10 泥酔
「わらしの酒が飲めんのかおのれはぁー!」
本当にお酒を飲むと酒乱になる人がいるんだな、と俺は思った。
ワインだぞワイン? いやワインでも関係ないのか?
こっちの世界の法律がどうだか知らないが、俺もそのワインとやらを飲ませてもらった。……うん、どちらかというと、あとからお手伝いさんが運んできてくれたチーズのほうがおいしく、そっちの記憶が残っているがそれは置いといて。
「だいたい、カケルさまはあれなんですよぉ」
顔を真っ赤にして怒るラフィはとてもかわいかったが、そのしゃっくりはいかがなものか。そして、完全に目がすわっている。
と俺が彼女を観察していると、
「聞いてんのかカケルー」
「聞いてる、聞いてるったら」
俺は耳に人さし指を入れつつ答える。だめだこりゃ。この姫、早くなんとかしないと。
「よしわかった、私が勇者になる」
ラフィが腕組みをし、ずーんと構えながら言った。なんだそのドヤ顔は。
「どういうこと!?」
「なるったらなる」
ふふーん、という顔をしているラフィ。完全に酔っ払ってるけど。あ、目を開けた。
「ちょっと聞いてんの!?」
机をばしばし。
「聞いてるって……。ていうか、ラフィ、そんなに飲んだか? それとも酒に弱いのか? それだった」
ら、と俺が言おうとしたとき、
「カケルさまがいたから」
「え?」
「だから、たまにはお酒を飲んでみようかなーとか思ったんです」
「ラフィ、お前……」
「なーんていう冗談を言おうと思いました」
「冗談!? いやもう口に出しちゃってるけど!?」
「まあとにかくですね、カケルさまとは、まだ出会って間もないんです」;
またくいっとグラスをかたむけるラフィ。
「だなぁ」
「ですから、お互いのことを知ろうと、そういう場です、これは」
ラフィは膝に両手をのせた。俺は頭をかきつつ、
「しかし、馬車に乗ってるとき、話ただろ? いろいろと」
「話しましたね……。カケルさまの好きな女性のタイプとか……」
「話してねえけど1? 一言もそんなワード出なかったけど!?」
「で、どうなんですか? ドラゴンも一振りで倒せてしまう、カケルさまに、好きな女性のタイプはあるんですか? 好きな男性のタイプとかいったら私はドン引きします」
「俺もドン引きだよ! 好きなタイプねえ……」
そんなの、人生で初めて聞かれたぞ。いやまあ、二回目の人生なんだけどな、ってそんな自虐ギャグしてる場合じゃねえし。
俺が答えを決めあぐねていると。「あ、ちょっと待ってください」とラフィが手を前に出し、
「なんだか勇気がなくなってきました。あれですよね、カケルさまがもしかしたらメイド好きだったとしたら、悲しいことにあなりますからね」
「いや、べつに、メイドは好きでもなんでもないが……。なんで悲しいんだ?」
「いえ、こっちの話です。じゃ、もう1本おかわりを」
「さすがにやめとけ!」
……という感じでなんやかんやがあった。ついつい、ずっと続く山の景色を見ていたら、そんな記憶がよみがえってきた。
「どうしてでしょう、私、きのうの記憶がないのですけど……」
額を押さえながら、ううむとうなっている、隣の席のラフィが言った。
「二日酔いにならなかっただけで奇跡だよ……」
俺はそんなラフィを見て目を細める。しかし、確かに記憶がなかったかもしれないが、それでもけろっとしているのはさすがというべきか。
「で? ここをずっと行けばつくんだろ?」
「そうです。まあ、道中長いので」
そのときだった。影が、視界のはじに見えた。
俺の目には、それが人間の姿に見えたのだった。