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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第三章 少女達の英雄譚
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第九話 遂行

「君の気持ちはわかる。だが、ここはこらえてくれ」

「……無理だ。あいつは……大切な人なんだ」

「だが……」

 心が痛い。

 人道的によろしくない行いだなんてことはわかっている。しかし、そもそも戦争自体が人道的によくないのであって、その中でどこまでをセーフとしてどこまでをアウトとするかは個々人の良心が決めるラインだ。これが、怪我人から出た案ならば素晴らしい自己犠牲として称賛する人もいるかもしれないが、それでも死人が出なければ突破できない状況を作ってしまったほうに責任があるわけで、結局、何も良いとは言い切れなくなる。

「あいつがいないと俺はどうしようもなくなるんだよ!」

 感情を爆発させる細身の方の男に隊長は

「……申し訳ない」

 そうぽつりとつぶやいた。そこから漂うあまりの悲哀に叫んでいた男も委縮する。

 微妙な雰囲気になったので、私はそっとその場から抜け出そうとした。どうも、このような場所にはいられない。が、それよりも先に、細い方が

「失礼します」

 そう言って、退出した。

「彼の気持ちもわかる」

 隊長は私のほうを見てそう言う。

「彼には……そういう関係の仲間がいる。そして、その仲間は怪我をしているのだ。我輩の見立てではおそらく……助からない」

「……」

「ほとんど死が確定しているような状況というのはおそらく彼も理解している。そして、この作戦では間違いなくその仲間は前線に立たされるだろうし、それを望む人だ。それも、彼は理解しているのだ。だから、反対するほかない」

「……」

「この世には理性では割り切れぬところもある。前線に立つのは志願兵だけにしよう。それも、我らの許可があってのことだ。向こうの戦闘が終わり次第、その選別に入る。もう下がってよい」

「はい」


 空はどんよりとした灰色をしていた。見ているだけで気分が下がってしまう。それでないでも憂鬱な気分なのに。

「どうせ、彼らのことなんて凛さんには関係ありませんよ」

「……関係なくもないけど」

「御託は並べましたけど、凛さんのための作戦ですものね」

「……言わないで」

 これしか思いつかなかったわけだが、同時にこの作戦には私にとって大きな利点があった。

「凛さんが真ん中にいることで、相手にする人数は必然的に多くなる。レベル上げの効率的には良いですよね」

 私には固有スキルを発現させて、リデビュ島を救うという使命がある。そのためにはレベルを百にしなければならない。したがって、私はより自分のレベルを上げる方法をとらなければならないのだ。

「方法ならあるとか言っていたくせに人の命はさっさと切り捨てるんですね」

「うるさい」

 それは私が言って欲しくないことだろう。


 今日の戦闘も何もなく終了したそうだ。向こうの火力が若干落ちているという報告があったが、戦況を傾けるほどではない。

 隊長から私は立ち会う必要がないと言われ、用意されたテントで一人横になった。

「眠れないんですか?」

「眠れないよ」

「どうしてですか?」

「わかってるくせに聞かないで」

「口に出すとよいこともありますよ」

 そんなこと言われたって。

 より多くの人の命を救うためにはしょうがないことだって、自分に何度も言い聞かせる度、もっと良い案が出なかったのかと自分を責め立てる声がする。

 けれど、それさえも無視してしまえば私は何でもできる。自分が闇覚醒をしていると思い込んだことで人を殺せたから。自分が何をしても全て神のせいだって、私にこう言うのを強制させている世界のせいだって自分に言い聞かせればいい。

 それだけのはずだから。

 そう思うと、なんだか眠れるような気がした。


 翌朝、私は隊長のところへ向かった。

「何人、集まりましたか?」

「九百五十人だ」

「……わかりました」

 そんなにも多くの、と言いたいところだが、やはり人が少なく感じる。昨日から比べるとぐっと減ったように見えるだろう。

「奇襲組は横の敵に見えない方面に配置すると言いましたが、怪我人以外でも前線に配置しましょう。向こうに有利だと思わせることが重要ですから、全員の命を失わせる必要はありません」

