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2・異世界

「ああ勇者さま!」


 声が聞こえた。

 どうにも視界がぼんやりとしていたが、俺はゆっくりと片目を開けた。


 ……城?

 少しずつ三半規管が回復してくる。


 ここで初めて気づいたのだが、俺は膝を立てて座っていたようだった。


 立ち上がりながら、ぞわっと身震いした。


 まったく見たことも聞いたこともない、おそらく王か誰が住んでいるであろう、それほど豪華な城の内部がそこにはあった。

 天井が高すぎて、つばを飲み込むのすら忘れてしまう。だが、すぐに視線を前に戻す。


 人、人、人。


 しかも、見慣れない――どこからどう見ても兵士とか騎士とか魔法使いっぽい服を着ている人間ばかりだった。


 ははは、と心の中だけで失笑が漏れる。


 夢を見るにしたって、もっと頭がよさそうなものをチョイスしてもいいんでないかい? 俺の自意識さんはさ。


 だが事態は俺の混乱など思慮の埒外らしく。



 その先頭に立つ少女が、3歩か4歩ほど前に出てきた。

 俺は思わず片足だけ少し下がってしまったが。


「勇者さま、ですね?」


 少女が言った。


 対する俺は、思わず無言のまま後ろを振り返ってしまった。


 ……壁しかねえ。


「勇者さま、おふざけはいりません」


 なんか少女がつっこみを入れてきた。


 俺は前を向き、何か言おうと思ったが声がとっさに出ず、自らを人さし指で示してみた。


 少女は黙ってこくんとうなずいた。


 ……。

 …………。

 ………………。


 待て。待て待て。


 確かに、俺はなろうのような世界で主人公になりたいと強く願って願い続けて本当に願いまくる日々だったけれど、あまりにも状況の整理ができない。


「勇者? 俺が?」


「はい、そうです」


 オレンジ色のセミショートの少女はまたも小さくうなずき、


「われわれの世界を救ってくださり、富と栄功をもたらし、そして平和をたずさえ、末代まで、いえ永遠に語られる救済をさずけてくださる勇者さまが、あなたです」


「ハードル高すぎるだろ! 伝説だけでプレッシャーすごくね!?」


「古文書には、そう記されております」


 少女はしずしずとした表情で言った。

 古文書パネえ。


「しかし、勇者さまが混乱されるのもわかります」


「ん?」


「古文書によれば、勇者さまは前世の世界での修行を終え、私たちの世界にやってきてくださったとか」


「なんか修行呼ばわりされるのもなんだが……。まあ間違ってはないか」


「よって、勇者さまには、まず私たちから、この世界のこと、そして魔王のことをご説明したい、そう考えております」


 そこまで話し終えてから、その少女はこっちを見て真剣な表情でまたもうなずいた。

 ……ここで、ようやく一呼吸ついたので、あらためて彼女の姿を見やる。


 なんかアイドルみたいに華やかな顔立ちなんだが。年は10代なかばだろうか。そして、着ているものが、肩から二の腕にかけてシースルーで、全体的には白のドレスで。


 これは間違いなく、どこからどう見ても『お姫さま』が着るであろう服装に間違いなかった。


 そのウェディングドレスのようなお召しものをまとっている彼女に、俺は視線で貫かれる。


 これは夢か幻か?

 いやいや、ただ夢を見ているだけだよな。


 さて。

 ……初めに言っておくが、そんな甘い考えは、次の瞬間、こっぱみじんに吹き飛ばされた。

 文字通り、な。


「えっ」「え」

 言葉とほぼ同時。いや、言葉のほうがコンマ数秒送れて。



 部屋の壁が爆発した。

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