3.世界は醜く汚い
村では2人の子供の誕生を祝って宴が行われた。
その席では医者からの子供のステータスについての発表が行われることが恒例となっていた。
「では、そろそろこの子供ら2人のステータスを発表しようか!!」
ちょうど良く村の大人たちが酒に酔い始めた頃、医者の一声によって発表が始まった。その中で赤ん坊へと転生してしまった優真ことユーマは喋る事はできないものの意識ははっきりとたもつことができていた。
(ふざけんじゃねぇぞ!!誰が勝手に俺のスキルを明かして良いなんて言ったんだ、おい!!ばぶ。)
そう、喋れはしないものの.....
「まずは村の剣士、ザッコの娘からだ!!娘の名前はマリー、<天職>はなんと、勇者だ!!」
「「おおおお!!」」
村1番の剣士の娘とあって期待も大きくその<天職>に村の住人は皆驚いた。
「さて、重要なのはステータスだろ!?早く発表しろよクソ医者!!」
「「ハハハ!」」
ざわざわとヤジの飛ぶ中医者がもったいぶったようにステータスを明かし始めた。
「まず、マリーのステータスについてはザッコ夫婦からの要望があり詳しくは明かすことができない、だが、これだけは言わせて貰おう。全てのステータスが5000を越えている!!これはまさしく勇者にふさわしいと、俺は思うぜ!!」
「「おお!!」」
「すげぇじゃねぇか!!さすがは剣士の娘だぜ!!」
村中が盛り上るなか医者と勇者の両親だけは冷静でいた。
(ま、本当はクソみてぇにザコなんだがな。金を貰っちゃ断れねぇものもあんのさ。)
医者はザッコの夫婦から娘のステータスを偽造し発表することで金を得た。やはりこの世界でも当然の様に自分の利益を求めることはある、なおかつそれがただ発表するだけなら医者の天職者としてはまさに儲け物なのである。
「さて、次はオーサキ夫婦の息子の番だ!!オーサキ夫婦の息子の名前はユーマ<天職>は重装備兵、この辺じゃ聞かねぇが、王都の軍に多い職らしいぜ!!」
その言葉を聞いてオーサキ夫婦は怯えと共に息子の将来を心配した。夫婦は息子の<天職>を初めて知った。それが軍、それも国の首都である王都のものともなると、他国との戦争、魔族との戦いにおいて用いられることは間違いが無いからであった。
オーサキの父と母は常に魔族と他国の侵攻に怯え、それと同時に戦うもしくは逃げる準備もしていた。
「さぁ、ステータスがまたとんでもない数字だったぜ!!皆耳をかっぽじって聞きな、なんとオーサキ夫婦の息子ユーマは防御力が完じぇ_____ヒブゥッ!!!!?????」
医者の言葉が途切れたのにはわけがあった。もちろん酒の酔いがまわったわけでも、酒に酔った男に殴られたわけでもない。そんなことは医者を正面からみていた村人達が一番よく分かっていた。
「なっ!!なんで....ここに!?」
「う、っそだろぉ?おい...」
村人が騒然としたわけ。それと同じであるように、医者の命は絶たれた。
裕に人間をこすであろう身長と紫色の肌、さらには黒く光る目や角がそれを表していた。
____それは遂に来てしまった。
魔族が、その手下共が、この村にも侵略してきていた。
村人達はそれまでの酔いや熱狂が嘘であったかのように1度静かになり
そして....
「うああああああ!!!????」
「来るなっ!!お前らくんな!!!!」
「ザッコさんよぉ!!お前ら剣士ならいけよ!!村で一番強いって言ってたじゃねぇかよぉ!!」
叫んだ。誰しも命は惜しいのである、こういう状況に直面したとき、人は自分が逃げることを優先する、もしくは自分の身代わりとなる人物を進んで前に出そうとする。そしてこの村でその標的となってしまったのがザッコ夫婦であった。
「....お、おうよ、行くしかねぇよな!!」
普段から村で強いとされた夫婦は自分の力を見謝るほどに鼻を伸ばしていた。
しかし。
「うぉおおっっ!!!」
『うるせぇよ、まずお前が殺されてぇのか?』
「死ねぇ!!魔ぞきゅっっっっ.....」
勝負は一瞬だった。魔族の腕の一振りで男の骨は砕け肉は弾けた。無様にも腕に触れる前に既に絶命していた事も分からないほどに粉々かつミンチ肉の様にぐちゃぐちゃになっていた。
村人は絶望した。強いと思っていた人間がこうもあっさりと殺られてしまったから。あるいはもう身代わりにならせるような人物はいないと悟ったから。
「アッッハハハ、イイネェいいねぇその表情、だからそのままシンデクレェ?」
そのあとは、地獄であった。悲鳴も上げることができず潰されるもの。首を千切られ倒れるもの。魔族に喰われ泣き叫ぶもの。妻を身代わりに逃げようとするもの。村は宴から一転阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
____その中で唯一人に守られるように座っていたものがいた。産まれたばかりの女児であった、彼女はみづからの意思とは関係なく、魔族から守られるようにして村人達を操っていた。スキル「守られる者」と称号「守護されるべき者」の力によって村人もまた己の意思とは関係なく彼女を守るべく動く駒となった。
____そうして1日の時が経ったとき。村があったはずの場所には人の肉、血、家の瓦礫が散乱する場所となっていた。そしてそのなかに大量の死体に埋もれた女児がいた。
その村は後の書物で魔族に最初に侵攻された場所として記された。
魔族の襲撃があった後に村に足を踏み入れる人物がいた。
オーサキ夫婦と息子のユーマであった。オーサキ夫婦は村に魔族が来た事を医者が喋っている途中で感じそして息子を連れて1度村を離れたのだ。ユーマに付く称号「守護せし者」の効果もあり無事1度は逃げることができた。そしてこの村にもう一度戻って来たのは夫オーサキ・ゼルビアのスキル<感知>によって生存者が居ることを知ったからだった。
戻ってきた夫婦の前にあるのは無惨な死体と廃墟になってしまった家だった。
唯一の生存者が村の剣士の娘であり<勇者>である彼女の特質上だと考え夫婦は女児を保護した。
____そして、妻のオーサキ・キャルがたった1つだけ持つスキル<心眼>によって女児が勇者であると同時に「魔王の敵」であり、自身の息子と共にいずれ魔王を討伐しに行くであろう事を悟った。そのためオーサキ夫婦は息子ユーマと女児マリーを自身の子として育てることにした。それが自分たちの<天職>希望の育成者の役割なのだろうと考え。
忙しくなるまでは気まぐれに投稿しますが、そうなった場合は1~2週間になると思います。