「そう言うと思っていた。既に作戦と配置の説明は済ませてある」

「ありがとうございます」

「リク、君に作戦遂行長の職を任命する。頑張りたまえ」

「はい」

 私が使える兵は約千六百人。残りの戦えるメンバーは隊長の指揮のもと動く。

 ヴァルキリア側からすれば違うが、レベリア側からすれば間違いなく総力戦だ。私のミスが多くの人間の命を奪うことになる。

 絶対そうはならないように。

 そう心に固く誓い、私は部隊の下へ向かった。


「リクといいます。この度作戦遂行長に任命されました。よろしくお願いします」

 そう自己紹介をした私へ向けられた視線は一言でいえば「懐疑」のそれだった。が、隊長から任命された人間ということで一定の信用はされているらしく、文句も出てこなかったし、いきなり持ち場を離れるということもなかった。が、その原因はただ信用されているだけではなく、彼らから湧き出る無気力さ故でもあるような気がする。言われたままに動き、言われたままに死ぬ。そういう運命を受け入れているようでもあった。

 だから、いけないと思っていても口に出してしまう。

「僕はみんなに死んでくれと言いたいわけではありません」

 そう口走ったとき、私はやってしまったなと感じた。その時、彼らは私を一瞬だけ睨みつけたのだ。

 気持ちはわかる。私だっていきなりそんなこと言われたら、イラっと来てしまう。

 だって、誰かが死なないと成り立たない作戦なのだ。明らかな死んだふりなどあまり功を為さない。それゆえに私の言ったことは彼らの奥にあるはずの死にたくないという思いを逆なでする結果になってしまっているのだ。

「リクさん……だっけか。言っておくが、俺たちが従うのは隊長に対してだ。お前に対してじゃない。隊長が従えっていえば、お前にも従うかもしれないが、俺たちだって自分の立場も弱さもわきまえている。無駄な心配なんざしなくていい。俺たちは生き残る」

 そう言ったのは比較的元気そうな兵士だった。腕に包帯を巻いているだけであって、軽症のように見える。

 重症以外でも怪我人は後ろに出されていたのだろう。それだけ隊長は生存率を上げたかったのだ。それが、多くの死をもたらすのならば、元も子もないが……。

 実は普通に魔法の火力で勝っていたのではないかという疑問が頭に浮かんできた。けれど、敵の強さが分からない以上、敵の強さを無視できる混乱状態に落とし込んだほうがいいというのは自然な発想。

 しかし、ここに来て、私はまた弱腰になってしまっていた。

「すみません」

「謝らなくてもいい。てめえは悪くない。全部、あいつらが悪いんだ」

 そう言う彼の手は震えていた。


 体が震え、ひどく寒く感じる。もちろん、その寒さは緊張のためであるが、それを隠し、私は最前線に立った。敵がとても遠く見える。

 あとは敵の攻撃を待つのみ。最高火力の魔法を放ったのに防ぎきれず死傷者が出てしまったという状況を作り、敵の攻撃を誘う。それだけだ。必ずうまくいくはず。

「魔法部隊戦闘用意!」

 私は大きく叫んだ。それとともに、最前線で戦闘部隊が構える。それを見て、敵も構えた。

 心が焼き切れそうな緊張感のまま、静かに時が過ぎていく。

 ほとんど瞬きもしないまま、敵を見つめた。そして――

「発射!」

 敵の魔法が放たれた瞬間、こちらも一斉に魔法を放った。敵の威力は止まらない。圧倒的な炎魔法の火力を前に、こちらの放った魔法では間に合わない。

 ――それでいいはずだった。

 私は途端に怖くなった。私のこんな作戦のせいで人が死ぬという結末を認めたくなかった。だから、ベストを尽くしたくなってしまった。

 つまるところ、私は非常な人間にはなれなかったのだ。

 マジックポイントを使い果たす気で、魔法が放たれる。炎魔法を押し返していく。そして気づけば相手の魔法を巻き込んで、敵陣を燃え上がらせた。

「…………」

 目の前に広がる惨状を見て、後悔に襲われる。が、これでよかったんじゃないかと私は内心思い始めていた。案外、自分の魔法の火力が高く、跳ね返せたのならば、それですべて解決じゃないか。

