蓬左車両製造工場株式会社の社員たちのお話
さて、日本は日露戦争から野戦鉄道に興味を持っていた、
実際にドイツなどから蒸気機関車などを輸入して試験を繰り返したり、
鉄道連隊を編成したりと、
鉄道は日本にとっての命とも言えた、
そこで陸軍は「野戦で簡単に敷設出来る軽便鉄道」が欲しいと言い出した、
これには開発担当の車両製造工場は「あんた頭おかしいよ」と言いながらも社員でメモ帳片手に社内会議を始めた、
まずはどのように線路を簡単に敷くのかが課題となったがこれはすんなりと解決した、
コンクリートに固定された10m単位の線路を専用の貨物車に積載し、
これまた特注品の橋形クレーンを貨物車と平行になるように乗せる、
この橋形クレーンは片一方が異様に突出してるがここからレールを下ろせばちょうど貨物車の目の前にレールが降りる仕組みになっている、
レールとレールはボルトと金具で固定されてつなげていくというものだった、
陸軍「貨物車にレールは何本載せれるの?」
社員「あ」
貨物車にはせいぜい10mレールが5~7本、
つまりどう頑張っても100mも敷けないのだ、
社員たちは再び黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
レールを長くすればいいという案も出たがこれはコスト面から陸軍に却下された、
それに待避線などの複雑な引き込み線路はどうなるかなど課題が続出、
そこで考案されたのが木製の枕木折りたたみ式である、
これはよするに枕木にレールを固定してそれぞれのレールを違う方向に引っ張るとスライドして折りたためちゃうというアイデアだった、
さらにレールを固定する際は枕木とレールから成る四角形の空間に柱を固定して三角形を作ればレールの幅が固定され線路のズレが起きない仕組みとなっている、
これにより積み込めるレールは12本に倍増した、
陸軍「え、120mしか敷けないの」
社員「え、まだ不満なのかよ」
そこで特注品の橋形クレーンを前後とも突出させ後方の貨車からもレールを運び込めるようにする案が提案され、
使用可能レール数は24本に倍増、
陸軍「240m………」
社員「あんた頭おかしいよ」
そこでさらに敷設貨物車二両の後方に操重車を繋げ後方から送られてくるレールを貨物車に運び込めるようにした、
陸軍「うん、まぁ、うん………」
社員「お前もういい加減にしろよ」
これ以上は無理という社員の必死の説得により陸軍側が折れる形となったが次の課題が目の前に叩きつけられた、
これを運用するための機関車だ、
これに社員は普通の軽便鉄道用の小型蒸気機関車を提案したが即答で却下された、
陸軍「煙でバレるだろ」
さあ社員はまたガタガタと工作機械のうるさい工場の奥にある黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
まず初めに提案されたのがジーゼル機関車だった、
しかし、これに陸軍は、
陸軍「油使うなよもったいない」
呆れた社員たちは木を燃やさないで走る煙の出ない蒸気機関車を日夜追い求めた、
そこで提案されたのが電気式蒸気機関車である、
これは電気で熱して機関車の蒸気を発生させるという方法で社員の中でも名案とみんなで声をあげた、
陸軍「発電機に油使うなよもったいない」
さあみんなでメモ帳片手に社内会議を始めた、
そして名案が今日も生まれた、
社員「もう木炭エンジンでいいんじゃないか」
整備「馬鹿だなー、木炭自動車なんてただ整備が大変なだけだろ」
社員「じゃあ整備が簡単な焼玉エンジンで」
世にも奇妙な木炭式焼玉エンジンが生まれた瞬間である、
社員「これ普通に木炭エンジン機関車じゃダメなの?」
整備「馬鹿だなー、木炭エンジンの自動車見てみろよ坂も登れないじゃないか」
社員「あー」
社員「これ普通に焼玉エンジン機関車じゃダメなの?」
整備「馬鹿だなー、駒吉機関車があるだろ」
社員「あー」
こうして陸軍から機関車の試作命令が出された、
しかしいざ自社設計となると今まで別の会社の軽便鉄道用の機関車を作ってきた社員たちは困り果てた、
社員「出力やらを確保するためにもテンダー式を採用する」
社員「生産性とか確保するためにもタンク式を採用したい」
社内が珍しく二つに割れた、
前者は確かに出力関係で発電ユニットを載せるための給水車と言った具合で、しかし運用には少々難癖があり、
後者は社内の生産ラインの流用ができるし一つにまとめれば運用も楽だが出力やらをある程度諦めなければならない、
陸軍「あー、うん………」
社員「優柔不断だなおい」
案1:0-6-0のテンダー式
案2:0-4-0のタンク式
案3:0-4-2のタンク式
社員「おいタンク族」
社員「なんやテンダー族」
社員「お前のところだけ一案多いぞ」
社員「安全性も考慮してなおかつ社内の生産ラインを考慮しての結果や」
陸軍「じゃあもうこうしよう」
陸軍「3つとも採用」
社員「お前本当に優柔不断だな」
かくして、
テンダー式の製造用の新工場建設を約束に3つとも陸軍に採用されたのであった、
陸軍「軽便鉄道用の装甲列車が欲しい」
社員「お前出てけ」
さあ大変だ、陸軍からまた注文が来た、
みんなで黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
社員「この際だから馬力優先でジーゼル機関車を使おう」
陸軍「え」
社員「お前は入ってくんな」
というわけで少々強引だが陸軍からジーゼル機関車の試作命令の許可が降りた、
