白の足音
白い世界で出会った二人の、ほんのちょっとの淡い時間。
耳が痛くなるのは寒さからか、静けさからか。ぼんやりと白い街灯に反射する雪が、視覚から寒さを訴えてくるが、雪に埋もれて靴下まで濡れた足先は、ほんのりと温かく感じる。
――コツ、コツ、コツ……
さほど深くはないが、それでも雪に覆われているはずの道に、規則正しく響く靴音。振り返ると、ファーつきのダウンを羽織り、首には口元までマフラーを巻いた、セーラー服にミニスカート姿の女子校生が一人。足元は一昔前に流行ったルーズソックスにローファを履いている。マスクをしていて顔立ちははっきりと分からないが、艶のある長い黒髪には、ところどころ、雪の粉が反射している。
「ねえ。そんな格好で寒くはないの?」
「え、はい。大丈夫です。ってか、うちの制服か」
マスクで少し篭った、ふとすると聞き取れいような静かな声だった。近くで見ると、スラっとした長身に、少し釣り目気味の大きな瞳が印象的だ。
「上着、前を閉めなくても寒くないの?」
「全然へーき。あたしったら無駄に身長ばっかあるから、足はちょい寒いけどね」
ちょっとどころではないだろう。スカートは膝上、ルーズソックスは足首にぐちゃぐちゃとまとわりついているだけのようだし、ローファの踵は潰しているようだ。
「そんなに心配そうにあたしのこと見てるんなら、心まで寒くならないように、ちょっと付き合ってよ」
こちらの返事なんてお構いなしに腕を引かれる。引かれた腕を追いかけるように後をつけると、木々を彩る電飾が見えてきた。
「足速いね。あたし、ちょっとは自信あったんだけどな」
「そりゃあ、引っ張られれば走るよ」
なんとか腕に追いて、隣に並ぶ。目の前には大きな木には、赤や黄色や青の飾りがこれでもかとつけられて、てっぺんに大きな星の飾りが乗っている。人通りが多いからか、地面はコンクリートが見えて、この場所の人気が伺えた。
「毎年ね、これを見るのが楽しみだったんだ。付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ。こんな立派なツリーを見るのは初めてだから」
どれくらい経っただろうか。腕を組まれていることに気がついて隣を見ると、寒さでか、それともいきなり腕を組んだことに緊張してか、頬が赤くして俯いている。いつの間にマスクをはずしたのだろう。
「……カップルみたいに見えるかな」
「……さあ、どうだろう」
――もしかしたら、見えてすらいないかもしれないのに
そんなことを言うのは無粋か。嬉しそうな横顔を見て思い留めた。
「去年のクリスマスにね、サンタさんにお願いしたんだ。来年こそは、カッコイイ男の子とこのツリーを見たいって」
こーんな大きな靴下を用意してね。作るの大変だったんだよ。大人が一人入りそうな大きさを、全身で表しながら言った。
「ほんと、叶わないと思ってた。でも、サンタさんって随分と粋なことしてくれるのね」
あたしと同じような人を充てがってくれるなんてね。そんな風に聞こえたのは気のせいだろうか。それとも風にかき消されて聞こえなかったのだろうか。
「良かったら、来年も一緒に見ないか」
「ううん、いい。あたしは、もうこれでサヨナラするから」
組んでいた腕を離して、正面から向かい合う。もうお別れのようだ。
「腕、ごめんね。ほんとは走ってるときに気付いてたんだけど、なんとなく言いにくくて」
「持ってていいよ。また会えるといいね」
もう片方の腕を差し出して握手する。温度を感じられない手の感触に、お互いに震え上がる。
「うわっ。なんか、変な感じ」
「うん。次に会えたら、ちゃんとあったかい手で握手したいね」
この場所で握手すると次の世でも一緒になれる。そんな噂が信じられるようになったのは、誰かが見ていたからだろうか。




