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第一一話 衝撃のラスト

「ビッグラットを駆除すればいいんですよね?」

「はい、倉庫の地下室に棲みつかれてしまいまして……」


 新緑亭が倉庫としている建物に入りながら、俺は主人に依頼内容の再確認をしていた。


「それにしても、ヴァルト様が引き受けてくださるとは」

「いつもお世話になってますから」


 グラディスの街に入ってから数日経っているが、その間俺はずっと新緑亭に泊まっている。ここのシックで落ち着いた雰囲気が気に入っているし、主人とその奥さんも優しくていろいろと本当に世話になっている。

 その新緑亭が鼠どもに荒らされていると冒険者ギルドに貼り出された依頼で知り、早速引き受けて鼠退治にやってきたというわけだ。


「あ、またここに穴がありますね……」


 ランプの薄明かりで照らされた地下室の一角、分厚い木の壁が喰い破られて穴が開いてしまっている場所がある。ここから出入りして、地下室に仕舞ってある物を荒らしているようだ。


「地下室の周りに巣穴を掘ってしまったようで、壁の穴を塞いでもすぐに別の場所を破られてしまい、根本的に解決するにはビッグラットを駆除して巣穴を埋めるしかないのです」


 主人は心底困っている様子で、首を振りながら俺に説明をした。


 ビッグラットは、前世でいうところのドブネズミみたいなやつだ。体の大きさはドブネズミの倍以上だが、幸いにもドブネズミほどの繁殖力はないらしい。

 しかし、とにかく強靭な前歯でなんでもかじって食ってしまう。確かドブネズミもコンクリートに穴を開けられるくらい強かったので、倍以上の大きさのビッグラットなら推して知るべしというところだろう。

 一応そうは言ってもただでかいだけの鼠の魔物ではあるので、このビッグラットの駆除はFランクとなっている。


「あの、火や水を使うのだけはやめてください。倉庫の品物に被害が出るので……」


 実は俺がこの依頼に気づく前に何度かビッグラットの駆除を試みた冒険者がいるのだが、そいつらは危険を察知するとあっという間に巣穴に逃げ込んで出て来ないビッグラットに業を煮やし、火攻め水攻めで巣穴からいぶり出そうとしたらしい。

 それらは確かに有効ではあるが、そんな乱暴な方法を使われては困ると主人に阻止され、結局ビッグラットの駆除には失敗してしまったようだが。


「わかっています、そんな方法は使いません」

「では、どうやって駆除をされるのですか?」


 木属性の魔法を使うところを見られるのはちょっと嫌だが、どの道これから冒険者を続けていけば絶対に露見することだし、ここの主人はまだ信頼できる方だからいいか。

 そもそもここに来る途中で、あのイルゼや商人には見られてしまっているわけだし、今更気にし過ぎても仕方ない。低ランクのうちに珍しい魔法を使えると知られても、あんまりいいことなさそうだけど。


「ちょっと変わった魔法でやります。絶対に安全なので、見ていてください。すぐに済みますから」


 主人を俺の後ろに下がらせると、ゴブリンの動きを封じるのにも使ったあの魔法を発動させる。


「グラスバインド」


 巣穴の中、剥き出しの地面から草が生え、それが奥へと伸びていく。もちろん俺からは巣穴の中の様子は見えていないが、魔法で生みだした俺の草から伝えられる感覚に間違いはない。


「キッ!?」


 巣穴に潜んでいた数匹のビッグラットは、迫り来る草の群れに驚いて逃げまどうが、あっという間に追い詰められる。巣穴の奥に追い詰められたビッグラットは、最後のあがきとばかりに草に噛みついて来るが、そんなことをしている間に他の草に全身を絡め取られて動けなくなっていく。


「こ、これはすごい」


 草で拘束されたビッグラットが巣穴から次々と引きずり出されていくのを見た主人はびっくりしている。


「これで全部みたいですね」


 合計で六匹いたビッグラットは、草に体を縛られ自慢の前歯も口を草で抑え込まれているために使えず、倉庫の床の上に転がされている。

 六匹の中にはまだ子供と思われるやつもいたので、繁殖しつつあったらしい。ネズミ算式に増えて手がつけられなくなる前に俺が駆除できてよかった。


「一体何の魔法を使われたのですか?」

「精霊魔法ですが、ちょっとした事情があるので自分がこの魔法を使ったことはあまり口外しないでほしいです」


 さすがというべきか、主人は大変に物わかりがよく、とりあえずはそれで納得してくれた。

 一応イルゼとあの商人にも同じことは言っておいたが、イルゼはともかく商人の方は不安だ。あの商人が信頼を大事にするまっとうな人間であったことを祈っておこう。


「あ、このビッグラットはどうしましょう?」

「それでしたら、こちらに入れてください」


 主人が倉庫の中に置いていたらしい鉄製の小さな檻を持って来た。ビッグラットは煉瓦もかじるらしいが、さすがに鋼鉄製なら大丈夫か? ここに入れろと言っているから、心配しなくてもいいか。

 俺は草を操って檻の中に六匹のビッグラットを放り込んだ。


「この後はどうするんですか?」

「専門の業者に渡して、そちらで処理してもらいます」


 うーん、どういう業者だろう。ひょっとして、食べるのかな?

