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じごく!?

      ◇


「いやあ、ご迷惑をおかけしましただ。ハヤテ様には頭が上がらねえだ。」


 巨体の主、赤鬼が頭を掻きながら言った。


「オラもどうしてこんなことになったか見当もつかないだよ。」


 ここは灯籠の火の揺らめく室内、赤鬼を含めて僕たちはハヤテの館に引き返して来ていた。


 僕に関して言えば、自分がなぜここにいるのか全く分からないし、帰る場所もないということをはやてに伝えたら、「とりあえずわたしの館に来るのがよかろ」とありがたいことに居場所を提供してくれるようだった。ノノは露骨に嫌な顔をしていたが。


 ハヤテの館は僕が知っている小さな温泉旅館くらいの和風建築で、電気やガスといったインフラは存在しないみたいだ。現在は、僕、ハヤテ、ノノ、赤鬼の四人で客間におり、どういった経緯で赤鬼が暴れるに至ったか話を聞いている。


「最近はどうも森の様子がおかしいからのー。」


 部屋着だろうか? 、青色の甚兵衛に着替えたハヤテがズズズとお茶をすすりながら言った。


「まったく、ハヤテ様の手を煩わせないでほしいものですね。」


 ノノの方は薄黄色の甚兵衛に着替えており、なんとも可愛らしい様子でちょこんと腰かけている。


「も、申し訳ありませんだ。」


 赤鬼がすごい勢いで頭を下げる。さっきの鬼だけに鬼気迫る様子とはうって変わって善良な鬼感がすごい出ていた。


「にしても、あの液体は何かの薬なのか? すごい効果だったな。」


 僕は尋ねる。


 どうやらあの森はハヤテが管理しているらしく、最近は同じような事件が多いので、こういう時のために多数の落とし穴が掘ってあるとのことだった。あの戦いでは、ハヤテは意図的に吹き飛ばされて鬼を落とし穴の方に誘導していたというわけだ。


 もちろん落とすだけでは不十分で、穴の中には大量の粘着性のとりもちが置いてあって、穴から飛び出るような相当でかい鬼でない限り自力で脱出するのは不可能とのことだった。普段ハヤテとノノは森を巡回して既に穴に引っかかった鬼たちにあの液体を吹きかけてを正気に戻していると言っていた。


「わたしらヒト族に使っても色んな意味で活動的になるだけなんだがのー。なぁ、ノノ、なんという草から抽出していると言っておったか?」


「インヨウ草といったものですね。」


「へー、聞いたこともない草だなあ。」


 知らない草の名前だった。そもそも生薬とかまともに勉強したことなかったしなあ。東洋医学の試験は一夜漬けだったし、もう少しまともに勉強しておけばよかったと後悔した。


「ところで総一郎。ぬしのその奇妙な服装ななんだ?ずっと気になっておったが、ぬしの服は嗅いだことのない良い匂いもするしの。癖になりそうだ。」


 ハヤテが鼻の穴をぴくぴくさせてむふふと笑った。


「ハヤテ様。はしたないです。穢れますよ。あと嗅ぐのは禁止です。」


「うむむ……。」


「僕が前にいた所ではこれが普通なんだけどね。」


 僕が着ている服はなんてことのないTシャツとジーンズ、あとリュックに入れてたウィンドブレーカー。柔軟剤を使ってるから確かにいいにおいはするかもしれないけど、僕からしたら大したものではない。


「それに僕も分からないことだらけなんだ。」


「それで前いた所っていうのはどこだ? 」


 ハヤテは興味深そうに聞いてくる。


「ハヤテ……様は、X県X市っていうところ。知ってる? 」


 どうみても年下の少女ということもあって、様付けで呼ぶのは違和感が凄かった。


「なんだそれは? 知らないな? ノノ、赤鬼は聞いたことあるかー? 」


「ありませんね。」


「初めて聞くだ。」


 二人は声をそろえて言った。


 僕が住んでいたX県は日本人だったら確実に知っているはずだし、しかも良さそうな奴だけど鬼がいるし、ここが日本である可能性は限りなく低そうだった。


 一方で、文化形態は装飾品や室内の調度品を眺めるに日本と類似しているようにも思える。現に僕以外の三人と日本語を用いた意思疎通ができていた。となるとここはやっぱり地獄というやつなんだろうか。自分の知っている世界観と最も適合するものがそれだった。


「僕はそこに住んでたんだ。道にできた奇妙な穴をのぞき込んでたら、僕とそっくりな男に突き落とされた。それで意識を失って……。目が覚めたらあの森にいた。」


「見える穴に落とされるとな! かはは! うつけよの! 」


「さすが総一郎殿。見かけ通り知能は低そうですね。」


 なんかすごい馬鹿にされてる気がする。


「だから僕はここがどこだか分からないし、とりあえず安全そうな場所に連れてきてもらえて凄く助かっているんだ。二人ともありがとう。」


「まぁ、わたしの森で人が食われたとなれば、いい気分じゃないしの。」


「同感です。ハヤテ様。掃除の手間が増えてしまいますから。」


 どちらもなんだか照れ臭そうにいていた。僕は本当に運が良かったのかもしれない。二人が見つけてくれなかったら、他の鬼に食べられて死んでいた可能性ある。もっともここが地獄だったら死ぬのか怪しいが。


「それで、話が前後するんだけど、ここはいったいどこなの?」


 んー。とハヤテが思案顔で空を見つめた。どこから話をしようか考えているのかもしれない。


「それじゃあ、わたしが説明するかの。ノノ、仁図を持ってまいれ。」


「はっ。承りました。はやて様。」


 ノノは、すっと立ち上がるとタタタと別部屋に駆けていった。そして一分もかからないうちに幅の広い巻物を抱えて戻ってきた。


「どうぞ。」


 そしてその書物をハヤテに手渡す。


「うむ。」


 ハヤテは巻物を止める結び目を解くと、コロコロと転がして紙面を畳の上に広げた。大きな地図だった。


 そこには見たことも聞いたこともないような地名、地形が詳細に描き込まれている。

 ハヤテは、その地図の真ん中に描かれている大きな陸地を指さしこう言った。


「さて、この海に囲まれた島が見えるかの?」


 そして、一呼吸おいて。


「これが仁国。ぬしがいまいる国だな。」



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