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異世界チーレム主人公は私の敵です。  作者: ブロッコリー
第一章 リーベルテ
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プロローグ

 鬱蒼とした森の中、また私は仲間の死体を見つけた。隣にいる葦塚桜さんが悔しそうな表情を浮かべる。

 その死体はもはや誰なのかすら確認できなかった。手や、少しだけ残っている軍服だけが仲間であることを示していたが、それはただの肉片だ。

 死んだ。また死んだ。犠牲者なんて出したくなかったのに、それは増え続ける一方だった。

 あの人も。あの人も。みんないい人だった。なのに……

 はじめはあんなにいた軍も今や半分を下回っている。いや、半分なんかよりももっと少ないのだろう。どうして、どうしてこうなったのだ?

 と、遠くに愛する人の影を見た。

「シュワイヒナ、シュワイヒナ!」

 答えてほしくて、恐怖を紛らわせたくて――安心が欲しくて私はその名を呼んだ。

「凛さん!」

 彼女の姿が現れたような気がした。でも、手を伸ばしても、手をつかむことなどできなかった。幻だった。もうそれだけ追い詰められちゃったのかな。元気でいられているといいけれど。

 わけのわからない世界。理不尽な世界。

 そうだ。この世界はそんな世界。元の世界も理不尽極まりない世界だったのに、もはや比べ物にならない。こんなの戦争じゃない。ただの虐殺だ。

 あいつは人じゃないのか? そうとしか思えない。レベル九百九十九で、魔法は無限に打ち出せる。殴られれば、それだけで人は木っ端みじんになり、魔法を打たれれば、消滅する。そのうえで、攻撃の全てが効かない。明らかにパワーバランスを崩壊させている存在だ。

 この世界の強さを表す指数――レベル。また、異能力である固有スキルと魔法。

 そんなものがあるこの世界がもしゲームであるとするならば絶版確定だ。なんであんな「チーレム主人公」が私の敵なんだよ。私が彼に反対せずにいれば、私は幸せだったのか? どっちに転んでも私は幸せにはなれなかったのか? 

 神よ。私の命ばっかり永らえさせて何が楽しいんだ。お陰でもっと大事な人たちが死んじゃったじゃないか。こんなことがあってはいけないだろう。それなのになぜ……

「凛、あなたには生きていてもらわないといけないの。それが私たちの神の意思よ」

 桜さんは私に向かって、しっかりした口調で話す。

「なんで、なんで……私なんですか!?」

「分からないわ。ただ、あなたを生き残らせておけば、君は幸せになれると。そう神が言ったのよ」

「桜さん! あなたは神を信じるんですか!?」

「もう頼れるものはそれしかないのよ!」

 彼女はぼろぼろ涙を流していた。こんな涙を流させてしまったことがたまらなく悔しい。

「さあ、生き残りなさい。そして強くなりなさい。いつか、あいつを倒すために」

「私には無理です……弱すぎる。私は弱いんですよ!」

「ダメよ。シュワイヒナ――あなたの大切な人のためにも、そして死んでしまった者たちのためにもあなたは生き残らないといけないの」

 ああ、理不尽だ。神よ。私はどうすればいい? なぜ私なんだ? 訳の分からないまま、この世界に来させられて、人が死んでいくのを目の当たりにさせられて、どうして、それでも尚、私は立ち上がらないといけないのか。どうすれば強くなれるかもわからないのに。

「さあ、生き残って。そして強くなって戻ってきて。あなたは最後の『希望』なのだから」

 希望なんて言葉は私には重すぎるのに。それでも運命は私を許しはしない。

 桜さんは私の頭に手をかざした。そして、彼女の「固有スキル」を使用する。

「ワープ。強くなって、凛」

 その瞬間に私の視界は渦巻き始めた。それとともに周りを覆っていた森の葉っぱが擦れる音が消えていった。あの感覚が来る。それでも目に深くこびり付いたあの景色は――惨状は消えやしなかった。

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