Episode③
「お………ぃ………」
誰かの呼ぶ声に
僕は目を覚ました。
鼻に付く薬品の匂いから
きっとここは保健室だろう。
誰か横にいる……
コンタクトしたままだからか
異物感で目が痛い。
霞む目をよく凝らしてみると
そこには何故か叶夢がいた。
僕のことが嫌いだと言っていた
彼が何故ここに居るのか分からない。
彼の行動が読めない……
「あぁ、起きたんだ……」
「な、何で……」
「何でって、
クラスの連中に言われたから来ただけだ」
「そっか……」
「何、心配して来たと思ってんの……?」
「い、いや……」
「ならいいや、俺、帰るから」
そう言って扉に手を掛ける
叶夢に僕は乾ききった喉を無理やり動かして
「待って……」と叫んだ。
出た声が、思ってた以上に小さくて
聞こえているか分からないくらいの声に
自分が情けなく感じて視線を下げた。
「何…?」
「あ、ありがとう………ございます………」
僕がそう言うと、
叶夢は何も言わずに保健室を出て行った。
その後、すぐに志倉さんが来た。
いつの間にか早退届けが出ていたらしく、
志倉さんの手には僕の荷物があった。
幸い家に帰っても
今日は仕事が無い為、ゆっくり出来る。
僕は、志倉さんの車で学校を出ると、
コンタクトを取った。
目が痛くて
涙が止まらなくなっていたからだ。
もうどうせなら髪のスプレーまで
取ってしまおうかと思ったが
流石にそれは危険だと踏み止まった。
「おかえり。大丈夫?」
家に着くと母さんが
パタパタと玄関まで迎えに来た。
「大丈夫……」と一言告げると
僕はお風呂場に行き、
頭のスプレーを全て洗い流した。
湯気に曇った鏡を手で拭うと
見慣れた銀髪が目に入った。
なんで僕だけこの色なのか……
母さんも父さんも燈利も
髪の色は至って普通だ。
だけど何故か僕だけが異様なこの髪色。
眼の色も異様だが、
この眼は父さん譲りの色で
少しだけ気に入っている。
鏡を見ていると少し自分が気持ち悪く思え、
急いで洗面所に移動した。
少しタオルで髪を乾かし、
リビングに入ると
母さんと志倉さんが
楽しそうにお茶を飲んでいた。
僕も席に座ると
温かい紅茶が入れられていた。
話は主に母さんの愚痴と
志倉さんの愚痴だったけれど、
とても平穏な時間がゆっくりと流れていた……