第8話 咲の閉ざされた心No.1
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1日の大半が淡い青色で染まっている時期と言えど只今の時刻は午後7時を上回る。
すっかり日は落ち、街中の闇を太陽に代わり月が照らしていた。
『兄ちゃん……』
しかしそんな中、咲の心は月光が届かない奥深くの所で闇に閉ざされたままだった。
兄ちゃんにとって私はなんだったのかな。
一緒に買い物に行ってくれたり、寝てくれたり……多分嫌な存在ではなかったよね。
でも、異性として好き……なんてことはもっとないよね、きっと仲の良い妹止まり。
でもだからって私の全てが兄ちゃんのことを好きだと気づいた今、私が進むべき道は自分でも分かってる。
【兄ちゃんを振り向かせること】
だけど、今更そんなことを決心したところでなんの意味もないんじゃないかな。
だって兄ちゃん、今日告白の返事をしてるんだよね?
それで帰りが遅い……そんなの、OKしてその女の人と一緒にいる以外考えられない。
もしそうなら今ここで私が悩んだところで一体何になるの?
いくら進んでもこの先は行き止まりってことだよね? そんなの……私に勝ち目なんてないじゃんか……!
『もうどうしていいか分かんないよ……』
何もかも誰かに縋りたくなるような、どうしようもない感情が咲を襲う。
けど不思議と涙は出てこない、何でかな。こんなにも苦しくて悲しいのに。
そうやって再び心の闇に閉じこもろうとすると、ふと手に持っていたスマホの着信音が鳴った。
『……誰だろ、兄ちゃんかな。でも今は出たくないな』
『…………はぁ、』
気分的に出たくなかったが無視するのもなと思い渋々スマホを覗く。
『澪…………?』
画面に映っていたアイコンは同じクラスの親友、加藤澪だった。
けどなんで澪が電話なんか……何か用事あったかな、
不思議に思いながらも電話に出ると、すぐさま澪の声が聞こえてきた。
『もしもし咲? 大丈夫?』
『…………え?』
いきなりそんなことを言われてたじろく。
いや大丈夫ではないけど、なんでそれを澪が。
『あ、ごめんねいきなり。今日の咲なんだか変だったから心配で…….』
『え、そうだったの?』
『うん、だから大丈夫かなって思って電話かけたんだけど、ごめんお節介だったかな?』
『ううん、全然。ありがとね、澪』
『そっか、それなら良かった……』
澪はそう言うと電話越しに安堵のため息をついた。
どうやら学校でもずっと悩んでいた私に澪は余程心配していたらしく、こうやって電話をかけてくれたみたい。
まさか電話までかけてくれるなんて、澪は本当に優しいなぁ。
澪は私が高校に入学してから出会った最初の友達。キッカケは……まあ別に今話すことじゃないか。
とにかく澪はなんでも話せる私の一番の親友で、よく相談とかにも乗ってもらっていた。
けどそんな澪にも私が兄ちゃんを好きだということはまだ話してない。
だって相談できっこないでしょ? 兄弟を好きになっただなんて澪に言って引かれたくなかった。
『私でよければ何でも相談してね? だって私達、親友なんだから』
『…………うん』
だけど……澪になら相談してもいいのかな?
こんなに心配をしてくれてる澪をいつまでも誤魔化して裏切りたくないし、本当は私も澪に打ち明けたい。
それに例え澪に引かれたとしてもそれはしっかりと受け止める。だって話すことに意味があるんだから。
『実は…………』
私は澪に打ち明けることを決め、静かに話を切り出した。包み隠さず、ありのまま。
その間澪は一言も発さずに黙って私の話を聞いていた。
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『そっか……』
『うん…………』
あれからどのくらい時間が経っただろうか、気がつけば私は泣いていた。
どんなに悲しくても塞き止められて出なかった筈の涙が、今では濁流のように流れ落ちる。
けどその涙は、不安や悲しみによるものよりも安心に近かった。
『辛かったね』
『うん……』
『苦しかったね』
『うん……!』
話を聞き終わった澪は私が泣き止むまで、ただそれだけを繰り返す。
その行為に何の意図があったのかは分からないけど、多分私を落ち着かせるためだったのかな、って後で思った。
けど澪は決して私を馬鹿にしてきたり引いたりはしなかった。
やっぱり……澪に話して良かった。
何だか私の心に光が差し込んできたみたいで少し安心感が湧く。
『私、どうすればいいのかな?』
泣き止んだ私は、自分に見出せなかった答えを澪に問う。
人任せ、なんて言い方は悪いけど澪ならきっと正しい答えを出してくれると思ったから。
——けど、澪の返答は予想外なものだった。
読んでいただきありがとうございます!
咲編が思ったより長くなってしまったので分けました。なので、次が咲編ラスト? だと思います
今回の咲編で少し文字が多すぎたかな、と思うのですがどうでしょうか?
もっと簡潔にした方がいいですかね……。悩むところです。