5・世界の理
「テンプルクォーツを七つ集めると、どんな願いごともかなうと言われています」
長い長い、赤い絨毯が敷き詰められている通路を歩きながら、ラフィが言った。
「ま、マジかよ」
俺は驚きながらも答える。
「マジなんです。ただ……、正確にいえば、『どんな願いごともかなうほどの力』、らしいですけどね。とにかくすごいパワーが手に入ると」
「なんか曖昧だな……。言っちゃ悪いが、その伝説? 言い伝え? って本当なのか? どうにも信じられないのだが」
俺は言った。いやまあ、信じられないなんてことをいえば、この景色とか、俺のいまの状況とか、この世界とかすべてが信じられないのだが。
「なにぶん、いままでテンプルクォーツを集めた事例が、近年、確認されていないので確証はありません。ですが、大昔に集めた騎士は、その結果、王になって七大大陸をまとめたと記述されています」
「なるほど……」
それが嘘か本当か確かめるすべは俺にはないが、少なくともラフィがうそをついている様子はなかった。べつに疑っているわけではないのだが。
何せ、さっきのさっきまで、普通に元の世界で暮らしていたからなぁ。
状況からして、俺は死んだのだろう。それすらも確かめられないから、どんなによくわからない情報をラフィから聞いたとしても、俺はそれを真実だといったん飲み込んで、とりあえず生きる方向性を決めなければならない。もう帰る家も何もないわけだからな。
「私たち、リンゼンブルグ王国としては、テンプルクォーツを集めて、破壊したいと思っています」
なおも歩いている途中、ラフィが唐突に口を開いた。
「破壊?」
俺は聞いた。
「破壊です」
ラフィはこっちを見てうなずき、
「争いの種になるだけですからね。あんなものは、もうないほうがいいのです。ただ……、テンプルクォーツを破壊するのには、逆説的ですが、テンプルクォーツと同等の力がなければなりません」
「だから、集めるしかないと」
「そういうことです」
「ほかの、テンプルクォーツの場所はわかってるのか?」
「はい。探索専用の魔術師がいるので。ただ……」
「ただ?」
「やはり、それぞれに難関があるんですよね。いちばん近いテンプルクォーツでも、ゼノン盗賊団がのさばっていて、まったく近づけませんし」
「強いのか? そのゼノン盗賊団っていうのは」
「かなり。ですが、カケルさまならきっと、彼女たちにも勝てるはずです」
「彼女たち?」
「ゼノン盗賊団は、全員女性です。というか、ここ五十年で、男性で魔法を使える者はほとんどおらず、まともに戦える人間は女性だけなんです。カケルさまの世界は違うんですか?」




