プロローグというか主人公の紹介というか粗筋的な何か
この話を語るにあたって、紹介しなくてはいけない人物がいる。所謂『主人公』というやつだ。え?お前が誰だ?……誠に申し訳ないが、今はとりあえず、「ナレーターさん」と名乗らせてもらう。
その人物の名前はセーガ・グラッツェル。黒耳長族の父、ユウマ・グラッツェルと、白耳長族の母、イリーナ・グラッツェル(旧姓ユーシアン)の間に生まれた。
誕生日は10月20日の蠍座。父と母がそれぞれ色の違う耳長族だった為、灰耳長族、つまりは黒耳長族と白長耳族の混血で、普通の白耳長族の五倍近くの魔力を体に宿している(彼自身自分で計ったことはないから、今一判らないが)。父親譲りの黒い髪と、母親譲りの青い長耳族の目を持っていて、顔は比較的父親似と言えるだろう。
父であるユウマの生まれ故郷、大樹の国『アルミアーノ』のアノアの街で生を授かる。両親の冒険者としての姿に憧れ、いつか冒険者になって、父と母のように格好良く在ろう、と、そんなことを思っていたりとかもした。
剣闘士の父からは剣を、精霊魔導士の母からは精霊魔法と最低限必要になる勉強を教わった。両親に着いていって、色々な場所に行った。勿論親には止められていたが、懲りずに何度もチャレンジした結果、親に一切バレずに後を追う事ができるようになった。ストーカーの才能があるのかもしれない。
だがしかし、平凡とは即ち崩される運命に在るとでも言えば良いのか、まあ、要するに、魔物の襲撃と、度重なる他国との戦争から国を護るために、父と母は死んだ。魔物の襲撃自体は、決して珍しいことではないし、戦争も、頻繁と言うわけではないが、そこまで少なくはない。しかし、当時十歳だった彼にとって、家族がいなくなるという事は、如何に辛いことだったかは、ここにおいて説明するまでもないだろう(実の所余り進んで話したい話でもないし、話が横道に反れても困るだけなので、それもあるのだが)。
余談ではあるが、そんな彼の両親が身を呈してまで護った国、アルミアーノは、結局戦争に敗けて滅んでしまう。セーガを含む僅かな生存者を遺し、大樹の国アルミアーノは、その国の領地の殆んどを焼き払われ、滅んでしまったのだ。
さて、そんな壮絶な少年期を持つ彼だが、それ以降の消息がぱったりと途絶えている。文字通り、跡形もなく。元から存在していなかったかのように、行方を消している。
とはいえ、結局この物語の主人公だったりする男である。生きている、と言うことだけが確かで、それはつまり、十中八九生きている、という、主人公補正によって決められた絶対不変の決定事項だ、ということである。
「結局この話はどんな話なんだ。いつまで余計なモノローグ決めてるんだ。」とまぁ言う方々もいるだろう。申し訳ないが、この話において、そんな彼の消息不明だった頃の話を語ることはできない。その話はまたいつか、と言うことで。
では改めて紹介を。この物語は、若冠十歳で親を失い、故郷を失い、文字通り帰る場所すらない青年セーガ・グラッツェルが、彼の使役する精霊達と共に、人種差別の国を作り替え、その国最強の冒険者になってしまう話、なのである。