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第2話※



おじの屋敷の庭が完成したので、お披露目のガーデンパーティーに誘われた。

久しぶりに会ったいとこから「まぁ飲めよ。」とワインを受け取ったところで、背中が誰かにぶつかった。


「失礼。」

振り返ると、さわやかな陽の下だからだろうか、いつもの仏頂面よりも少し明るい顔をした女がいた。


彼女の視線がドレスに落ちた。

それにつられて視線を落とすと、赤い色がドレスに散っている。

ドレスがさっと動いて、その染みが視界から隠れた。


「すまない、ワインが。」

「いえ、大丈夫です。」


言いかけた言葉を遮るように、彼女は口早に言い身体を翻した。

「待ってくれ。」

思わず引き止めた。


「いえ、本当に大丈夫ですから。」

「そんな訳にはいかない。」

「ですから、ちょっとワインが飛んだだけですし。」

彼女は俺に目も合わせようとしない。顔を背けて早く立ち去りたいと顔に書いてある。

だが、そうはさせるか。


「ちょっとじゃないだろう。」

「ちょっとです!」

「どこがちょっとなんだ!見てすぐ分かるくらい目立つじゃないか。」



注目されることに焦っているのだろう。

周囲の目を気にしてキョロキョロとあたりを見回す彼女は、追い詰められた動物のようでおもしろい。


「ほら、そんなに頑固にならないで、こっちに来て。」

なだめるように、彼女の背に手を触れた。

薄い背中だ。

普段の態度が大きいせいか、もう少し大きい印象だったが、こうして触れると意外と頼りない。


それにしても、なんだかうちの犬が初めて屋敷に来た時と同じくらい警戒しているな。

そんなことを考えていたせいだ。

「ね、素直なほうがかわいいよ。」

思わず、いつも犬に言っている言葉が口から出た。


彼女は身をよじって、俺を睨んだ。

その瞳がギラギラと光っていて、正直、マリーのキラキラの瞳よりも、インパクトがあった。


俺はといえば、なぜかその視線に、全身を歓喜が貫いた。

いつもみたいに高飛車に装った姿ではなく、むき出しの彼女が、目の前にいる。

彼女はいま、丸裸だ!

いや、おかしいな。

俺、浮かれすぎだ。


彼女‥‥あぁ、彼女だなんて呼ぶのはもういい。

モニークだ。

彼女の名前はモニーク。

彼女に初めて会ったとき、調べたから知っている。


モニークの瞳から目が離せない。

燃えあがる焔のようにゆらゆら揺れていて、きれいだ。


自分自身の予想外の感情に戸惑い、手で口元を覆った。

いま口を開いたら、絶対に余計なことを言う。

自信がある。


「お気遣いありがとうございます。でも、本当に必要ありませんので。」

再び笑顔の仮面をかぶったモニーク。

つまらないな。

もっといろんな表情を引き出したくて、背を向けたモニークに「怒っているのか。」と問いかけた。


怒っているはずだ。

さぁ、きみの感情を見せてくれ。





今日一日で、いろんなことが起こった。

ドレスを破るだなんて、自分でもありえないと思う。

ありえなさすぎて笑ってしまった。

本当に起こるんだな。


もちろん、ドレスを破ってしまったのは、わざとではない。

しかし、モニークの驚いた顔といったら!

ぽかんと口を開けて、間抜けな顔だった。


笑っては悪いが‥‥あぁ、思い出しても表情が崩れる。

怒らせれば怒らせるほど、モニークはいい反応を見せる。

最後の方は、わざと怒らせてしまっていた。

またすぐにでも、お詫びの訪問をしよう。

きっと次も、俺を楽しませてくれるだろう。




モニークの背中を見送ってから、ガーデンパーティーの会場に戻ると、麗しのマリーの姿があった。

彼女の見事な金髪は会場でひときわ目立っている。


マリーは俺に気付いて手を振ろうとしたが、その手が中途半端に止まった。


彼女の視線が問うように、俺の手の中の破れたドレスの袖に向けられているのに気付いて、なんでもないふうを装ってそれをポケットへとしまった。



あぁ、それと、言っておくが部屋に誘ったのは下心があってのことではない。

少しでも長く、あの楽しい時間を引き延ばそうとしただけだ。


‥‥って、誰に弁解してるんだか、な。






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