余生闇精霊批判される
あのー、私、なんで
怒られなきゃいけないんでしょうか?
「恥ずかしく無いのか!シグルト王太子殿下のお情けをいただいてるのに、他の者にも心奪われるなど。」
お年寄りの男性が言った。
お年寄りは思い込むと訂正大変なんだよね。
今日は、シグさんの方の仕事で書類を届けに行って帰りです。
シグさんは離したくなさそうだったけど
仕事はきちんとね。
「女キツネがシグルト王太子殿下を身体で惑わしたのだろう!」
お年寄りはしつこく言った。
「お祖父様、やめてください。」
孫らしいご令嬢が止めてくれたけど
「黙ってろ!ワシはこの女キツネにガツンといってやるんだ!」
とお年寄りは腕を振り回して怒鳴ってバランス崩して転んだ。
あーあ、大丈夫?
う、動けない?
「お祖父様?お祖父様!」
ご令嬢が言った。
やっぱり動けないらしい。
「見せてください!」
私は駆け寄った。
骨折?打撲?血圧?
バイタル符はさすがに持ち歩いてないや。
「女キツネ…さわるでない。」
お年寄りは弱々しく言った。
痛そうだから、骨折か打撲かも?
「お医者様を呼んでください。」
私はご令嬢に言った。
「は、はい。」
ご令嬢は駆けていった。
クレシア人は基本的に動きやすい格好してるから良いよね。
「恩を…売ってもわしの考えは変わらんぞ。」
お年寄りは言った。
「うーん、どうしますかね?」
持ち上げる術もあるけど…。
骨折なら固定してから動かしたいし。
「害されても、わしは変わらん。」
お年寄りは言った。
ああ、話が通じない。
さすがお年寄りだよ。
「まあ、人力で行きますかね。」
私は警護士さんでも呼んでこようと思った。
「なぜ…わしを…助ける…。」
お年寄りが言った。
「本業が看護師なので。」
まあ、ここしばらくは個別機能訓練師してましたけどね。
「看護師?娼婦ではないのか?」
お年寄りは言った。
思い込みって恐ろしいね。
娼婦ってなにさ。
おばちゃん、そんな色気ないよ。
「大変良い判断です。」
医者が言った。
やっぱり、骨折してたみたいだ。
転倒リスクがある人だったのかな?
「下手に動かしていたら骨がずれていました、オルティアス様、いいかたに当たられましたね。」
医者がお年寄りに言った。
「…ふん、まぐれじゃ。」
お年寄りは拗ねたことを言った。
まあ、そうだろうね。
今まで、長い間、働いてきた人だけに
プライドがあるだろうし。
「お祖父様、ちか様に謝ってください、ちか様、祖父がご無礼をいったのに、助けていただいてありがとうございます。」
孫のご令嬢が丁寧にクレシアの礼をしてくれた。
「…ふん、まあ、世話になった。」
お年寄りは言った。
素直じゃないのがお年寄りのプライドだろうね。
「お祖父様!」
ご令嬢が言った。
「まあ、いいんですよ、お大事に。」
私はそういって病室を出た。
手術が終わったら、リハビリ大変なんだろうね。
と思いながら。
「ちか様、申し訳ございません、祖父を助けていただいて、本当にありがとうございました。」
ご令嬢がついてきて言った。
「いいんですよ。」
私は微笑んだ。
いちいち、お年寄りの言うことに目くじらたててられないし。
「私、シャルリーヌ・オルティアスです、オルティアス領のものです。」
令嬢、シャルリーヌさんが言った。
「そうですか、まあ、気にしてないので、お大事にしてください。」
私は言った。
「ちかは気にしなくても、私は気にする。」
シグさんの声がして後ろから抱き締められた。
「シグルト王太子殿下。」
シャルリーヌさんがクレシアの礼をした。
「オルティアス老は災難だったかもしれないが、ちかはいわれのない批判を受けた。」
シグさんが言った。
極寒王子かい?冷たいよ。
「シグさん、いいんだよ、別に。」
私は言った。
「ちかは優しすぎる。」
シグさんが言った。
「どうかお許しください、祖父は噂を本気にしてしまい、王家への忠誠心で…。」
シャルリーヌさんが言った。
「あなたはどう考えてる?」
シグさんが言った。
「私は、そのようなことは…。」
シャルリーヌは震えだした。
ああ、もうこの、氷点下王子!
怯えさせてゃダメだよ。
「私は気にしてません、シグさんも威嚇しないで!」
私を抱き締めてるシグさんの手を撫でた。
「ちか。」
シグさんが抱き込んだ。
「仕事あるんだから帰ろう?」
私は言った。
「ちか、しかしオルティアス老は。」
シグさんが言った。
「シグさんが冷静でお見舞いしたい時に来ればいいよ。」
私は言った。
絶対冷静じゃないもんね。
「シャルリーヌ嬢、今後このようなことがないようにしてもらいたい。」
シグさんは言って私をついに抱き上げた。
「歩けるよ。」
私は言った。
「ちか様ありがとうございました。」
シャルリーヌさんの声が聞こえたけど。
熱湯王子が口づけてくださったので
振り向けないよ。
まったく、誰が私の噂なんか
流してるんだろうね。
言うに事欠いて娼婦?
おばちゃんが娼婦なら
シグさんが女装した方が
よっぽど儲かるよ。
おばちゃん、余生だったし色気ないもん。




