97話 みぞれ
「…………」
結局来ちゃった。
春祇くんがラブレター…そうと決まったわけじゃないけど、恐らくそうであろうものに呼び出された春祇くんは屋上に向かって行った。
残った私たちは邪魔しないよう、と考え一度解散したが、どうしても気になってしまい今は屋上に向かっているところだ。
「春祇くんは…」
屋上までの階段を登りながら言う。
春祇くんがラブレターを貰った時、正直何か衝撃的だった。
嫉妬…それもあるかも知れない。でも気になることもあった。
普通、あんな物が下駄箱に入ってあり、内容が明らかだったのに、春祇くんは頑なにその可能性を否定していた。ありえないと。まるで、何かから逃げ…いや、怯えていた。
「好きです!つ、付き合って下さい!」
屋上に近づくと、そんな声が聞こえた。
やっぱり、そうだったんだ。この声は確か田之上さんか。何度か話したことがあるが、そうだったんだ。
春祇くんは、なんて返すんだ?イエスなのか?ノウなのか?
「…ごめん。今は誰とも付き合う気が無いんだ。」
「……そう、ですか…」
ノウだった。…いや、本当にそうなのか?何か引っかかる言い方だ。
「ひとつ、聞いて、いいですか。」
「……なんだ。」
「どうして、付き合う気は、な、ないんですか?」
そう思っていると田之上さんが代わりに聞いてくれた。
理由はなんだ?
「…俺は、そんなに良い奴じゃないから。」
「…!!…そう、ですか。…あ、ありがとうございました。」
…どういう意味だ?
そう疑問に思っていると、屋上の扉から田之上さんが出て来た。
その目は泣いていた。田之上さんは私に気づかないまま降りて行った。
それよりも、『俺』?春祇くんの一人称は確か『自分』だったはずだ。
屋上で春祇くんが何か独り言を呟いた。
「俺は…自分は…誰かに幸せを…愛される資格なんてないよな?…詩歌。」
…詩歌?誰だ。
何故そうしたのか、気づいたら勝手に扉を開けてしまった。
春祇くんは一瞬だけ驚いた顔をした。その顔は今まで見たことのない、どこか別人のような顔だった。だが、その顔もすぐ戻った。
「…帰ったんじゃないのか。」
「え…あ…気に、なっちゃって。」
うまく喋れなかった。この空間に緊張感が走っている。それは、春祇くんから出ているものか、それとも勝手に私が感じているのか。
それでも無言にはならないように知らないふりをして聞いた。
「そ、それでどうだったの?」
「…断った。田之上だったか。自分にはもったい無いからな。」
そう言う春祇くんの声には、何もなかった。ただ喋っている、本心からの言葉ではない、何か別の原因がある、そんな気がした。
人形。今の春祇くんはそうと例えれるぐらいに生気を感じなかった。
春祇くんは歩き出し屋上から去ろうとした。
「じ、じゃあまた明日。」
「……ああ。」
すれ違った一瞬の春祇くんの目は、口は、顔は、
この世とは思えない、まるで死んでいた。
「…!?」
驚きで声が出ない。
何か、何か言葉をかけるべきではないのか?
そう思ったが、恐怖で口から音が出ない。
聞かないと、何があったのか。どうしたのか。なんでもいいから何かしないと!
だけど、扉は閉まってしまい、一人残された。
「……どういう、こと…?」
みぞれは、雪に変わっていた。
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