Episode①
「ねぇ、見た?
昨日のEin様!超格好良かったんだけど!」
教室に入ると
とある女子の声が耳に入ってきた。
Einの載っている雑誌が出ると
ほぼ毎回、そう叫んでいるが、
僕だとは気付いていないらしく
僕には話しかけてきたことはない。
というか僕は
この教室で一言も発したことがない。
別に話したくはないから
ありがたいのだが……
「ていうか、今日も来てるよ……」
先程までEin、Einと騒いでいた女子が
僕に気付き、コソコソとそう話しだした。
こうして無駄に
突っかかるのだけはやめて欲しい……
(一応、同一人物なんだけどな……)
と思いながらも
僕は聞こえないふりをする。
別にお前らに見て欲しい訳じゃないし……
正直、誰にどう思われようが
どうでもいいと思っている。
僕の人生において、
感化されているのは少しなんだから……
「おはよー!
何、Einの雑誌出てたの?」
そう言いながら気怠そうに
来たのは来生 叶夢。
僕をいじめる主犯格で、
Einの大ファンとして話をしている
メンバーの中心人物でもある人。
そして、僕の事を覚えていない……
【初恋の約束をした人】
だって僕は【永利】だから……
【燈利】じゃないから……
僕は、いらないんだって……
直接言われたときは堪えたけど……もう慣れた……
だって身代わりだったんだから
みんなからそう思われていたから
仕方ないって考えるようになったら
なんかどうでも良くなってきて、
哀しいけど聞き流していた。
さっきの女子がある事ないこと
騒ぎたてながら先ほどの出来事と
僕の事を叶夢に伝えていた。
ヘラヘラしていた叶夢の顔が
段々、歪んでいくのがその証拠。
きっとこの後は僕を殴りに来る……
ちゃんと【痛い】って思い込まないと……
「へー、てか聞いてよ!
俺、Einの初サイン会当たったんだ〜」
「えっ……」
思わず教科書を落としてしまった……
周りの人に邪険そうな顔をされたが
急いで全て拾って、
先程の話を脳内で必死にまとめようとした。
今回、初めて開催するEinのサイン会は
一週間後にとあるビルで行われる。
スポンサーさんに根気強く頼み込まれ、
断れなくなり、仕方なく了承した物だ。
まぁ、叶夢の事だから
もしかしたらとは思っていたけど、
本当に当たるとは思ってなかった……
これなら殴られた方がマシだった……
確実に何か起こるな……最悪……
僕のこの予想はこれまでに無いほど
最悪な方向に動いているなんて
まだ僕には知るよしもなかった……