1:製品版スタート!
目を開けると、近未来的な空間が視界を埋め尽くした。
先日βテストを終えたばかりのVRMMORPG【another tales online】、通称【ATO】はVRMMOとしては後発組ではあるがベーシックな作り・価格の安さと搭載AIエンジンのバランスの良さで話題になっている。
俺は残念ながらβテスト選考に漏れた。
友人のハルがβテストに受かったと聞いたときは隣でウキウキしているテンションの高いあいつを見ているのが嫌になったものだ。
が、本サービス開始時にはお金を出せば誰でもパッケージを購入することができるので発売当日の今日、朝4時から並んでギリギリ手に入れた俺は、家に帰るや否やさっそくログインしたわけである。
《 Another tales online の世界へようこそ》
《キャラクターの設定フェーズへ移行します》
《プレイヤーネームを入力してください》
無機質な近未来的空間のちょうど真ん中あたりに、ふわふわした光が現れたと思ったら唐突にそう告げた。
恐らくあれが公式サイトに載っていた『妖精ナビちゃん(最初の設定画面以外、ゲーム内で会うことはない1回ぽっきりのキャラクターらしい)』なのだろう。
一部には人気だというが、実際はただの光の球体だ。
少し悩んだ後、案内に従い「プレイヤーネーム:ヘイ」と入力。
別に本名からもじったからと言って、考えるのがめんどくさかったわけではない。決してわけではない。
次の案内へ進む。
《プレイヤーネームの入力を確認しました》
《入力されたプレイヤーネームが重複していないか確認します》
《……入力されたプレイヤーネームはそのままご使用頂けます》
《続いて、身体登録スキャンを行います》
《……身体登録スキャンを完了しました》
《作成するキャラクターの身体特徴を調整してください》
一応このATOも他のVRMMOの御多分に漏れず、クリエイトするキャラクターとの大きな身体特徴の変化は出来ないように、事前にスキャンされる仕組みだ。
ゲーム内だけ高身長・ゲーム内だけスリムなんてのは五感をフル活用するVRにおいては危険だ、と言われている。現実世界とゲーム内の身体的特徴差が激しいと、日常生活に支障が出る可能性があるかららしい。
パッケージによって異なるがキャラクターに多少の変化は付け加えられるものの大幅にはダメだよ、ということだな。
とりあえず俺は耳・髪・瞳の色をいじる。
耳は少し尖らせて…髪はオレンジっぽい色にして…瞳は緑かな…?
よし、なんとなく満足したので良しとしよう。
………あ、手が滑って身長を5cmだけ伸ばしてしまった。
あ、そのまま設定完了押してしまった、うんまぁしょうがないミスだなミス。
こんな俺を誰が責められようか。
《身体特徴調整完了を確認しました》
《続いて、キャラクターのジョブ設定フェーズへ移行します》
きた。
これがこのゲームの最大の特徴にして、面白い部分。
通常ゲームでのジョブ設定というのは、「固定式」「選択式」のどちらかに分かれる。
前者はいわゆる「勇者」になって戦うもの等が含まれ、途中で転職等もできないもの。こちらはおそらく現在のオンラインゲームではほとんど無いだろう。
後者は候補の中から初期職を選び、プレイ途中で条件を満たせば転職等が出来るもの。オンラインゲームのほとんどがこの形態だ。
人気が出るのは恐らく「飽きない」のが一番の理由だろう。
そしてAnother tales onlineでは、どちらとも言えないがどちらとも取れる方法を取っている。
β版時代の公式サイトでは【貴方の中に眠る適性をナビちゃんが見つけます】と書いてあったのだが、以下の方法である。
①ジョブを選ぶ前にナビちゃんから出題される30の質問を答える。
②回答終了後、ナビちゃんから3~5択のジョブが提示されるので、好きなものを選ぶ。
これだけである。攻略サイトなどにも質問内容やその結果の職業が相次いで報告された。が、見事なまでに統一性が無く質問数は膨大な量だと噂された。
しかも厄介なことに、【リセットマラソン】が出来なかったそうだ。
リセットマラソンとは、お気に入りの物ができるまでセーブ&ロードを繰り返す・ソフトのインストール&アンインストールを繰り返すなどの作業である。
だが、このATOはリセットマラソンを行うと質問内容は変わるが提示されるジョブの種類は変わらないことが先人たちの努力でわかった。
正式な事は発表されていないが身体的特徴をスキャンした際に脳波パターンを解析されているとプレイヤー間でまことしやかに囁かれ、レア職狙いのゲーマーは最初の選択肢に出てこなかった時点で諦めたという。
俺としてはまるでナビちゃんが本当に才能を見抜いているようで、ちょっと楽しみだったりする。
というわけで、質問スタート。
《ジョブ適性を計るため、いくつか質問をさせて頂きます。お答えください》
《1番:貴方は神を信じますか?》《いいえ》
《2番:あなたは花粉症ですか?》《はい》
《3番:読みを答えなさい【high】》《はい》
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《17番:中二病はとっくに卒業したぜ…フッ》《はい》
《18番:愛したいより愛されたい》《いいえ》
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《24番:あなたは/好きですか?》《いいえ》
《25番:億万長者に、俺/私はなる!!》《いいえ》
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《29番:「液状のり」より「固形のり」の方が好き》《はい》
およそどうでもいいだろう質問はもはや聞いていない。
噂が本当なら、どの質問にどう答えようと決まっているのだから適当に流していく。
これで最後の質問だ。
《30番:信号機は赤より青の方が渡りやすい》《いいえ》
よし。30問終了だ。
これでナビちゃんより選択できる職業の提示がされるはずだ。わくわく。
《30の質疑応答を確認しました》
《これより、職御kij※大◎ИШ》
…ん?なにこれ怖い。
突然耳心地の良い音声ガイダンスが機械音のようなものに変わり何を発信しているのかわからない。
それどころかこの何とも言えない音程というか、とても不快なノイズだ。
初回パッケージだからまだバグでも残ってるのか?ログアウトしたら運営会社に報告だな。なんて考えていたら、
《*Σ∬♭ェ・ⅸぅがル…31番:この質問が見えています?》
また耳障りな音声の後に…31番目の質問?なんだこれは。
…。
少し待ってみたが、ナビちゃんはそれ以上音声を発さない。どうやら間違いなく質問の様だ。
ハルに聞いた話を思い出す。あいつは『最後の30個目が終わったら光にパーッと包まれて、なんか気持ちよくなる!』と言ってたから、間違いなく30問で全ての筈だ。
…製品版になって、質問が追加されたのかな。とりあえず《はい》と入力してみる。
《32番:このゲームは初めてですか?》
当然今日発売のゲームなのだから初めてなのだが…そうか!
質問の内容を見るに、β版をやったことがあるかどうかを確認しているのだろう。この時点で聞くということはやはり、31問目からの質問は製品版から追加なのだろう。
ここは正直に《いいえ》と答えておこうか。
《質疑応答ノ終了を確にン》
《loading,,,loading,,,》
《システムの正常化を確認。あなたの才能はこの中にあります!》
途中少しおかしかったが、ようやく職業選択できるようだ。俺の身体が徐々に光に包まれていき、眩しさで目を閉じる。次に目を開けたら、目の前には職業候補ウィンドウが表示されていた。
さてさて、俺の候補は………
初めてVRモノを書かせてもらいます。
宜しくお願いします。