 一種の慢心だった。

「全軍突撃!」

 地面にとどろく足音とともに敵軍は走り始めた。それから、すべてを察する。

「……全軍突撃!」

 私も叫んだ。

 敵の魔法の威力は本来よりも下がっていた。そして、その後ろから大量の軍が攻撃を始めている。

 何が言いたいかと言えば敵と作戦が丸被りしていた。

 ただの偶然だろうか。それとも、内通者がいたのか。

 今はどちらでもいい。

 人と人が殺しあう。輝く刃を振るい、茶色い地面を赤黒く染め上げていく。誰もかれもが幸せにならない殺し合いが展開され始めた。

 右側と左側に展開していた奇襲部隊も入り交じり、地獄絵図がそこには広がっている。その中で、私も走り始めた。

 もはや、味方側に状況を理解できている人間はいない。私も何もわかっていない。ただただ、目の前にある死を回避するために剣を振るい始める。

 死体が転がり始めた。いくつも、いくつも、いくつも。

「くそが!」

 柄にもない声を上げながら、敵軍へ突っ込んだ。敵は弱い。一人一人の実力は大したことない。が、集団になったとき、それは十分な脅威となり得る。だから、全力で剣を振るう。

 それでも、私の中にはまだ慢心が残っていた。それは、敵が弱いと勝手に決めつけていたことに由来する。

 それを後悔したのは私の右胸に剣が突き刺さったのを感じた時だった。


「おい、お前」

 男はにやりと笑い、何も理解してやいない惚けた顔をした私を見つめた。

「左じゃなくて良かったな」

 耳がはじけ飛んでしまいそうな喧騒の中、その声だけはやけにはっきりと聞き取れた。そして、次の瞬間には、

「おい!」

 男の首が目の前でどこかに飛んでいった。もしかしたら、潰れてしまったのかもしれない。

 そうやって助けてくれた仲間の兵士も次の瞬間には血を噴き出して倒れた。

 それを見ながら、急激に意識が遠のいていく。土の匂いを全身で感じた。……いや、これは私の血の匂いだなあなんて思いながら、理由のわからない息苦しさを感じる。当たり前だ。肺が片方潰されたのだ。もうじき私は死ぬ。そういう確信が頭の中に確かにあった。

 それなのに、私は立ち上がろうとしてしまう。これじゃゾンビみたいじゃないかなんて思いながら、もう一度剣を握り始める。

 息苦しさが消えて行く。なぜだ、なぜ。

 ふらついた左手で胸を押さえる。確かに開いた穴がそこにあった。なんなら指も入る。どうやら肋骨も折れているようだが、それでも体が回復していくのを感じる。回復魔法なんて当然かけられていない。それなのに、まだ私は歩き始められる。

 激情。

 走り出したい。この剣を振るって、もっと多く仲間を守るためにもっと多くの敵を殺さなければならないのだ。そうだ、私はそういう英雄にならなきゃ。

 私が立てた理由なんて気にしてはいけない。走れ。

 周りにいる大量の敵を殺せ。


 大量の血でできた水たまりの上に私は立っていた。

「……お前が隠し玉か?」

 長身の男が一人、私の前に立っている。

 金髪で全身にアクセサリーをつけたいかにもチャラそうな男だった。それも全身に血がべったりとついていて気持ちが悪い。……私も人のことは言えないが。

「化け物か? てめえ右胸、穴開いてんだろ。なんで生きてんだよ」

「…………知らない」

 周りに人はいない。私たち二人から距離を置いて、二つの軍は戦闘を繰り広げている。

「敵に隠し玉がいた場合、俺が当てられるようになってるんだ。てめえは俺の仲間を大量に殺した。話は聞いてるぞ。別の部隊も一人で潰したらしいな。女みたいな男みたいな姿をしたやつだって聞いた。へっ、実際のところどっちなんだ?」

「どっちでもいいだろ」

「つれねえな。俺はどっちでもいけるぞ」

「…………」

「男でも女でも殺す時は気持ちが良い。それなのに、万が一のために俺は隠しておくなんて上も変なこと考えるよなあ。俺が負けるわけないのに」

「……そういうこと言うやつって大体負けるんだよね」

「確かめてみようぜ」

 男は巨大な鎌のようなものを構える。そして、

「固有スキル、ブラッドシクル」

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