名門学園へ3
天使に助けられて無事ボッチを回避した私にも、さらに嬉しいことがあった。なんと、明日美だけでなくクラスメート二人とも新たに話すことができたのだ!
すごくない!?この人見知り常習犯な私が初日でこの快挙。今すぐ叫びたいよ!弟よ、私はやれば出来るんだ。
新たに友達になったのは、寧音こと道屋寧音と、ユキこと天野有紀乃。
二人とも明日美と仲が良くて、私にもすごく優しくしてくれた。寧音はショートカットのイケメン女子で、ユキはサイドテールのメガネっ子。こうして見ると、個性がバラバラだなと思う。
「ユズってどこから来たの?」
寧音がメロンパンを食べながら聞いてきた。そのルックスでメロンパンとは、寧音はギャップ萌だね。
「北の方」
「それは朝聞いたし!ちがくて……北海道?」
「うーん違うかなぁ」
確かに北の方だけど、北海道には生まれて一度も行ったことがない。寧音は私の反応に少しぶすっとして、「じゃあどこ」と聞きながらまたメロンパンをひとかじり。
「アメリカ?」
「「「アメリカ!?」」」
おお、全員重なった。明日美はともかく、ユキも大きな声出せるんだな。
「あんまり言いたくないんだけどね。私、英語あんまり話せないし」
あの頃は引きこもってたからなぁ。常に部屋でダラダラ……はしてないけど、中学性らしからぬ事をしてたよ。
さっきからユキの視線が痛い。なんだろう?アメリカに憧れてるとかかな。好きな音楽家がいるとか。
「私の兄も、アメリカにいるんでふっ!」
「ユキ、とりあえず落ち着いて」
苦笑いしながら明日美がユキをなだめる。そうだね。ユキはとりあえず口に含んだハンバーグを飲み込もうね。
そんな2人の様子を見て、私と寧音は目を合わせて笑い合う。
なんか、和むな。朝はこんなに早く友達ができるとは思ってもいなかった。みんないい人ばかりで、このクラスの雰囲気も悪くない。
「由紀乃のお兄さんってたしかギタリストの?」
明日美が思い出したように呟いて、ユキは目をキラキラさせて頷く。
「私の両親や天野の家とは対立してて。でも、お兄様の音は本当に素晴らしくて。いまはなかなか会えていないんですけど、私の憧れなんです。」
少し空気が重くなったのは気のせいではないのだろう。家の事が絡んでいるとなると、ユキはどうやらかなり名家の出身らしい。この感じだと、明日美達は何かしら知っているのかな。
「へぇ。ユキはブラコンなんだね」
そう言ったら、一瞬3人がぽかんとした。
「ぃだっ!」
いきなり寧音に叩かれた。ひどい!叩かれたことはたくさんあるけどね。うーん、しかしさすがに勢いがありましたぞ。
でもなんかユキ顔赤いしー、否定しないしー、これは当たりかな。って、ユキそれは食べ物じゃないよ。それ食べたら多分喉に突き刺さるだけだよ。
「ユズお前KYか!」
「あ、ゆきちゃんそれようじだよ……て聞いてるゆきちゃん!?」
「て、照れますぅぅ。秘密なのに。兄様は確かにかっこいいけど、でも!」
「えぇ、ねおっちそれ今更だよ?ど・ん・か・ん♡」
「ねおっち……?よし待ってろ。いまから医者呼んでくる」
いやー愉快愉快。このメンツ楽しいな。
ちなみに上から、寧音改めねおっち、明日美、ユキ、私、そしてねおっち。
私はそんな3人を見てニヤつきながら、ねおっちの持っているスマホを取って、止めさせる。いや、まじで呼ぶつもりなのねねおっち。やめてねほんとに。あせったから。
よし。お昼も食べたし、用事済ませないとね。
「あれ、どこか行くの?」
突然立ち上がったから、明日美がユキの背中を擦りながらこちらを向いた。ユキ、落ち着いたみたいだね。ほとんど私のせいだけど。
「ちょっと用事?」
「なんで疑問形なんだよ」
ねおっち仮にもお嬢様なのに口悪いなぁ。ユキとは全然違うよね。あ、これいい意味でだよ?なんか、気を使わなくて楽なんだよね。
「さぁ。あ、多分放課後まで戻らないから」
さてと。これでサボりにはならないかな。
「え?」という明日美の声に背を向けて教室をあとにする。これでも焦ってるんだよね。思っていた以上に楽しくて時間をロスしてしまった。私としたことが。あは、いつも遅刻ばかりだからかわんないな。
でも焦っているのは本当。だって、昼休み中に呼ばれてたのにあと5分で予鈴が鳴ってしまうのだ。これは流石の私でも機器を感じる。全然行きの時間の事考えてなかった。この棟は少し離れてて、目的の場所があるところは職員室の隣。つまり、遠いんだよねここから。一度階段を降りてあとは渡り廊下をまっすぐだったよね。
急いで2階へ降りると、そこはまた違った雰囲気に包まれていた。なんか、女子高みたいな気品のある感じ?
声楽科は女子しかいない少数クラスで、制服も白がベース。音楽科よりも規則が厳しいと間宮先生が言っていた気がする。少し廊下を通ってみても、誰1人私みたいに焦りとかなく、優雅に談笑している。うぅ、花が見える。私はどちらかといえば芋虫レベルなのに。ここにも差別があるとは!
なんて少しイラつきつつ、無事声楽科ゾーンを抜けた。もうすぐ授業が始まるからか、渡り廊下を通る人はもう誰もいない。予鈴前にはみんな教室にいるのか。すごいな。
さっきの教室とは静まり返ったこの空間に、少し気を整える。そして、急いでいた足を思わず止めてしまった。
「綺麗。」
光が見えた。
渡り廊下は窓がたくさんあって、日差しが直接入ってくる。景色も、森の中にある学園らしく、邪魔なものがなく美しい事前そのもの。つい、歩く速さをゆるめて魅入ってしまうほどに。
こんな景色、見ることが出来るなんて。私は、ここで何か変わるかもしれない。
そんなことを柄になく思っていたからだろう。
私は景色に夢中で気が付かなかった。