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第7話※




あれから、モニークとパーティーで顔を合わせることはなかった。

俺はいろいろな場に顔を出したが、どのパーティーにもモニークの姿はなかった。

付き合いのある人たちの種類が違うのだろうと気付いて、少し地味なパーティーにも顔を出してみたが、そこにもいなかった。


クレドルーを訪ねてみることも考えたが、モニークを訪ねる理由がない。

周囲の人間にいろいろ詮索されては、俺だけでなくモニークも困るだろうと思って控えていた。


特に会う用事はないのだ。

ただ、彼女が去り際に見せた表情が頭から離れない。

彼女は、元気でやっているだろうか。

この前のパーティーでは俺の顔を見た途端、安心したような表情になっていた。

また俺が顔を見せれば、元気になってくれるのではないか。

彼女は、俺に会いたがっているのではないだろうか。


月を見上げた。



「ダヴィド様、最近、屋敷のものが心配しております。ご様子がおかしい、と。物思いに耽るかと思えば、突然月を見上げてため息をつかれて。それに、ここのところよく真夜中に庭を散歩されていますね。」


手紙を渡しに来た執事が、相変わらずの淡々とした口調で俺に言った。

最近の俺の行動を、この執事がなにも思わないはずがないことは分かっていた。

とうとう言われたか、と覚悟していたにも関わらず、手紙を受け取った姿勢のまま固まってしまった。

自分でも分かっている。

最近の俺はおかしい。


ゴミとしか思えないドレスの切れ端を大切にしたり、焼き菓子でぐちゃぐちゃに汚れた格好で戻ってきたり。

それ以外にも、パーティーに出席すれば、意味もなくきょろきょろと周囲を見回したり、うろうろと会場をうろついたり。

夜風にあたりにバルコニーに出る俺を、マリーが不審そうな目で見ていたことは分かっていたが、一人になりたい気分だったのだ。


いざこうして面と向かって聞かれると、なにも言葉が出てこない。

しかも、相手は俺が物心つく頃から屋敷に勤めているこの執事だ。

泥だらけになって遊んでいたガキの頃を知られているだけに、なにもかも見透かされているようで居心地が悪い。

くるりと執事に背を向けて、凪いだ瞳から逃れるように背を向けた。

「なんでもない、なんでもないんだ。」

窓辺に行こうとしたら、椅子の脚につまづいてつんのめった。

椅子の背に手をついた姿勢のまま、顔だけ振り向くと、執事がその様子をじっと見詰めていた。


「馬の世話をしてくる。」

そう言って、ふらふらと部屋を出た。


「恋煩いですな。」という執事の呟きは、俺の耳に届かなかった。



結婚が決まった友人を祝うために、当人の屋敷に俺を含めて4人の男が集まった。

みな、気心が知れた仲だ。

食事の後は、談話室でめいめい好きな酒を飲んでいた。

一人は少し離れたところに座り、俺と家主ともう一人の友人はソファに腰掛けて取り留めのない話をしていた。


普段通りしているつもりが、どうやら親しい友人から見たら、俺の様子はおかしかったらしい。

家主が俺に声をかけた。

「なんだ。どうしたんだ、ダヴィド。大人しいな。」

俺は正直に答えた。

「最近、調子が出ないんだ。」

「どうした?悩み事でもあるのか。」

彼は、背もたれに深く座っていたのを、上体を起こして聞く姿勢になった。


俺は酒をあおって、出来るだけなんでもないように聞こえるよう、あっさり答えた。

「いや、すべて順調だ。」

もう一人ソファにいた友人、以前パーティーの際に声をかけてきた悪友だが、そいつがグラスを持った手を上げて俺を指した。

「そりゃそうだよなぁ。悩みなんてあるわけがない。聞いてるぞ。今年はかわいい子が多くって当たり年だって言われてんのに、その中でも一押しの金髪マリーちゃんとデートを重ねてんだってな。うらやましいぜ。」

と、完全に面白がっている。


「あぁ、マリーは理想的な女性だ。」

俺はその言葉が心に響かず、ぼんやりと答えた。

それを見た悪友が、初めて笑みを消した。

「おい、本当に大丈夫かよ。心ここにあらずだな。あれか、女性がなるっていう、マリッジブルーってやつか。」


「遊び足りないんじゃないか?ダヴィドって、すっげぇモテるのに、女の話はぜんぜん聞かないもんな。結婚する前に、もっと遊んでおけばよかったとか考えてたり。」

少し離れていたところにいた友人がこちらへ寄ってきて、ソファの後ろに立って話に参加した。


「別にそんなことは‥‥。いや、そうなのか?」

「まさか、ダヴィドに限ってそんな‥‥え?」

家主が否定しようとして、俺の言葉を聞き返した。

悪友でさえ、目を丸くしている。


俺はそんな友人の表情は目に入っていなかった。

これまでの行動を一つひとつはんすうし、当てはまることが多いことに気が付き「そうか。そういうことだったのか。」と、ぶつぶつ呟いていた。

マリーという結婚相手として思い描いていた通りの女性がいるのに、モニークのことが頭から離れないのは、そういう意味があったのかと納得しかけていた。

「お、おい。ダヴィド、早まるなよ。」

ばっ、と立ち上がった俺に、家主が慌てて声を掛けたが「大丈夫だ。」と言い返した。

「祝いの品を改めて贈らせてくれ。今日はもう帰ることにするよ。おめでとう。」


もやもやの正体が分かったこと気を良くした俺は、明るく友人たちにあいさつして帰って行った。





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