プロローグ
「今日もか……」
知らぬ間に口から出ていた言葉……
周りから見たら異様で、
僕にとっての日常。
それは高校からの帰り道、
双子の兄である燈利に命令された
不良たちが僕を拉致する事。
いつも同じメンバーで
いつも同じ廃工場に拘束される。
抵抗すれば殴られる……
逆に抵抗しなくても
何かしら難癖付けられ殴られる……
そんな生活を高校に入った直後から
2年経った今でも変わらずに繰り広げられている。
おかげで痛覚が麻痺したのか
【痛み】を感じることがなくなった。
殴る方も殴られる方も
お互いに傷はできるし、
時間も無駄になる。
こんな不条理な事を毎日やっていて
よくも飽きないものだと
僕は彼らにとても感心している。
そう思う僕は
もう壊れているのかもしれないと最近思う。
壊れているのなら
それはそれで構わない。
僕には生きていても
喜んでくれる人などいない。
むしろ死んだ方が
喜ばれるかもしれない……
そんな自分の存在に嫌気が差す。
何故、産まれたのが燈利だけでなく
僕みたいな欠陥品まで産まれたのか……
今更、そんなことを悔やんでも
誰かが答えてくれるわけがない。
それなら少しでもこうして
殴られる事で人の役に立てるのなら
それはそれでいいのかもしれない……
「もういいや、俺ら帰る」
いつの間にか満足したのか
そう言い残して
不良たちは帰っていった。
いつもよりも軽度の痣に一息つくと、
スクールバックの中に入れっぱなしの
新型のスマホのライトが
カラフルに点滅していたことに気付いた。
急いでスマホを確認すると
メール150件、不在着信236件と表示され、
いつもよりも多い通知に少し驚き、
しばらくの間フリーズした……
1件ずつ確認しなくたって分かる……
いつもよりも説教が長いことを覚悟しながら
ストーカー並みの着信源へ謝りの電話を入れた。
廃工場から出ると電話の主、
マネージャーの須黒 志倉が
ものすごい血相で迎えに来ていた。
ヤバイなと心底思いながら
走って車に乗ると須黒は、
猛スピードで廃工場から車を出した。
「すみません、遅れました……」
「すみませんじゃねぇよ……
テメェ今日大事な仕事があるって言ったよな」
「はい……」
「分かってんならさっさと衣装に着替えろ
ったく、毎度、毎度遅刻って
仕事なくなっちまうぞ。このクソボケが……」
「それは困りますね……」
「なら今日もいい仕事しろよ」
「はい……」
「こっちはお前に期待してんだ。
女子中高生に人気のモデル、Einさんよ」
「嫌味ったらしいですね……」
「嫌味じゃねぇよ……
さぁ、着いたぜ、しっかり謝ってこいよ」
車から降りると撮影は既に始まっており、
各スタッフさんに謝りに行き、僕も撮影に入った。
今日のテーマは【彼女とのカフェデートコーデ】
色んな方向から光を当てられ、
沢山のカメラで写真を取られる。
この時だけがEinである僕が
蒼音 永利であるという事を忘れられる時。
Einである僕を見てくれている
あの人に今日も伝えるんだ。
【夢の燈りを永久に。】
言葉にしてはいけない僕の気持ちを
あなたに伝える唯一の手段……
この姿の僕が好きなら
いくらでもこの姿になろう……
シンデレラの様な夢の時を
少しでも僕に与えてくれるのなら
それでいいんだ……