96話 霙
「……そんなこと、ない。」
屋上への階段を登りながら独り言を言う。羽島たちはついて来ずに帰った。
羽島たちの予想は外れる。必ず。
自分は、誰かに好かれる人間なんかじゃない。そう思っているが、どこかこの気持ちが逃げ道になっているんじゃないかとも思ってしまう。
逃げ道なんかじゃない。例え逃げ道だったとしても、それは正しい判断だ。考え方だ。想い方だ。
自分は屋上の扉を開ける。そこに一人の女がいた。
見たことのない人だった。眼鏡をかけ長い髪を束ねた小さい少女だった。
「……あんたが、呼んだのか?」
「は、はい。そう、です!」
どうやらこの人だった。女は顔を赤くする。
「…名前は。」
「わ、私は、田之上加良です。」
田之上は息を整えて言う。
「た、単刀直入にいいます。」
「……………………」
恋愛小説じゃないんだ。何もないんだ。何も。
「す、好きです!」
自分は何かを与えられる人間じゃない。こんな告白をうける資格なんてない。
「球技大会の時の、活躍や、今日の、マラソン大会で助けたりしてるところを、見てました!」
自分は、大切な人一人すら幸せにできなかったんだ。
「好きです!つ、付き合って下さい!」
「…………………」
屋上から田之上の言葉が響いた。
………………。
………………………、
………………………………?
……………………………………………!
……………………………………………………………。
………………苦しい。
「…今は、誰とも付き合う気が無いんだ。」
「……そう、ですか…」
……………。
「ひとつ、聞いて、いいですか。」
「……なんだ。」
「どうして、付き合う気は、な、ないんですか?」
……………。
「…俺は、そんなに良い奴じゃないから。」
「…!!…そう、ですか。…あ、ありがとうございました。」
……………。
……………。
『奏くん!ありがとう!』
『早く食べないと貰っちゃうよ〜。』
『試合…負けちゃったよ…うぅ。』
『奏くん!』
『奏くん?』
『奏くん。』
『ごめんね…!!』
「俺は…自分は…誰かに幸せを…愛される資格なんてないよな?…詩歌。」
霙は、振り続けた。
あの日も
今も。




