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白のキャンバス  作者: 夢原ノゾム
フォルティナ学園編
9/9

『白』、編入試験を受ける


鳥取大学入試明けで、全くやる気になれずに、だらだらと……。


もし、待っていてくださった方がいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。




 レンが、スルトと出会って二年が過ぎた。


 あの日から、レンは、エレナに勉強を教わり始め、今ではそれなりに頭がよくなっている。


 歴史・地理・美術の三教科に関しては、素晴らしいの一言に尽きる。


 だが、数学・理科の二つは、壊滅的と言う単語以外に、相応しい言葉は無いだろう。


 それほどまでに、彼は理系に興味を示さなかった。


「忘れ物は無い? 今日は実技試験だからあまり心配してないけど、いい成績を取らないと落ちちゃうわよ?」


 エレナが、靴ヒモを結ぶのに苦戦しているレンに、心配そうな表情で言う。


「大丈夫だよ。要は最後まで立ってればいいんでしょ? 簡単だよ」


 靴ヒモを結ぶのに悪戦苦闘しながら、レンは答える。


「ま、平たく言えばそういうことね。手加減しなきゃダメよ?」


 レンは、この二年で、頭脳と背丈以外に、魔法関連でも成長している。


 今では、Sランクハンターと言っても過言で無いほどの実力を持っているのだ。


「分かってるって。んじゃ、行ってきます!」


 漸く、靴ヒモを結び終えたレンが、眩しい笑顔を浮かべ、玄関から飛び出していった。


「うふふ。いってらっしゃい」


 そんな息子の後ろ姿を、エレナは微笑ましそうに見送っていた。





◆◆◆◆◆◆





「今年は一段と多いわね……」


 試験会場である『フォルティナ学園・第一グラウンド』を、理事長室の椅子に座りながら眺めるファルメス。


 今年の倍率は驚愕の七百倍超え。定員三名に対して、グラウンドには二千人を超える子供たちが集まっている。


 トラック一周が約二キロの第一グラウンドも、人で埋め尽くされていた。


「ま、レン君なら問題はないでしょ。…………実技に関しては」


 レンの理系の出来を知っているファルメスは、間を置いて、そう付け加えた。


「でも、二年前のあの可愛かったレン君が、今ではもう、立派な男の子だものねぇ。本当に、成長を見てて楽しいわ」


 うふふ……と小さく笑うファルメス。


 恐らく、彼女の中のレンの位置づけは、未だに『手の掛かる可愛い弟』程度の物だろう。


 だが、それ以外にも少しだけ違う感情が芽生えていることに、ファルメスは気が付いていた。


 それが恋心なのか、それとも別の感情なのか、それは彼女自身も分かっていない。


「そんなに焦る事でもないし、レン君がもっと大きくなるまでに、答えを出せばいいわよね」


 窓の外で、いつものようにニコニコしているレンを見ながら、ファルメスは小さく呟いた。





◆◆◆◆◆◆





(ほぇ~。いろんな色の人が居るんだね~)