そして再び自社設計の難しさが立ちふさがった、
結局のところ生産性を優先した結果、
パッと見まるでスチームトラムのような不格好な四角い箱になった、
このスチームトラムというのは路面機関車という種類の蒸気機関車である、
ボイラーから車輪まで大きなカバーで覆われており市街地での運用を前提とした機関車だ、
0-6-0の配置であり、車内は意外と広め、
自衛用に九七式軽装甲車の銃塔が一つ、
37mm砲塔型にしなかったのは連結される装甲列車の武装に依存するという具合だった、
一方装甲列車の設計班は迷路に入り込んだように黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
一体どんな感じの装甲列車がいいのか、
そこで客車の外側と内側にそれぞれ25mmの装甲をはり、
装甲、木、装甲と言った具合で古い戦艦のような装甲配置であった、
窓は防弾の分厚い鉄板と戦車用のスリット、天井に一箇所だけ旋回機銃を付けた、
陸軍「これ兵員輸送用じゃねーか」
と陸軍が真っ赤になったので大砲もつけようということで新車両の設計が始まった、
新車両は戦車の砲塔を流用した砲車や、
対空機関砲がある対空車など、
設計班は机から離れられなくなっていた、
一方ジーゼル機関車は既に納入されており、
先程の特殊電気式蒸気機関車とともに大陸にて後方から戦線を支えていた、
陸軍は装甲列車が出来ない事にイライラしながらついに兵員輸送用の車両の臨時採用を決めた、
兵員輸送用の車両の機関銃も古くなった八九式7.7mm航空機銃を流用しており、
これは500発のベルトリンク式で大陸では概ね油断していると車両から取り外されて前線に持っていかれることが多発した、
そのためなのか機関銃が無い車両も珍しくは無かった、
機関車の7.7mmは弾倉式なのでとてもではないが頼りにはならなかった、
陸軍「なんか頼りないって評価だから砲塔再設計してくれ」
機関車の設計班は装甲列車の設計班をネタにしてたところにこの話である、
みんなで黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
社員「よするに八九式航空機銃を使える砲塔を作るのか」
社員「弾薬スペースが大きすぎて無理なんじゃないか?」
そんなところに嬉しい知らせが来た、
大陸の方でドイツの戦車が鹵獲されたのだ、
7.62mmを二つ付けたその銃塔の図面を早速入手しこれを基に威力の大きい九二式13.2mm機関砲と本命の八九式7.7mm機銃の銃塔が出来たのだ、
漸く一仕事終えた機関車の設計班は一息ついていると、
陸軍「あの砲塔を基にした戦車を作ってくれ」
無茶苦茶じゃないかと愚痴愚痴言いながらも礼儀正しく黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
一方ではやっと装甲列車が漸く納入されたが設計班が途中でとち狂ったらしく、
気動車を基にした一両一両自走できる装甲列車が出来てしまった、
社員「これで満足か」
陸軍「アッハイ」
発動機は川崎が生産するハ9をそれ用に改造したもので550馬力を誇る、
さらにこの装甲列車は下部の車体を引き込めばその上にある履帯で走行可能で、
よするに九五式装甲軌道車の設計をパクったのだ、
パッと見はのちの特三式内火艇に似ており、
側面には機銃、天井には砲塔が多数、
のちに前線からは「道を走る客車」「軌道外装甲車」「走るかまぼこ」「多砲塔列車」などとあだ名されたが、
この話はまた別の機会に、
こうして装甲列車の設計班のとち狂いに救われたと思われた機関車の設計班だが、
陸軍は諦めてはなかった、
なにしろ納入された装甲列車に使っている砲塔の設計は、
九五式重戦車からの流用だったからだ、
あきらめの悪い陸軍を黙らせることを第一目的にした設計班は九五式乗用車をヴィッカース装甲車を参考に装甲化、
その上に機関車にも使われた砲塔を乗せて陸軍を黙らせたのだ、
これでしばらくは列車の納入で落ち着くかと思いきや、
陸軍がノモンハンで大敗、特に最新鋭戦車の九七式中戦車が撃破されたショックは大きく、
各社に更なる戦車の発注が届いたのだ、
社員「鉄道工場に戦車作らせるのかよ」
社員をも呆れさせた発注命令をみんなで見ながら黒板の前でメモ帳片手に社内会議を始めた、
発動機は川崎に発注しているハ9を再び使用、
のちに社員からは「地獄」とまで言わせた長い開発期間の始まりだった、
そんな戦車設計班とは別に会社はちゃっちゃと鉄道を作っていた、
納入された敷設貨物車は大陸や南方に大軽便鉄道網を敷き、
物流の流れを作った、
のちの中国やインドネシアなどが軽便鉄道などで賑わう第一歩である、
今はまだ戦争のための軽便鉄道だが、
ソ連の侵攻から住民を大量輸送したり、
戦線の迅速な転進(後退)など、
様々な用途に使われていくのであった、
また満州やフィリピンなどにあった新工場も空襲などで荒廃しながらも、
この大軽便鉄道網のための整備工場や生産工場として再稼働、
木炭機関車は蒸気機関車として、そしてジーゼル機関車は工業用に、敷設貨物車はそれぞれ貨物車と操重車に、兵員輸送車両は客車、装甲列車は気動車、
そして余り物の焼玉エンジンはトラクターなどのエンジンとして、
それぞれの道などを歩み始めるその日まで、
工場はまだ煙を吐いている、
陸軍「履帯式の小型低燃費戦闘牽引車が欲しい」
社員「知らんがな、海軍のブルドーザー使えよ」