Episode②
「俺、Einのサイン会当たったんだー」
叶夢のその一言に僕は周りが
真っ暗になった気がした。
どうしてこうなったのか
マネージャーの志倉さんに連絡を取ろうと
携帯を取り出すがその手が震えて
まともに番号を押せない。
それでも何とか電話を掛けると
志倉さんは僕のただならぬ様子に気付いたのか
「迎えに行く」と一言告げ、電話を切った。
しかし僕はその間の時間に
耐えきれるか分からなかった。
【Ein】
彼を世に知らしめたのは
発行部数8千万部を超える人気雑誌
【三日月】という男性ファッション誌。
三日月という漢字に神秘さを持ち、
ミカギという読みに美しい鍵という意味を持つ
この雑誌は中性的な顔立ちを持つ男性のみを
モデルに使うという名の通りのイメージを
厳守し続け、10年発行し続けている。
そこに2年程前から登場し始めたのが【Ein】。
突然、登場したEinは
瞳の色といい、髪の色といい
全てにおいて現実味を帯びていなかった。
その容姿にクールなのにそれでいて
決まり過ぎない彼独自のファッションに
女性のファン以上に男性のファンに火がついた。
しかし彼は雑誌以外の
メディアには姿を表さなかった。
色んなテレビ局から企画を持ってこられるが
全て拒み、一度も出てきたことがない。
そんなEinが、今回サイン会をする。
世の中のEinファン達が事務所に殺到し、
「どうして?」「いきなりなんで……」
という喜びよりも疑問の方が多く寄せられた。
Ein特別サイン会への応募総数150万件。
のち、抽選者は250人と倍率がかなり低い
今回のサイン会にそのEinが当たって欲しくないと
一番願っていた人が当選してしまった。
それを知らずに教室に来ていた
Ein……永利はパニックになっていた。
何故、叶夢に当たってしまったのか……
何故、今回のサイン会を
引き受けてしまったのか……
考えれば考えるほど意味がわからなくなる……
なんで……どうして…………
「ハァ……ハァ…ハァ…
カハッ……ヒュ……ヒュ…………ハァ…」
過呼吸。
パニックになりやすいタイプだと
医者に昔から言われていた。
だけど過呼吸になるのが初めてで
よくわからないまま
呼吸が苦しくなっていく……
しかし教室中は叶夢が、
サイン会に当選したという話題で
大いに盛り上がっており
誰一人気付かなかった……
苦しい……
視界がぼやける……
辛い……
僕の意識はそこで途絶えた……