1・プロローグ
小説家になろうの作品を読んでいて、主人公のようになりたいと思ったのは俺だけじゃないはずだ。
最悪だった人生が、異世界に行ったとたんに輝き出す。嫌なこともつらいことも忘れて、美少女に囲まれて暮らしていける。
しかも、魔法はバンバン使えるし、剣だって超一流。
誰もがやったことのあるようなゲームの世界で、俺はまさしく主人公。悪人を倒し、モテて、名声を得て、それこそ『勇者さま』とあがめられる。
誰だって、夢見るはずだ。
もちろん俺だって。
小説を読むたびに、そんな世界があったらいいな。欲をいえば俺がその主人公だったらいいな、なんてことは何回も考えた。
何回も考えたさ。
けれど……、現実は残酷だ。
父親が亡くなって自らが家族を扶養せざるを得なくて、就職先は見つからないし、中卒だし、バイトはしてるが社会人経験なし。十年間小説を書いていても、賞にもなんにも引っかからない。
もう、人生おしまいだ。
このまま好きでもないことを仕事にして、残りの時間を過ごしていくのだろうか。三十八歳、もちろん彼女もいなくて友達もいなくて、孤独な人間の最後はどこか。
生まれ変われたらいいのに。
生まれ変わりたい。
そんな思いが、涙となってこぼれていき。
空を見上げる。青い世界。
そこには、汚れなんてなくて。ただきれいで。
……なんてことを思っていた矢先。
横断歩道を渡っていて、きっと――あとからこれは――自己分析しただけの臆測にしかすぎないのだけれども、このときの俺はぼんやりとしていて周りを見ていなかったんだろうな、一種の鬱状態だったのだろう。
トラックの側面だけが見えた。
全部は見えなかった。
途中で意識がなくなったから。
痛む間もなく。
俺は死んだ。
そうしたら、まさかまさかの。
俺の人生大逆転ホームランの世界がそこには待っていたのだった。




