100話 過ごしたい
帰ろうと足を踏み出した。
だが、数メートル歩いた所で、後ろから足音が聞こえた。
「…!!…な…」
振り返ると、墓の前に和が立っていた。
詩歌の墓に。
…あいつも、墓参りか。そのまま帰ろうと…逃げようとした。だが、和が墓の前で手を合わして何か喋り出した。
なにを思ったのか、足を止めてしまった。
「なあ、姉さん。俺さ、やっと会えたんだ。春祇兄に。連絡も全然届かなくて、去年も行ったんだけど会えなくて、やっと見つけたんだ。」
………聞きたくない。動け、足。
「でもさ、なんか違ったんだ。なんて言うかな…変わってたんだ。昔の様に静かだけど元気ってのがなくて、ただ静かって感じで。」
…なんで、なんで動かない。
「それでさ、なんで連絡取ってくれなかったんだって聞いたんだ。そしたら、…まだ責任だのなんだの引きずってたんだ。意味分かんないだろ。なんの責任だっての。姉さんがただ病気で死んだことに…悪いも何もないのに!」
動け…動けよ…
「どうしたら前の春祇兄に戻ってくれるんだろう。俺には…もう、分かんないよ。…でも、どうにかして、いつか、絶対、必ず、二人でまた来るよ…姉さん。」
和は手を元に戻し、雪道を歩いて帰った。
「知ってる…けど、」
だけど、
「知らない…だけだ。和…」
そうだ。
「俺は、詩歌を幸せにできなかった。」
「ヒーローならできたもしれない。できなかったけれど。」
「何も願ってはいけない。だから…」
「自分は、静かに過ごしたい…過ごさないといけないんだ。」
独りで。
傘が『おもい。』
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「居なかったね、奏。」
「四時になっても居ないんだぜ。いると思ってたんだけどな〜。」
羽島くん、平山くん、紗羅さん、如月さんと店から出てきた所だった。
今は終業式が終わったということで春祇くんを誘いに家に行ったが、居なかったので仕方なく五人で店に入って色々見たり遊んだりしていた。
時刻は六時。外は既に暗くなって街灯が付き、雪がしんしんと降り積もっていた。
「こんなに降るんだねぇ、雪って。」
「私が昔住んでいたところはもっと降ってたよ。」
「そうなんだぁ〜。」
ここらへんでこの量の雪はなかなか珍しく、周りを見ながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。
見ると、傘を差していた男の人だった。
「あ、ごめんなさい。」
「…………………………」
その人は一瞬だけ立ち止まり、無言でまた歩き出した。
「傘かぁ、そろそろひつよ…どうしたの、紗羅さん?」
「…あれは。」
私がなんでもない様なことを言おうとした時、紗羅さんの顔が驚きの顔で後ろを見ていた。
いない、そういえばさっきの人は…?
「奏。」
「え?」
「あれ、傘差してた人、奏だった。」
「本当に?」
必死に紗羅さんが周りを見回したが、傘を差したあの男はいなかった。
「あれが奏くん…?そんな感じじゃなかったと思うけど。」
「確かに…あんなだったか?」
「僕も奏とは思わなかったな。」
羽島くんたちが言うこともわかる。確かにそんな感じじゃなかった。あの男は、一瞬だったが生気なんて…
生気?
「…あれは奏だった、顔も見たって。」
紗羅さんが必死に言う中、私は考えた。
生気がない。それはまるで…あの時と…みぞれの日と同じだ。
肩に積もった雪が溶けた。




