過去
私は白井君の話を聞くために中学校へ向かうことにした。
良和高校から来たということを中学校側には伝えているが、自分の高校には一切告げていない。
自分のクラスと全く関係ないということもあるが、変に私の行動に勘付かれた場合白井君を助けることが完全に出来なくなる恐れがあったからだ。
幸運にも白井君の担任だった教師はまだ在籍しているようだった。
私は中学校に入り職員室へと足を運んだ。
「はじめまして。卯園緑と申します。お聞きしたいことがあって来ました」
「こちらこそはじめまして。田中泰三と申します。わざわざ来てくださりありがとうございます。立ち話もなんですから場所を移動しましょう」
私は田中先生に連れられ空き教室に向かった。
「それでは早速本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか。白井君のことなんですが」
「白井君ですか」
「はい。白井君は3年の途中まではここにいたという話を聞きまして。彼について聞くのであればこちらの中学が良いかと思い訪ねました」
「なるほど。まあそうですね。ここには2年以上いたわけですし、私達の方が良く知っているでしょう」
「彼は中学校の時はどんな生徒でしたか?」
「彼は活発で明るい男の子でしたよ。誰に対しても優しく皆からの人気も高かった。あの学年の1番の人気者と言っても過言ではない生徒ですよ」
「本当ですか。聞いていた話と全然違いますね」
この間生徒に聞いた白井君とはまるで別人のようだった。
「全然違う?どういうことですか?」
「転校先の生徒に少し話を聞いたのですが、大人しく一人で本を読んでいることが多いと言っていました」
「彼が本を。私の知る彼からは考えられない光景ですね。彼は寧ろ本が嫌いな生徒でしたね。朝本を読む時間によく本を読むふりをして漫画を読んでいましたね」
「そうなんですか。彼に何があったんでしょうか⋯⋯」
「あと1つ気になった点があるんですが、あなたは良和高校の先生ですよね」
「はい」
「ちょっと失礼な発言になるかもしれないんですが、あなた方の高校に彼は元々行くなんて言ったことは一度もないんですよ。県内でトップの高校に行くと言っていて、実際に成績も良かったので私達は皆彼に期待していました。この中学の生徒が県内トップの学校に行くのではと。そんな彼が良和高校を受けるとは思えないんです。受験日程も被っていますし」
「確かにそれなら意外ですね。落とすにしてももう何段階か高校はありますしね。流石にここまで下げることは無さそうです」
数学は教えているので成績はある程度分かるのだが、その片鱗はあった。わざと難しい問題を1つ入れてみたのだが、何の苦戦もしていなかった。ここの生徒だったら解けないと思っていたので驚いた記憶がある。
「私のイメージと全く違いますね。本当に同じ人とは思えない」
「折角なので写真で実際にどうだったか見ますか?」
田中先生は私に待ってもらうように言い職員室に戻った。




