○部活巡り
笑って生きたやつの勝ちだ。これは、俺のじいちゃんの言葉だ。
そんなに面白いことがそこら辺にうじゃうじゃと転がっててたまるか。これは、俺の父さんの言葉だ。
だったら面白いことを探して右往左往しようぜ。これは俺が俺の子供に言ってやろうと思っている言葉だ。
今は将来そう言えるように右往左往を繰り返すのが俺の日課で、だから俺の高校生活はそれなりにせわしない。
さて、次はどこを探そうか。
◆
踏みしめる度に微かに軋む板張りの廊下をまっすぐ行くと、突き当たりのドアに『演劇部』というプレートが見えた。ドアの前に立ち止まった俺は、ポケットからプリントを取り出して四つ折りを開く。
全部活のリストを下さい。
転校初日にそうお願いしたところ、「工藤はやる気があるなあ」と嬉しそうに担任が準備してくれたものだ。リストにずらりと並ぶ部活の数は四十二。そのうちの四十個には既にレ点がついている。印がついていないのは『演劇部』と『ロボット研究部』の二つだけだ。
どうせなら一番面白い部活に入りたい。
そう考えて転校初日から手当たりしだいにゲリラ部活見学に押しかけ、ここまでくるのに二週間かかった。色々あったけれども、今日で一通りの見学は終わり、実際に入部する先を決めることになる。
何だか感慨深く思いながら、演劇部のドアに手を伸ばす。既に四十回も繰り返しているから、緊張もない。深呼吸をして笑顔を作って背筋を伸ばし、
……なんだこれ?
笑顔でドアと相対した俺はその時ようやくその貼紙に気付いた。
いやまあ、部室のドアに貼紙がある事自体は別に普通だ。よその部室にも催し物の案内やら去年の学祭のビラやら備品返却を求める生徒会の督促状やらいろんなものがごちゃごちゃと貼られている。それらはその部活がどんなところなのか雄弁に物語るから、これまでも見学を終えたあとに一通り目を通してきた。
けれども、演劇部のこれはよそとはちょっと違った。
紙は多分A3のコピー用紙、俺の目線より少し下に縦向きで貼りつけられている。そこに踊るのは黒のぶっといマジックペンの文字で、内容はこうだ。
『ようこそ工藤理一郎くん。世界の半分を手にしたければ、そのままドアを開け給え』
虚を突かれた俺はドアノブから手を引っ込めかけ、すぐに考え直す。
ひとつ。貼紙にある工藤理一郎は俺の名前だ。
ひとつ。貰えるものはとりあえず何でも貰っておくのが俺の流儀だ。ポケットティッシュだろうが世界の半分だろうが、くれるというならもらうにやぶさかではない。
なんだ、何も問題ないじゃん。
世界の半分という言葉に何か特殊な痛さは感じ取れたけれども、まあ演劇部なんだしこれくらいはありだろうと納得し、俺は再びドアノブに手を伸ばす。
廊下をじっとりと満たす残暑の空気とは裏腹に、握ったドアノブは少しひんやりとしていた。
勢い良く、ドアを開く。
鬼が出るか蛇が出るか。なんであれ、楽しくあればそれでよし。
「こんにちはー。見学希望なんですが、今、大丈夫でしょうか?」




