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4・目的

「なっ、な、な、な!?」


 君も驚いただろうが、当事者の俺はそれを輪にかけて驚いた。


 だって、剣を振っただけで雷が出たんだぜ!?


 が、時間は都合よく待ってくれない。


「ひ」


 いびつな斜めに両断されたドラゴンが、すごい声をあげながら、同時にめっちゃ大量の紫色の血を放出させながら、後ろに倒れ込んでいった。


 その様子たるや、ぐろいなんてものじゃなかったし、風はいまだにびゅんびゅん吹いてるから、シュールなことこのうえなかったが、とにかく。


 なにはともあれ。


 ……俺、ドラゴンを倒しちゃったのか?


「ま、マジかよ」


 思わず握っている剣を見る。つーかよく俺はこれをさわれたな。めっちゃ切れ味鋭そうだぞ。


「さすが勇者さまです! なんかもうすごいです! すごすぎてコメントできません! 伝説は本当だったんですねっ!」


 そっちに振り向くと、先ほどの姫さまが両手を組み、目をきらきらさせながらめっちゃ羨望のまなざしでこっちを見ていた。


「ま……、まあな」


 俺はいちおう強がってみた。


「この調子で、ドラゴンの8匹や50匹ほど、倒しちゃいましょう!」


「ずいぶん幅があるな!? そんなお手軽ラクチンでいいの!?」


「……というのは冗談ですが、しかし、本当に驚きました。確かに、古文書には、勇者さまの力が強大と記されていたのですが、まさかここまでとは……」


 姫さまは神妙な調子で言った。


「さっき、あのドラゴン、テンプルクォーツとか言っていたが……。というか、勇者っていったいなんなんだ……?」


「勇者とは、勇者です」


「哲学的!」


「そうですね、場所を変えて、ゆっくりとお話しましょうか。ここだとなんですし」


「風通しはいいぞ?」


「よすぎやしませんか!?」




 それから、姫さまは長々と俺に説明してくれた。

 通された場所は、かなりでっかい大広間みたいな……まあ会議室みたいなところで、座るだけで緊張したが、とにかく姫さまが語ってくれたことは俺の度肝を抜くことばかりだった。


 異世界から召喚された勇者は、とてつもなく大きな力を持っていること。

 そして、現在、テンプルクォーツなるクリスタルを巡って、国家間、またはモンスターや人間のあいだで争いになっていること、などなど。


「本来は、守護障壁しゅごしょうへきが城を守っていてくれたはずなのですが……」


 と姫さまは語ってくれた。


 ドラゴンが、そのバリアみたいなものを突破して、強引に突入してきた。結果、ああいった壁がこっぱみじんに吹き飛ばされるという惨事が起こったわけだ。マジで吹き飛ばされないようにするのがやっとだったからな。


 で。


「……ぜひ、勇者さまには、テンプルクォーツ集めを手伝っていただきたいのです」


 姫様は俺を正面に見据えて言った。


 ……。

 事情もわかるし、理由もわかる。


 俺は、膝の上においてある、自らの両手に視線をやった。グーパーしたり、ちゃんと感覚もある。

 とても夢とは思えない。


 はたして、俺は死んだのだろうか。

 おそらく、死んだのだろう。


 最後の最後、トラックの残影が、俺の脳裏にくっきりと残っている。そして、振り返りたくもないほど、楽しいことがなかった今までの記憶も。


 俺は、生まれ変わったのだろうか。


 そういえば、まだ鏡を見ていないから、なんとも意識しなかったが、肌だったり筋力が、10代のころに戻っているような気もする。


 といった、さまざまな要素をかんがみれば、きっと俺は生まれ変わったのだろう。


 だが、もちろん、そんな事実を簡単に受け入れられるはずもない。


 しかし、目の前の姫様にそれを聞いて、答えてくれるだろうか。話すべきだろうとは思うが、ただ、なんにしろ、俺はとあるひとつの思いがあった。


 それは。


 これが夢にしろなんにしろ俺の妄想にしろ、元にいる世界よりはとにかくおもしろうに思えた、ということだった。


「……そういえば、姫さまの名前、聞いてなかったな」


「えっ? あ、これはうっかりしてました」


 彼女は立ち上がり、


「私はラフィ・コーディアス。リンゼンブルグ王国の王女です」


「俺は……」


 椅子から立ち上がり、俺は一瞬ですべての迷いを捨てた。


 だって、直感的に、絶対に、ぜーっっっったいに、こっちの世界のほうが面白そうだと思ったから。


 ていうか、どうせ死んでるかもしれないんだったら、いくとこまでいってみようぜ?



「勇者、天崎駆あまざきかけるだ」




 こうして――俺のテンプルクォーツ集めの旅は始まった。



 ……まあ、ふたを開けてみればなぜかハーレム王を目指すことになってしまったのだけれども。

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