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落ちた!!

久々に書く長編(予定)ストーリーです。お手数でなければブクマやコメント、評価いただけると大変筆者の励みになります。


どうぞよろしくお願いいたします。【12/13 現在、全体的に読みやすいように手直しを加えております。】

「はぁー。」


 学務に張り出された掲示板を見上げる。やっぱり落ちてる。でも、もう一度確認したい。


「学籍……番号……556348。」


556346 合格

556347 合格

556348 不合格


「はぁーーーーーーー。」


 やっぱり落ちてる。まあ勉強しなかったしなぁ。再試験嫌だなあ。掲示物に群がった僕のまわりの同級生たちは、良かった良かったと安堵しているみたいだ。どうやらこの試験に落ちたのは僕を含めて数名だけらしい。


「おい、総一郎。どうだったよ?」


 黒縁眼鏡で背の高い男が神妙そうな顔で聞いてくる。


「おー、たっつーか。落ちたわ。いよいよ、留年が見えてきた。あはは…」


 この男はたっつー、僕の友人で簡単に言うと頭がいい。顔は良くないけど性格もいい。こいつは当然受かってるだろうから結果については聞かない。


「まじかよ。まあ、再試験の前になったら俺と一緒に勉強すれば大丈夫だよ。」


「はは……わるいな。」


 自分の不勉強でこいつを付き合わせるのも何だかなー。とかちょっとした自己嫌悪でモヤモヤした気持ちになる。


「んじゃ、先に家帰るから。たっつー、なんか悪いし今度飯でも奢るわ。」


「明日やろうは馬鹿野郎だぞ。勉強、今日からがんばれよー。」


 うるせー。わかってるわ。でも頑張れないんだよなあ。たっつーに聞こえないような小さい声で呟き早足で帰路についた。


      ◇


 僕の名前は佐々木総一郎。たっつーもそうだけどX大学医学部の学生だ。


 趣味は少しのアウトドア。ちなみに勉強は嫌い。そんなやつが医者になっていいのかー、とか言われるけど、僕も大いに同意する。大学に入る受験勉強で燃え尽きちゃったんだよね。


 そんなわけでおおむねやる気もなく低空飛行な生活を続けてるわけだが。


「もう8月だし。そろそろ気張らなきゃダメなんかなー。」


 分厚い医学書でずっしりとしたリュックを背負って、アパート近くの坂を下る。たっつーにも言われたし、カフェで少し勉強しようとガラにもなく思ったりして家を出た。


 ジジジジジジジィ。蝉の声。ジリジリと夏の太陽が肌を焼く。


「暑すぎるだろ。」


 少しあったやる気が熱気で急速に干からびていく。


「あれ? 」


 ふと前に意識を向けると20mくらい前に僕とそっくりな人が歩いている。背丈から服装まで今の僕と全部一緒。


「……これが精神病症状ってやつ?」


 目をぎゅっと閉じてもう一度確認してみた。幻覚じゃないっぽい。あくまで主観での話だけど。

 

 僕のそっくりさんはそのまま歩みを進めてゆく。気味が悪いけど気になって仕方がないので、僕もついていく。友達の性の悪いイタズラとかだったら嫌だし。


 あ、曲がった。僕のそっくりさんは雑居ビルの間の細い路地に入っていった。


「なんだなんだ……。」


 そっくりさんが消えた曲がり角の手前につくと、少しだけ顔を出して路地の向こうを確認する。


「いない? 」


 薄暗い影になった路地はどことなく涼しい。そっくりさんはいなくなっていた。


「なんだったんだろう。」


 その時、突然、路地の奥からビュオッと風が吹いた。よく見ると奥の地面にマンホールよりも少し大きい穴があいている。まん丸で真っ黒な穴。僕は気がつくと近づいて覗き込んでいた。


穴の奥から風が吹いてきている。底は見えない。相当深そうだ。


「オーーイ。」


 穴に向かって叫んでみたが、ぉーぃ、ぉーぃと自分の声が反響するだけだった。


「こんなとこに危ないなあ。誰がこんなん作ったんだよ。」


 僕がそうつぶやくと、後ろから僕の声で誰かが答えた。


「僕だよ。」


 その時、誰かが僕の背中がドンと押した。真っ暗な穴の中へと体が投げ出される。体が重力のみに委ねられる。……落ちる。


 落下する最中、ゆっくりになった意識の中で僕は後ろを振り返った。そこ、さっき僕がいた場所には、僕と同じ姿の男がいた。僕の体は落ちる。周囲は闇に包まれ穴の入り口はどんどん遠のいていく。


 ついには、入り口が小さな光の点となって、しばらくすると完全に見えなくなった。


「まさか一日に二回も落とされるなんてなあ。」


 消えゆく意識の中でつぶやくと、僕は重くなった瞼をゆっくりと閉じた。


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