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ののの!!②

 暖かい日差しの下で二人の足音だけがあたりに響く。正直かなり気まずい……。秘密(?)に触れてしまったことをさっき謝ったけど、フンと鼻を鳴らすだけで無視されてしまった。


「はぁ……。」


 そうだよなあ。当然だよなあ。出会って一日も立っていない奇妙な異世界人に揶揄されるような形で秘密に触れられたんだもんな。そりゃ普通なら怒るよなあ。


「はぁ~~~~……。」


 ぶつぶつととりとめもなく湧き出るマイナス思考を呟きながら、僕は大きくため息をついた。


 それがノノの耳にも届いたのか、先を歩いていたノノが振り返って言った。


「……もう、もういいですから! ハヤテ様はもちろん知っていますし、別に秘密にしてるわけじゃないけど……恥ずかしいので他言無用ですよ。」


 おおおノノさん、なんかチョロすぎでしょ。と、僕の中の暗黒面がちらりと顔をのぞかせるが、いやいや彼女は傷付いてなお、僕を許してくれているのかもしれないし、と己の心を律する。


 暗黒面の思考は口にも顔にも出さないように気を付けて、なるべく仮面様の顔貌で……と。


「ワカッタヨ。許シテクレテアリガトウ。今度モフらせてね。」


「モフる?なんですかそれ? 」

 

 しまった!もじもじしてるノノの尻尾(?)に気を取られてついつい本音が漏れてしまった。ていうか全く隠せてないよ、その尻尾(?)。


「エット、僕の世界の言葉で恩を返すっていう意味ダヨ? 」


「ふーん?なんか穢らわしい響きですね。」


「ケガラワシクナイヨ、今度モフラセテネ? 」


「はいはい。しょうがないですね。」


 なんか本能的に察知してそうだけど、何とかごまかせた気がする。あぶないあぶない、もしばれてたら未来永劫口を聞いてもらえない気がする。


「ほらそろそろ見えてくるはずですよ。」


「なにが? 」



 街道が丘のてっぺんに差し掛かかり登りきったところで、僕らの眼下に広がっていたのは海岸沿いに形成された中規模の城下町だった。


 この丘からは城下町特有の複雑に絡み合った路地や、街の北部先端海側突き出た地形と、そこに建てられた白漆喰の天守閣さえも一望することができた。



「おおお! これは綺麗! 」


「街の名は荻守と言います。あの城が荻守城ですね。」


 これだけ規模が大きいと不意に不安になる。ハヤテは自分のことを領主だとか言っていなかったっけ?


「もしかして、あの城もハヤテ……様の?」


 まさかとノノは笑う。

 

「ハヤテ様の一族は森付近の守護を代々任されているだけで、荻守の街には殿がいらっしゃいますよ。」


「そっか、良かった。とんでもない無礼を働いてしまったんじゃないかとと思って急に不安になってさ。」


「あなた様のような存在が無礼な方は、とてもじゃないですが恐ろしくて殿にお会いさせることなどできませんから。」


 ノノさん冗談にしても目が笑ってないよ。僕らは再び歩き出した。


      ◇


 正午も回り、団子屋で軽食を済ませた後、僕らは買い物を終えて街を出ようとしていた。


「重いなー。結構買い物いっぱいしたね。」


 行くときに準備していた大風呂敷はすでにパンパンになってしまっている。


「あなたの分の古着と食材でいっぱいになっているんですから、我慢して運んでください! まったく、だれのお金で……。」


 そう言ってノノはスタスタとどんどん先に歩いてゆく。


 二人で買い物をしていて何度も感じたことは、ノノそしてハヤテがこの街の人から本当に愛されているということだった。


 野菜を売っている商人のおじさんには、タダで芋を持って行っていいよと言われたり(それでもノノはお金を置いていったが)、古着屋のお兄さんはいつも胸を苦しくさせて貰っています(現代なら事案だよね! )とかいう謎な理由で安くしてもらったり、皆がふたりのことを良く知っているようだった。


 ハヤテの両親が先立っているということもあり、二人は街の多くの人たちに支えられてきたのかもしれない。


 僕はひょいと大きな風呂敷を肩に掛けなおすと、小走りでノノに追いついた。


「街の人たち、みんな優しかったね。」


「……ハヤテ様の家のこと。みんな知ってますから。」


 ノノは複雑そうな表情で言った。


「それでも人に優しくするって簡単なことじゃないよ。」


「それくらい、知ってます。」


 悲しい顔だ。きっとノノは痛いくらい知っている。ヒトの痛みを知って、自分の強さを持って、それでも優しくあり続ける人なんてほとんどいない。


「そっか……。」


 沈黙が流れる。日差しが暖かい。野原の匂いがする。


「そういえばノノの家族ってどうしてるの? 」


 また静寂が訪れる。それでも歩みは止まらない。


「……私の家族はハヤテ様だけです。」


 まるで自分に刃を向けるのが躊躇われるように、ノノは一瞬だけ間をとってこう言った。


「私……ノノは、ハヤテ様のご両親、先代に買われたんです。」


 ぬるま湯に漬かって人生を送ってきた僕には、この時、気の利いた言葉を選べる強さなんてなかった。



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