親指を立てた。ファインも元気いっぱいに笑い、ドライさんも少しだけ口角を上げ、レインさんはかわいく、手を振っていた。メイさんだけずっと空を眺めていたが。
案外楽しくやっていけそうな気がする。そう思った。
メイに部屋はここだと教えると、一人向かって、出てこなくなった。しょうがないから、残りの五人で家事の分担を決めて、それから私たちも部屋に戻った。
部屋はかなり広い。嬉しいことに風呂とトイレは備え付け。ご飯だけ食堂に集まって食べる。少人数部隊だからコックさんなんて用意されていないので、さきほど決めた分担に食事のことも決めた。
早速、風呂に入り、体を清めてからベッドに寝転がり、天井を見つめる。私たちの待遇はやけに良すぎるような気がした。固有スキル使いというのは皆、恐ろしいほど強く、その戦いはきっと苦しいものになるだろうから、こうなっているのかもしれないけれど、何か裏があるような気もする。
わかっていることがあまりにも少ないから、何も推理なんてできやしないから、考えたって無駄なのだけれども、なんだか嫌な気がする。
まあいいや。
明日からは筋トレをして、要請があったら出動する。ちゃんと期待に応えられるようにレベルも挙げて行かなくちゃ。
とりあえず、寝よう。そう思っていた矢先、ドアをノックされた。
誰か私に言うことでもあるのだろうか。
そう思い、ドアの方へ向かう。カギを開けて、ドアを開けると、そこには
「……リク――おねえちゃん、かな?」
白髪の美少女が立っていた。




