表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

起きた!!

「総一郎、今回のテストも良くやったな」


 子供の頃、父も母もよく褒めてくれた。僕は両親の笑顔を見るのが好きだった。だから頑張れてた気がする。


 そういえば久しく誰かに褒められてない。体ばかり大人になって、子供のままの精神は置いてけぼりにされているんだ。


 僕は何をしたいんだろう。


      ◇


 ぉーぃ…ぉーぃ


 遠くから声が聞こえる気がする。僕はしばらくこの心地よい微睡みに体を預けていたかった。


 おーぃ‥おーい‥


 声が大きくなる。僕はまだ眠っていたいのに。


「おい! 」


 ガツンと頭に衝撃が走った。


「いてっ!! 」


 思わず目を見開く。黒い雲と暗赤色の空。僕が知っている夕焼けにしては少々邪悪すぎる。


「なんと。こいつ生きておったわ。くひひ。」


「ハヤテ様、わたしはさっきから生きていると申しております。」


 声がする方を向くと2人の少女がいた。一人は黒髪で前髪はパッツン。鋭い目をしているものの、イタズラっぽい笑みを浮かべている姿は年相応の少女のものだ。


 もう一人はベージュ色のショートカットでタレ目が印象的な子だ。この子はどうやら僕の視線に気がついたのか、


「ハヤテ様、気をつけてください。この者、何か良からぬことを企んでおるやもしれませんから。」


 などと言い訝しむような目で僕を観察している。


「えっと……。こんにちは? 」


 何が起きているか全く理解不能なので、とりあえず挨拶しておく。


 そういえば、僕は僕(偽物?)に押されて穴に落とされたんだっけ。


「おお!こやつ、喋りおったぞ! 」


 パッツン娘が嬉しそうにはにかむ。


 今思うと結構長い間落下してたと思うし、あの速度で地面に衝突したら高エネルギー外傷で即死だよなあ。それじゃあここはあの世か何かなんだろうか。


「ハヤテ様、病気になるやもしれませんから触れてはなりませんよ。」


 え、じゃあまじで僕死んだの? うわあ、実感全くない。貧弱なボキャブラリーでヘコむとしか言い表せない自分が虚しくなってきた。


「ノノは本当に口うるさいなあ! おいお前! 名はなんという。」


 てか、まじであの世ってあったんだなあ。嬉しいような悲しいような。てか父さん母さんごめんよ。僕は最低の親不孝者だよ。


「おい。早く答えよ。」


 ああまじで凹んできた。これからどうしよ。


「おい! 」


 バキッ!脳天に拳が炸裂した。


「痛ぁっ! 」


「ああ!ハヤテ様、また穢らわしいものに触ってしまって! 」


 僕と垂れ目娘がほぼ同時に声を上げた。


「かはは! お前が愚図だからだ! 早く答えるがよい。」


「あ、え、ぼ、僕は総一郎。総一郎です。」


 身の危険を感じて凄くどもった感じになってしまった。この娘、華奢なくせに拳骨がとても痛い。


「ほう。総一郎とな。長い名だな! わたしは、ハヤテ。ハヤテ様と呼ぶがよいぞ。で、こっちが。」


「ノノでございます。ですが呼ばないでください。穢らわしいので。」


 すかさず毒を吐く垂れ目娘。性格は、ハヤテと言う娘よりもノノと言う娘の方がきつそうだ。



「で……だ。」


 ハヤテが不思議そうな顔で僕に尋ねた。


「総一郎はどうして左様な珍妙不可思議な格好で、はたまた、こんな所で寝ておったのか? 」


 僕は自分の身の回りを確認する。服は土で汚れているもののそれ以外も落ちたときのまま。リュックも同様だった。ハヤテはゆったりとした着物風の動きやすい服を着ており、珍しそうに僕の服の布地を触ったり嗅いだりしている。


「ここがあの世ということなら僕は死んだのだと思うけど……。」


「なにを言っておる?ぬしは生きておろう? なあ、ノノ? 」

「はい。ハヤテ様。残念なことに総一郎殿は生きておられます。」


「えっと、じゃあここは?」


 僕は見渡す。湿った土。生い茂る木々。紅い空。不思議な2人の少女。死んでないならどういう状況なのだろうか。


「ここは鬼の森。ふふーん、そーんなことも知らんのか? 」


 ハヤテは勝ち誇ったような顔で鼻の穴をピクピクさせている。


「そしてここは、ハヤテ様の仕事場かつ庭でございます。」


 すかさずノノがフォローする。


 鬼の森? 確かに怖そうな雰囲気あるけど。鬼がいるとかどう考えても地獄じゃん! 僕死んでるじゃん!


「えーっと。鬼の森って。なに? 鬼がいるの? 」


 とりあえず空気を読んで聞いてみる。


「いるぞー。」

 

 ハヤテがニヤリと犬歯を見せる。


「といっても、ハヤテ様の敵にはございませんが。」


 なぜかノノがフフン胸を張り誇らしそうにしている。


 ちょうどその時、バキバキバキッ。ズンっ!と後ろの森から大きな木が倒れた音がした。

 ギャーギャーと烏の大群が飛び立つ。


「ほらきた。」


 ハヤテがスッと立ち上がる。


「ノノ。準備。」


「武器はここに。ハヤテ様。」


 ノノは、ハヤテに長い鞘に収まった太刀を差し出す。身長ほどの長さがあるが刃の厚さはなさそうだ。


「流石ノノ。早いな!」


 ハヤテはそれを抜くとカチャリと中段に構えた。研ぎ澄まされた刃に空の朱が反射し妖気を纏っているようだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