 俺の無駄知識データベースによれば、鼠の肉は意外とうまいらしいし。昔は貴重なタンパク源のひとつで、鼠肉の缶詰なんてものもあったらしいから、このビッグラットが食えても不思議ではないが……衛生的にいまいちな先入観があるから、俺は食べたくないな。ここには触れないでおこう。


「あ、巣穴を埋め戻してもいいですか?」

「それはありがたいですが、そこまでしてくれるのですか?」

「はい、すぐに終わりますよ」


 俺は屈んで主人からは見えないようにインベントリから出した布袋を穴の前に置いた。布袋には、近くの空き地で集めておいた土がたっぷりと入っている。

 草では土を押すには力不足だったので今度は蔦を巣穴の中に生やすと、それを使って布袋の中の土を巣穴に押し込んでいき、それで埋め戻した。

 壁に穴は開いたままだが、さすがにこれまで俺の力を使って直すのはやり過ぎだろうから、巣穴を埋めるだけにとどめておく。


「大体ですが、巣穴は埋め戻しておきましたので」

「あらかじめ土まで用意してくださって、ありがとうございます。さぞ重かったでしょうに」

「俺は竜人なので結構力持ちなんです、だからこれくらい平気ですよ」


 土を詰めた布袋は、俺がマントの下でうまく吊るか背負うかして運んで来たと主人は思ったようだ。

 このちょっと裾が長くて大きいマントは、インベントリから出した物を誤魔化すには実に都合がいい。


「本当に助かりました、これをどうぞ」


 依頼用紙に達成したことを認めるサインを書いて、主人が俺に差し出した。


「いえ、まだこちらではお世話になるので、これからもよろしくお願いします」


 俺はそう言って依頼用紙の控えを受け取ると、後は主人に任せて地下室から出た。そのまま通りに出て、早速依頼達成の報告をするために冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドに入っても、もう初日のようにじろじろ見られることはなくなっていた。というか、たまに向けられる視線には見下すようなものが混じっている。どうも俺は雑魚竜人だと思われているらしい。

 俺がここ数日で受けた依頼のすべてが街中での雑用か採取系だったのが原因のようだ。俺の木属性の魔法を応用すれば達成できるわけあり依頼を狙い撃ちにしていった結果なのだが、街の外に出て討伐系依頼を受けようとしなかったせいで、腕に自信のない腰抜け扱いされてしまったのだ。


 まあ、確かに俺は目立つことを避けて魔法を使えることは隠しているし、容姿などは竜の角を除けば至って平凡で立派な鎧を着ているわけでもないし、剣や槍で武装しているわけでもない。

 ぶっちゃけそこらの軽装の旅人と変わらないわけで、ふらっと街に来た竜人の旅人がちょっとした小遣い稼ぎをしているだけだと思われても仕方ない部分がある。

 目立つのを避けた結果ではあるが、何事も程度問題で舐められていては余計な面倒事が来そうだから、ランクアップしたら討伐系の依頼を積極的に受けて誤解を解いておかないといけないな。


 竜人というだけでそれなりの牽制になると思っていたのだが、よく考えてみれば竜人といっても引いている血が亜竜だったり、真正の竜の血を引いていたとしても血が薄過ぎてあんまり強くない竜人だっている。

 俺はそういった弱小竜人だと思われてしまったようだ。目立ちたくないからといってやり過ぎた。早くランクアップしないとな。


 以上の俺に関する風評は、休憩中に雑談したエリアルから聞きだしたものだ。

 相変わらずスカスカのカウンターを見ていると気の毒になってしまって、初日以降も出来る限りエリアルのところで依頼を受けるようにしていたら、なんとなく雑談を交わすほどの仲になっていたのだ。


 そのエリアルは今日は休みらしく朝からいなかったので、新緑亭のビッグラットの駆除依頼はごく普通の男性職員から引き受けていた。

 朝と同じ職員に報告しに行こうかと思ったが、カウンターにはいない。休憩中か何かで席を外しているようだ。


「ヴァルト様、よろしければこちらへどうぞ」


 どこか空いているカウンターがないかと探していたら不意にそう呼びかけられて、声の主を見た俺は驚いた。相手は、冒険者ギルドのグラディス支部で一番の美人受付嬢だったからだ。


 長い金髪を後ろで束ね、深い青色の瞳がきれいな女性だった。さらに補足すると、ギルドの受付嬢の制服をぴしっという効果音が聞こえてきそうな感じで着ていて、知的な雰囲気が漂う大人の女性である。しかし、制服の胸の部分がすごい感じに盛り上がっているところが、実に目に毒だ。


「あ、はい」


 なんでこんな弱っちい底辺竜人を俺達のマドンナが呼んでやがるんだ? という他の男性冒険者達の視線が背中に突き刺さるのを感じながら、俺は彼女のカウンターのところに行った。


「お話しするのはこれが初めてですね。私はエリアルの姉のアイリーンといいます」

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