29話 「あきらめるな」
今回で二章終了です。
私は春祇くんに言われた通りに後衛に下がった。次は春祇くんのサーブで、春祇くんのサーブの威力は決して強くはなく普通のサーブだった。....普通にしてはかなりコースにばらつきがないけど。
春祇くんがサーブを打った。そのボールは見た目はさっきと同じだった。けれど....
「うあぁ!!」
リターンしようとした相手の男子が声をあげる。それもそうだ。たいして速くもなかったのに、ボールを打ち返そうとしたら、『ラケットを吹っ飛ばされた』からだ。
「お、おい!大丈夫か?」
「あ、ああ。なんか分からんけど返そうとしたら吹っ飛ばされた。」
相手の二人は混乱していた。そう言う私も何故だか分からなかったので、春祇くんに聞いた。
「春祇くん、何したの?」
「回転をかけただけだ。」
「え?」
確かに回転をかければかけるほど打ち返すのは困難だが、それだけでラケットを吹っ飛ばず程のものなのか?いや、多分他にもコースや相手ラケットで取る位置なども重要だ。それも春祇くんは計算したのだろう。
(やっぱり春祇くんは今まで本気じゃなかったんだ。)
春祇くんはさっきまでも打ったボールは何故か異様に『普通』だった。ミスショットを一度もせず、かと言って強打を打つわけでもないという器用なことをしていた。それこそ普通の人なら、ミスをしないなんてあり得ないはずなのに。
そう考えると春祇くんは並みの強さではないことが判かる。
15ー0。今度は春祇くんのサーブを相手は返したけれどコートに入らなかった。
30ー0。さすがに今度は返してきたが、チャンスボールだった。それを危なげもなく春祇くんは返し、点を取る。
40ー0。相手はしっかりサーブを返してきた。
「まだだ!」
返してきたボールはこちらに飛んできて、しかもなかなか強いボールだ。
(まずい....)
返せないかもしれない、そう思ってしまったとき、隣から声が聞こえた。小さな声だったけど、私は確かに聞こえた。
「諦めるな。」
「!!」
....そうだ、春祇くんに諦めないって啖呵切ったばかりなのに、諦めようとしていた。駄目だ、絶対に諦めないんだ、お父さんと約束....
「したんだ!!」
鋭いボールをなんとか根性で返した。
「いっ.....」
痛いのを我慢して打ち返したボールは結局うまく返せなく、相手の前衛にスマッシュチャンスを与えてしまった。フォーム的に春祇くんの方にきそうだ。
さすがに返せないか、そう思っているとスマッシュが飛んできた。かなり速い、私でも返せるわけないボールだった。それを春祇くんは....
「…………」
『平然』と返した。それも強打で。
相手は決まると思っていたらしく、呆然としていた。
「ゲームセット!4ー2で水嶋、春祇ペアの勝ち!」
そう言うと観客は拍手がおこった。なんとか勝てた。
「やったね、春祇くん。」
「…....ああ、けどこれ以上は無理だろ、やりすぎたら一週間、二週間じゃ治らなくなるぞ。」
「.....うん、分かった、ごめん。」
「なにがだ?」
「私のせいで決勝出れなくて。」
私が怪我をしたせいで棄権することになったから、当然春祇くんにも迷惑をかけただろう。
「別に大丈夫だ。そんなこと気にするなら足を気遣え。」
「分かった、....本当にありがとう。」
「............、ぁぁ。」
私がお礼を言うと、春祇の返事の声は何故か震えていた。
私はそれが記憶に残った。
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「生徒会長、強いね〜ほとんど一人で戦っているし。」
「そうだね。」
結局私たちは勝った後に棄権し、負けた男子ペアが繰り上がりで決勝にでた。けれど相手は松川生徒会長だ。もう一人はさっき春祇くんと喋っていた女の子だった。
「と言うか、百恵大丈夫?足。」
「うん、大丈夫、保健室にも行ったし。三日で治るって言われたから。」
あの後保健室に行って診てもらい、幸い大事には至らなかったのでよかった。
「さっきの試合の時の春祇くん、すごかったよね〜。」
「確かに〜最後のスマッシュを返した時、周りの女子がとくに春祇に見惚れていたしねー、絶対に惚れている人もいたよね。」
あの春祇くんのスマッシュ返しは、さすがに目立ったていた。あれを見たら春祇くんの印象が変わるのは当然だろう。もともとかっこいいし。
「てか、その春祇くんは?」
「さあ、わからないけど。モモは?」
「私も聞いてないよ。」
「パートナーにも教えてないなんてまったくだね。」
結局春祇くんは打ち上げにも来なくて、羽島くんたちに聞いたら試合が終わった後に早退したそうだ。
私は試合が終わった時の春祇くんの様子と早退した理由を考えていたけれど判からなかった。




