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Muse  作者: 波丸
1章
6/10

聞きたくない

んー、どこへ向かうんだろうこれ笑

 音が、聞こえる。


 音が、見える(きこえる)


 誰も知らないのだと知った。


『手を繋ぎ 光のしるべ また逢う日まで。』


 さぁ、音を奏でましょ?



















 転入してから一ヶ月。私の周りは相変わらずである。

 不安だったクラスとの親睦も、明日美たちのおかげで乗り越えることが出来た。

 いまは、実技の授業。各時グループに分かれて聞きあったり、教えあったり。先生はいるけど、ほとんどが生徒に一任された授業。

 これがまた面白い。

 私たちのグループはCクラスの3部屋隣の第2自習室というところを使い、ちょうど各々の演奏を聞き終えたところ。ちなみに、私はピアノをメイン楽器としている。


「笹野くんは少しうるさいかな」


「トランペットだし目立ちてぇじゃん」


「いやいや、この曲のここは弱くしないとさ」


 ひと通り意見を述べたあと、後半は私と彼の会話が続いていた。

 今話している爽やかな彼は、笹野三好ささのみよしくん。見た目は爽やかな感じで、よく笑う。あ、うるさい、とかそんな感じじゃなくてキラキラってことかな。私と同じグループで、転入初日に先生に質問してたあの生徒。第一印象はチャラそう、とか思ってたけど、なんと男女共に好かれてる、いい人だった。

 トランペットの奏者だけど、他にもピアノや打楽器などができるらしい。部活はもちろん吹奏楽部。なんとパートのサブリーダーらしい。それに伴った実力はもちろんある。


「ほんと仲いいよな」


「ねー。ユズがきてまだ一ヶ月なのにさ」


 笹野くんと私の会話を聞いてそういったのは、同じグループの矢野祥介やのしょうすけくんとイケメンねおっち。矢野くんは笹野くんの従兄弟らしい。楽器はアルトサックスで、笹野くんよりは大人しめな感じ。私が見たこの1ヶ月間の中では、傍観、という立場を徹底しているという印象がある。だからといって地味、というわけではなく、キッチリしていて何となく親しみやすい。

 そんな従兄弟の矢野くんが感心するほど、私と笹野くんは思った以上に話が合うのだ。たった一ヶ月なのに男子の中だと笹野くんとはよく話す。気が合う、というかなんというか。とにかく明日美たちの次くらいには絡みが多い。


「湯瀬のピアノもなんかちげぇんだよなぁ」


 それが、笹野くんの私のピアノに対する感想だった。相変わらず笹野くんは音楽の話をすると止まらない。ねおっちたちのこともまるで聞こえてないらしく、2人も慣れているのか苦笑い。


「なになに?言ってみそ」


 何やら私がさっき弾いていたピアノに意見があるらしい。トランペットをケースに置き、少し考えた素振りを見せている。迷ってるのかな?何が悪いところあって言いづらいとか。


「熱意が感じられない!」


 いや知らないよそんなもん。

 あれだよね。爽やかイケメンのくせにちょっと熱いよね。見た目と反するところがまた、残念男子だよなー。矢野くんみたいにスマートになれないのかな。


「でも、今の曲はワルツだし、そんなに強く弾くようなものでもないじゃん」


「違うし。そういう意味じゃねぇんだよ」


「なにそれわかんない」


 ちょっとムキになってムスッとすると、横に座るねおっちに笑われた。子供っぽいと思われてるな、これ。


「よっしーもう少し具体的に言わないと、湯瀬さん困ってるよ」


 矢野くんがつかさずツッコミを入れた。ごもっともな発言なのに、言われた本人はうーん、とさらに深く考えてしまっている。笹野くんは日本語勉強した方がいいんじゃないかな。語彙力がそこらのギャル並みだよ多分。「マジヤバイ」で会話できちゃうレベルだよ。


「でも確かにユズの音、綺麗なんだけど何か足りないんだよね」


 今だに考えている残念爽やか笹野くんを横目に、今度はねおっちがポツリと呟く。少し離れたところでサックスを片付けていた矢野くんもこちらを見て肯定気味の表情をしていた。

 つい、ねおっちを勢いよく見てしまった。気づいた時には少しの静寂。それをねおっちは私が指摘されて真に受けたと勘違いしたのか、「あ、綺麗だからね?多分こんなに上手い奴この学園だとミューズくらいだよ?」と焦りながら付け足していた。


「うわぁ、ねおっちからの褒め言葉♡」


「うん、湯瀬さんポジティブだね」


 そうだよ、矢野くん。この性格でネガティブだったら世の中の常識変えちゃうよ。それにしても、褒められたよ。あのツンデレねおっちに。ちょっと顔赤いし、勘違いしてるようだけど、得したからそのままでもいいかも。

 ぷぷっ。ねおっちが焦るなんて面白い。なんか、新鮮だわ。



 でも、そっか。



「ゴメンネーちょっと楽譜取りに行ってくる」


「はぁ!?待てよまだ俺言いたい事あるんだけ「ほいほいそれはまた後日聞くよ」どっ……おいっ!」


 ごめんね笹野くん。まだ話したいのは私も同じ。でも正直今ここにいるのは私的に無理ゲーなのですよ。だから、私は右から左へ受け流した。いや、ただ流した。受けない。これ重要!オリジナルね。

 後ろから笹野くんの声となだめる矢野くんの声が聞こえてくる。ねおっちはもはや自分の楽器引き始めてるし。自由だな、とついつい笑がこぼれた。でも、私は振り返らずにせっせと足を早めた。むむ、意外と出口まで距離がある。まぁ、確かに教室まではいかないがこの自習室も一般校に比べて広い。そして3人を置いて私はその扉を開け、教室をあとにした。


 楽譜を取りたいだって?


 それはとっさに思いついた口実。そんなことどうでもいい。


「……呆れる」












 扉が閉じる前、笹野くんの声が聞こえた。明らかに「あほ!」的なことを言っていた。うん。戻ってきたらトランペットにシール貼りまくろう。ちょうど昨日買った馬太郎シール、出番だ!


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