6・予感
世の中には、女装が似合う男と似合わない男がいる。
なんの話かというと、要は俺の女装姿がとんでもなく使いものにならなかったというわけなのだった。
いやマジで、あれはひどかった。君にも鏡で見せたかったくらいだ。やっぱり、体格の差とか、顔の骨格とか、むりなものはむりだった。もっと女装が似合えば、潜入捜査だろうがなんだろうができただろうに。
「カケルさまにはがっかりです」
隣に座るラフィがゆっくりと首を横にふっている。勝手に落胆されてもな!
いま現在、俺とラフィ一向は、そのゼノン盗賊団がいるとされるカゼッタ関門を目指していた。
そこそこに大きい馬車で、大勢でも乗れる仕様になっている。まあしかし、馬車なんて乗ったことがないから、すごく不思議な気分だ。早いような遅いような。窓の外を見ると、国道が渋滞するとこんな感じだよなぁ、というスピードで田園風景が後ろに流れていっている。
「しかし、女装作戦なんて、ぜったいむりだっただろ」
俺は腕を組む。
ラフィの話によれば、このリンゼンブルグ王国を含む主要大陸では、女性が主に魔法を使えるらしく、男性で魔法を使える人間はごく少数だという。そのため、女装して盗賊団の一員として忍び込めばいいんじゃないか、という彼女の考えだったが……。
「もう、カケルさまは本気でテンプルクォーツを集める気があるんですか?」
ラフィに人さし指を立て、『めっ』という感じで怒られてしまう。いやそう言われてもだな。
俺がこの世界にやってきてから――1日が経過していた。
ベッドの中で眠る直前、もしかしてこれは夢かもな、なんて思っていたが、いざベッドから起きて城の中にいたままだったから、俺はそこでようやく『ああこれは本当に現実なんだな』と悟ることができたのだった。
悟る、というか実感せざるを得なかったというか。
疲れてたから爆睡し、そしてそのままラフィに連れられ、こうして馬車に乗っているというわけなのだった。
「で? どうするんだ? ほかの作戦とかはあるのか?」
俺は手のひらを広げた。敵の姿やら戦力はまったくわからないが、もうこうなったらラフィに強力するしかない。まあ、困っている人を見捨てられない、っていうのもあるし、ラフィたちが召喚してくれたからこそ、俺はいまこうしてこの世界にいられるのだろう。
「……ありません」
ラフィはこっちを見てやけに真顔で言った。
「ないの!?」
「ありません。ないといけないんですか?」
「逆ギレ!?」
「というのは冗談ですが」
「冗談でよかったよ」
「しかしですね、いくらカケルさまがお強くてもですね、相手はチームワークもありますし、地の利もあります。それに……、民衆人気が高いんです」
「民衆人気?」
「私たちがこれから向かうカゼッタ国は、まあなんと言いますか、少しキナ臭いというか、税金の取り立てが厳しかったり、グレー部分が多いんですよね」
ラフィは膝に両手をおいたまま前を向き、
「ですから、その反抗勢力が、ゼノン盗賊団なんです。民衆のヒーロー、といった立ち位置です」
「なるほど……」
何やら一筋縄ではいかない匂いがぷんぷんしてきたな。
そんなことを話しているうちに、遠い向こう、地平線上に、何やら砦のような大きな建築物が見えてきたのだった。




