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Muse  作者: 波丸
1章
7/10

ひらめきは信じるものだ

意外と書くのが楽しいこのごろw

 笹野くんやねおっち、それに矢野くんにまで音を見分けられたのは、きっと今朝見た夢のせいだろう。でなきゃ、普段の私が未完成(・・・)な音を他人に聞かせるなんてありえない。


 第2自習室を後にして、廊下を歩きながらそう考える。誰もいない廊下。普段は聞こえない上履きと床が当たる音がやけに響く。そりゃ、生徒がいたらいたで問題だけどさ。こんな学園に通うくらいだから、サボる人なんていない、よね?分かんないけど。

 時々防音の今日室から微かに聞こえてくる音を受け(・・)流した。どこからも下手な音は聞こえない。耳障りじゃないだけましだろう。そんな空間を独りでいると、考えることに集中力するのも自然なことだった。


 あ、いま『この子がふざけてない!? 』と思った人。私だってシリアスしたい時もあるんだす。そうなんだすよ。


 私だって、何も考えずに行動しているわけじゃない。一つ一つに責任を持つのは、私の中のルールだ。だから、だからこそ、あの時知らないうちに気を抜いていたことに驚いた。

 あの時、とはもちろん先程の実技授業のことだ。普段なら何も思われない音色のはずが、何があったのか3人に違和感を与えてしまった。ピアノを弾く時は特に注意しているのに、いつもなら考えられない事態。今日、いつもと違うことがあったとするのなら、答えは決まって『夢を見た』に限る。まぁ、私は起きたら忘れているから内容はわからないけど、精神的疲労を感じる時は大体の予想がつく。


「さて、どこに行こうかな」


 小さく呟いたつもりなのに、静かな廊下には大きすぎる音だった。

 あ、また自然に独り言を言っちゃった。やめようと思うんだけど、癖はなかなか抜けないものだよね。この前私が家で独り言を言った時、日和に「ゆーちゃ、はげはげしちゃうよ!」って言われた。あれは衝撃的だったよ。

 よーするに、独り言言うとユズちゃん禿げるよ、とういことだ。

 どこのどいつが妹にこんな汚い言葉を教えたんだとフツフツと込み上がる怒りを抑えていたら、その後起きてきた我が弟が日和に「よく言えたな」と褒めていた。あの時ほど反抗期の弟を蹴った覚えはない。


 ん? 『蹴ろうとした覚え』じゃないかって?


 いやいや、もちろん蹴りましたとも。拳よりも足技の方が女子は力あるらしいから、しっかり蹴ったよ。


 昔の思い出に浸りながら歩いているうちに、戻る気は失せ始めていた。めんどいし。というか30分くらい別にいいよね。もうあとは雑談するだけだし。ねおっちには申し訳ないけど、サボタージュでもしようかな。

 そういえば、編入して初めてのサボりじゃない!? なんて少し興奮してるのはここだけの秘密で。だって、前の学校では割と真面目ちゃんだったもんね。黒縁眼鏡の優等生的な? 実際成績もよかったのですよえへへっ。

 じゃなきゃ編入試験合格してないもんね。この学園、偏差値高いほうだから。お金持ちと音楽バカだけの学校じゃないんだなぁ、ここは。


「ふっりょう〜でっびゅ〜ぐっへへ〜のへ〜」


 私天才かも。新曲できたわ。今の高ぶる思いを歌詞にした渾身の曲。新しい才能開花したよ。


 名付けて『ぐへへの不良』。


 うむ。後の世に語り継がれてしまうほどの名曲ではないか。後で譜面に書いて間宮先生に提出しよう。もしかしたら賞とか取れちゃうかも。夢の作曲家デビュー! なんて。


「モーツァルトも腰抜けってね」


 なんて、廊下をふらふらしていたらいつの間にか見知らぬ場所でした。どこだろうここ。楽しくスキップなんてするんじゃなかった。

 あれ、職員室とかがある第2棟って通り過ぎたよね。じゃあ、ここ本当に知らないところだ。

 静かだけど、音楽科がある第3棟とは訳が違う。ひとが、本当にいないじゃないか。


 考えてみれば、第1棟の説明を私は何も受けていない。


 確か、第3棟は音楽科と声楽科、1階が美術科だったような。第2棟は普通科と芸能科。うん。これで全部のはず。特別室は特別棟というところが別であるし、部活もわざわざ棟すべてを使うとは考えにくい。私は第2棟から第1棟に繋がる渡り廊下を見つめてこの奥にある事を考え、いくつか脳内で巡らせる。けれど、どれもしっくりこないものばかりで、好奇心ばかりが体の芯から湧き上がってくるだけだった。

 んー、わからない。気になる。秘密があるなら知りたい。


「知りたいけど、フラグがたちそうな予感」


 そうなんだよね。マンガや小説でこういう展開の時、主人公は大抵面倒臭い事に巻き込まれるのがオチだ。それに、私は主人公で定番の転入生。ぜっっったい後悔する気がするんだよね。巻き込まれるならともかく、自分から足を踏み入れる行為なんて嫌に決まってる。それに、こういう時の感は当たることを昔に経験している。

 なんだ、答えは初めてから決まっていたようなものじゃんか。


 行くのはやめた方がいい。


 それが私が考え出した結論。そして、自分自身に対する警告だ。

 ついさっきも笹野くん達にボロを出しかけたんだ。今日はあんまり行動しない方が自分のためだろう。私が予想した一つには、今後に左右するようなこともある。それが事実になってしまえば、ボロ出してしまったどころの話ではない。

 早退、という文字が頭に浮かび上がり、私は今自分のいる第2棟の保健室に行くことに決めた。行ったことはないけど、確か1階の端の方にあった気がする。転入してはや1ヶ月。疲れが溜まっていると言えば、許可を貰えるはずだ。実際最近は早く寝ても寝起きがだるいことが多い。精神的よりも肉体的疲労が溜まっているのは嘘じゃないし。

 さて、目的地も決まったことだし。


「ぐッへ〜……ぐっはは〜のふりょ〜……yes!」


 やばい、せっかくの名曲忘れそうだよ。もう常に歌っておこうかな。でも完全不審者だよなぁ、授業中だし、静かに歌えばいいかな。リズムは歩きながら考えようっと。


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