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第1話


男の子2人、女の子4人の兄弟で、下から3番目。1番どうでもいい位置だと思う。


服も絵本も、兄と姉のおさがり。

かわいがられるのは、生意気な弟と妹。


遊びだって、兄と姉にはついてくるなと邪魔者扱いをされる。

母はわたしを見つけると、妹や弟の世話を任せようとしたり、なにか用事を言いつけようとする。


わたしは空想した。

いつか、わたしだけを見てくれる男性が現れると。




姉2人は父が精力的に動き、夫を見つけてきた。

しかし、わたしの順番になると父はもう力を使い果たしたようで「お前が気に入った男性でいいんだよ~」とにっこり。

ただめんどくさくなっただけだろうと邪推している。


「姉2人はぼーっとてるけど、お前はしっかりしてるから、自分で見つけたほうがいいんじゃないかと思ってなぁ。」

そう父に言われてしまえば、頑張るしかない。

うまいこと乗せられてる気もするが。


未婚の娘は残り2人。

妹は美人に成長した。でも頭が悪い。

わたしは勉強をがんばってきたので、美人な妹はよりも気の利いた会話ができる。


だが、そんなものはどんぐりの背比べだった。

社交界に出て、わたしは打ちのめされた。

美人で頭が良くて性格もいい。そんな女性がごろごろいるのだ。


男性たちの熱視線はそんな女性たちが独占。

男同士の競争に敗れ、レーンからポロポロとこぼれ落ちた男たちがすぽっとわたしたちの夫におさまるのだ。

つまり、男たちが妥協した結果。

まるでおこぼれのようにわたしたちは夫を得る。


社交界に出て一つのシーズンを通して見れば、その図式は簡単に見えてくる。


その図式を理解していなかった頃。

社交界に出たばかりの頃は、男性たちから賞賛の言葉を引き出そう、値を釣り上げようと、お高くとまっていた。

すると、男性たちは「あ、じゃあほかを当たるわ~」とあっさりと引いていってしまった。

恋愛小説なら、こうすると男性は奮起するのに。


じゃあどんな女ならいいのかと観察していると、「よかとよ~」と優しく全てを包み込むかのような女に、フラフラと男が寄っていくようだ。

恋愛ゲームで疲れ、燃えカスになった男は、癒しをなによりも必要としていた。


3度目のシーズンとなると、わたしは残り物のレッテルを貼られるようになった。

「もうこのへんでいいんじゃない?」と父が重い腰をあげて見繕った男もいたが、「いまさら妥協できない」とわたしは突っぱねてしまった。

あぁ、でも、いま考えるとその人にしておけばよかった。


今さら、デビューしたての女の子たちに混じって、白々しくキャピキャピすることなどできない。

興味ありませんから、というポーズをしていなければ、とても立っていられなくなってしまった。

たとえ、それでかえって男性を遠ざけてしまったとしても。


ちなみに妹は、ちゃっかりと初めてのシーズンで相手を獲得していた。

相手は、以前から目をつけていた、男爵家の次男だった。


もう、ほんと、誰でもいい。

いや、良くないけど。

「姉さんは理想が高いのよ~」だなんて、身の程を知れという言葉をにじませて妹にからかわれるのはもう嫌だ。

理想が高いのを理由にしなければならない女の気持ちなど、あの妹には分からないだろう。


本当は、理想など高くない。

「男はスマートにエスコートできないとね~」なんてただの強がりだって、わかって欲しい。

実際、「待て」をされて3年も経てば、声を掛けられただけで、みっともなくしっぽを振ってついていってしまいそうだ。

声すらかけてもらえないけど。


夜会に出る意味は、もはやあまりないと思う。

もう諦めてもいいですか?


付き添いの叔母だって、やる気がない。

夜会に付いてきてくれるけど、知り合いの夫人を見つけては、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしている。

わたしはその側で、両手を揃えてじっと突っ立っているだけ。


今日は一人で放置されて、わたしは会場の隅でグラスを片手に会場を睥睨している。

グラスを持っていないといよいよ手持ち無沙汰になってしまうので、これは必須アイテムなのだ。


せめて女友だちがいれば気が楽なのだが、こんなところで若い女同士が話すことなど決まっている。

ファッションか恋バナ。


そのドレスのレース、素敵ね!

誰々に声をかけられちゃった!

ねぇ、あの人あなたのこと見てるわよ!

彼、なんて名前なの?


くすくすと笑い合う姿は、姉2人の姿を連想させる。

いつもいつも、あの手の会話にわたしは入れてもらえなかった。

今だって、なにも起こらないから話題がなくて会話に入っていけないし、会話に入れないからこの会場の男性の名前も覚えられなくて、結局仲良くなれない。

切ない。


ふと気がつくと、今まで話し込んでいた少女2人が、ピタッと会話を止めてわたしを凝視していた。

口がぽかんとあいているが、どうしたんだろう。


その少女たちとわたしのちょうど中間あたりに、こちらへ歩いてくる青年がいることに気がついた。


伯爵家の跡取り。

莫大な財産の相続人。

王太子殿下のご学友。

女を惑わせる、美しく、悪い男。


そんなふうに噂される、話題の人物。

そんな注目の的が、こちらに歩いてきている。


わたしは、さっと目を逸らした。


ドキドキして、努めて見ないようにしていると、男の靴のつま先が、わたしの前で止まった。

あらゆる想像が脳裏をよぎる。



『ダンスを一曲、お相手いただけませんか。』

『ハイエナのような女たちに疲れてしまったよ。君のそばで休ませておくれ。』

あぁ、恋愛小説の読みすぎだ。夢を見るのはもう終わりだというのに。


「ねぇ。」


「は、はひぃ。」


声がひっくり帰ってしまったのが恥ずかしくて、さらに顔をうつむかせた。


「そこ、どいてくれる?」


男に指差された背後を見ると、そこにはスツールが置かれていた。

わたしは大きく一歩横にずれた。

そして、男がそのスツールに腰掛ける。


わたしは男に背を向けて、元の通り、まっすぐ顔を前に向けた。


「‥‥‥。」


無言だ。

こういうとき、どういう行動をとれば自然なのだろう。


なにかご挨拶をすべきだろうか。いやいや、それは厚かましいだろう。

では、この場を離れようか。それでは近くにいるのを嫌がっていると受け止められてしまうかも。


背後が気になる。

彼は後ろでなにをしているんだろう。

わたしは、変じゃないかな。まっすぐ立つことができてるかな。


とにかく、ここにこうしてずっと立っているのは不自然だ。

早く、なにかしらの行動をせねば。

礼儀正しく、かつ、自然に!

焦れば焦るほど身体が固まっていく。

ピクリとも動けなくなってしまった。


そして、身体をギッギッと動かして、勇気を出して勢いよく振り返った。

「あの‥‥っ!」

言葉が途中で消えた。

そこには誰もおらず、スツールだけがぽつんと置かれていた。



少し離れたところで、彼は若い女性に囲まれていた。

「まぁ、おもしろいのね。ダヴィド様ったらぁ。」


うん、まぁそうだよね。


わたしが振り向きざまに彼に話しかけようとしたことは、誰にも気付かれずにすんだ。

それだけが救いだった。




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