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ののの!!①

      ◇


「お!! おいしい! 」

 

 朝食として香草の粥と茄子とキュウリ(?)っぽいものの浅漬けが出されたが、これがなかなか香りと塩気がちょうどよく美味であった。


「なあ、これノノさんが作ったの? 」


「そうですけど、なにか。」


 畳で敷き詰められた客間で、三人にそれぞれ一つずつお膳があてがわれており、粥がお椀に盛られ漬物が添えてある。


「すごいおいしいよ。これ何の香草使ってるの? 」


「フ、フン。ほめても何も出ませんよ。大根葉です。粗末な総一郎殿にちょうどいい残り物素材です。」


 言葉では強がっているものの、口元が少し緩んで目をパチパチさせている。この子ってもしかしたら凄くちょろいのかもしれない。


「ノノは料理がほんとにうまいからの~。美味美味。」


 ハヤテも美味美味と呟きながら粥を堪能していた。


「ところで二人は今日どうするつもりなの? 」


「わたしは、昨日のこともあったから今日も森を見て回らなきゃいけないのう。」


 ハヤテは面倒だけど、と呟きながら言った。


「私はハヤテ様とは別に、街の市場まで買い出しに行かなければなりませんね。食い扶持が一人増えましたから。」


 ちらっと僕の方を流し見して笑う。


「……ハハハ。」


これは苦笑いして誤魔化す以外なさそうだ。


「そういえば総一郎。何かやれそうなこと、考えてみたかの? 」


 ハヤテが思い出したように聞いてくる。


 考えてみたんだけどね。考えては。実際にできるかと言われたらどれも怪しくて。


「まだ考え中。この国で出来ることが何かとかまだ想像もつかないし、もうちょっと時間が欲しいかな。」


「まあ、すぐに見つけよとは言っておらぬしな。ところで、ぬしはもとの世界では何を仕事にして暮らしておったのか?」


「学生だよ。勉強をしてたんだ。」


 するとハヤテは不思議そうな顔をして


「学び舎にいるには主は少々歳をとりすぎているようにも見えるが……。」


と言った。


 確かに大学というものが無いだろうこの世界で、20台中盤まで生徒でいることは奇妙に映るのかもしれなかった。


「僕がいた世界ではそういう人もいたんだよ。」


 まあ、僕は二浪して六年制の医学部に入学したから、もとの世界でも「二十四歳 学生です」なーんて言ったら奇妙がられたけどね。


「ふむ、働かずに食っていけるのなら、それもよいやもしれんなあ。」


「厳密にはそうじゃないけどね。僕は両親に養ってもらっていたから。」


「なんと。総一郎の家はそんなに太いのか? 」


「いや、そうじゃなくて……。こっちの世界ではそういう人もいるんだ。」


「ほう。おもしろいのう。」


 ふむふむ……とハヤテは納得しているようだったが、僕はなんか情けない気分になってきて正直辛かった。ああ、もっと社会勉強しておけばよかった。


「ま、そのくらい違うわけだし、向こうで学んだことがこっちの世界では役に立つか分からないからなー。今日はこれといって何かをしたいとかないし、こっちの世界の勉強がてら二人のどちらかを手伝うよ。」


「ならノノに付いていくがよい。わたしについてきてもぬしに出来ることは少ないしな。ノノに付いていけば荷物持ちくらいはできるだろうに。」


「わかったよ。」


「ノノ良いな? 」


「………ハヤテ様がどうしてもと仰るなら。」


ノノは不満顔だった。


      ◇


「これ、指のとこ凄い擦れて痛いんだけど。」


 館を出る前、ハヤテに、


「いまの主の恰好は珍妙すぎる。父上が着ていたものが残っているから、着替えてから行くがよい。ついでに替えの服も必要じゃろうから買ってくること。」


 と言われて着替えたものの、履き慣れていない草履に小袖と袴で1時間近く歩くのは辛いものがあった。なんでも雪駄と呼ばれる割と高級な部類の草履らしいけど、痛いものは痛い。


「……。」


 そんな僕の悲痛の声を完全無視しどんどん歩いていってしまうノノ。館から十分ほど小道を歩くと鬱蒼と生い茂る木々の姿はなくなり、畑と小さい民家が点在する街道になっていた。


 森を出てしまえば空の色は僕がいた世界と同じで、違いだあるとすればすれ違う通行人に獣耳が生えてたりすることくらいだった。


「ああいう耳とか尻尾とか生えてる人って人間じゃないんだよね? 」


「だったらなんだというのですか。」


 相変わらず不愛想にしか答えてくれない。


「触ってみたいなって思って。」


 僕の発言を聞いてノノは急に立ち止まりブルブルブルと震えた。


「なんてけがらわしい! あなたに尻尾を触られたいヒトなんて絶対にいません! 」


 突然過剰に反応しちゃってこの娘はどうしたんだろうと思ってみてみると、浴衣風の着物のお尻のところが何やらもぞもぞと可愛らしく動いている。


「ノノさんってもしかして……? 」


「知りません! 穢らわしいです! 」


 顔を真っ赤にしてスタスタと先に歩いて行ってしまった。


 ノノにとっては知られたくなかったことなのかもしれない。街までしばらくかかりそうだし、追いついてしっかり謝っておこう。


      ◇




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