 あたりをキョロキョロ見渡して、そんな事を思っているレン。



「アレが『色使い』レンか……」


「えぇ!? 九歳でフレアレオンを倒したっていうあの!?」


「しかも審判魔法で倒したんだろ? 俺たちとは格が違うな」



 彼を遠巻きに見ている者達が、コソコソと話している。


 『色使い』と言うのは、この二年で付いた、レンの通り名だ。


 色彩魔法によって、様々な色を使いこなすその姿から、いつの間にか付いていた物だ。


 レン本人は、この名前を気に入ってはいない。


 曰く「色は友達、使い魔じゃないよ!」だそうだ。


「うにゅにゅ……あの人の色はなんて言うんだろう?」


 レンが、赤に近いピンクの髪を持つ少年に視線を向けていると、その少年が、ふとこちらを見た。


 彼は、不思議そうな顔をして、レンに近づいてくる。


「俺の顔に何か付いてるか?」


 レンの元に到着した少年は、在り来たりな質問をした。


「ん~……目とかが付いてるよ?」


 その受け答えに、少年はキョトンとした後、軽く吹き出し、笑い出した。


「くははっ。そりゃそうだ。じゃあ質問を変えよう……なんで俺を見てたんだ?」


 少年は、目尻にうっすらと浮かんだ涙を拭いながら言う。


「えっとね。その赤色ってなんていう色なの? ピンクでもないよね?」


「これか? これはな、『薔薇色』って言うんだ。綺麗な色だろう?」


「うんっ! ねねね、触ってもいい?」


「ん? あぁ、勿論だとも。ほら」


 レンより、少し背の高い少年は、レンが触りやすいように、少し屈む。


「わぁ! ありがとっ! ほぇ~……赤と白かぁ……赤の分量が多いんだね。案外、熱血系?」


「いや、元々純色の赤だった物に白が混ざっちまったんだ。珍しい事じゃないだろう?」


 混色には、大まかに分けて、二つの種類がある。


 一つは、アンナのように、生まれたときから混色の魔力を持つ者。


 もう一つは、生まれてから五年以内に、衝撃的な出来事を体験して、心の色が変わってしまって者。


 この少年に、白が混ざったという事は、生後五年以内に、白に由来する出来事があったのだろう。


 白は、純粋、無垢を表すと同時に、孤独などの負の感情も表す。


「そうなんだ~……あ、ファルお姉ちゃんだ」


 レンの言葉に、少年が振り向く。


 そこに居た人物を見て、目を見開いた。


「フ、ファルお姉ちゃんって……王女様じゃないか!? 何でそんなにフランクに……」


「昔、ちょっとねぇ~」


 そういいながら、笑顔でファルメスに向かって手を振るレン。


 それに気が付いたファルメスが、微笑みながら、手を振り返す。


「……みんな並んでるな。俺たちも並ぼう」


「うんっ! さぁ~、やるぞぉ~!!」


 気合十分のレン。


 果たして、無事合格できるのだろうか?













「御機嫌よう、皆さん。今から、実技試験の内容について説明します」


 ファルメスが、台の上に乗り、マイクを通じて言う。


 その凛とした声に、うっとりとする者がチラホラいる。


「試験内容は、一対一の真剣勝負です……例年通りなら」


 ニヤリ、と、綺麗な微笑を浮かべるファルメス。


「今年は、豊作です。『薔薇色の騎士』ガルーダに『蒼の拳闘士』アイシャ。そして、『色使い』レン」


 薔薇色、と言う単語を聞いて、レンは横に居る少年を見る。


「ん? あぁ、自己紹介してなかったな。俺はガルーダ=グラスバレー。よろしくな、『色使い』君」


「あ、うん。よろしくね、ガルーダ君」


 素っ気無い対応に、ズルッと滑るガルーダ。


(そ、それだけかよ……。もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないか?)


 トホホ……と内心で、少し項垂れるガルーダ。


 そんな二人の様子を見ていたファルメスは、微笑ましそうな笑みを浮かべながら、言葉を続けた。


「彼らが居る中で、一対一では少々分が悪い。そう思いまして、今年は、チームを作ってバトルロワイヤル形式で行います。


会場は、学園が所有する森、チームの上限人数は二十五人です。さぁ、チームを作ってください」


 ファルメスの言葉の後、受験者達は、動き出した。


 男性受験者は、レン達とは反対方向に居たアイシャという少女のもとへ、女性受験者は、レンとガルーダのもとへ、それぞれ殺到した。


「レン君! 一緒に組もっ!」


「ガルーダ君! 私と一緒に学園へ通おうよ!」


 他にもゾロゾロと合計で千人は居るだろうか。


 言葉は、穏便である。だが、その目には明らかな下心があった。


 可愛らしい顔つきのレン。一流のモデルも裸足で逃げ出すほどのイケメンであるガルーダ。


 この二人に、何とか気に入られようと、躍起になっている。


「ひゃうっ!? こ、怖いっ!!」


 人の心の機微に鋭いレンは、彼女達の目を見て、怖がり、ついうっかり魔法を出してしまった。


「「「「「キャアァァァァァァア!?」」」」」


 上位の電撃魔法『紫電の波動(ボルテック・ウェーブ)』。


 ちゃんと手加減をすれば、上位といえど、軽く痺れる程度の魔法なのだ。


 だが、今回に限り、レンはついうっかり(・・・・・・)出してしまった。


 当然、そこに手加減をする余裕などある筈も無く……


「あ、あはははは……やっちまったな、レン君……」


 周りに居た女子達は、プスプスと、服から煙を上げながら、気絶してしまった。


「ど、どどどどど如何しよう!? 失格!? 僕、失格になっちゃうの!?」


 ガルーダが無事な事に、少しの疑問も抱かずに、レンはオロオロと慌てふためく。良く見ると、若干涙目だ。


「うふふ……盛大にやったわね、レン君?」


 ファルメスが、護衛を引き連れながら、レンに近づいてくる。


「お、王女様!」


 ガルーダは、礼儀正しく、膝をつく。


「ファルお姉ちゃん! ねぇ、どうなるの!?」


 ファルメスに飛びつきながら、遂に涙を流してしまうレン。


 それを見て、声にならない悲鳴を上げるガルーダ。


「あらあら、泣かないの。この程度で、失格になったりしないわ。安心して」


 だが、それを気にも留めないで、レンをなだめるファルメス。


 その姿を見て、この人は本当に王女様なのか? と、疑ってしまうガルーダ。


「グズッ……ほ、ほんとぉ……?」


 涙目で見上げるレン。その破壊力は、ファルメスを揺さぶるには、充分すぎる物だった。


「え、えぇ。本当よ。それに……ほら、あっちでもやってるわ」


 頬を桜色に染めながら、ファルメスはアイシャの居る方を指差す。


 それにつられる様にして、レンとガルーダはアイシャの方を見る。


「なっ……!」


「わぁ~……山ができてるよ? すっご~い」


 そこには、男性受験者で、大きな山が出来ていた。


 積み上がった人たちは、ピクピクと痙攣するだけで、一向に目を覚ます様子がない。


「彼女は、全員のしちゃったみたいね。こっちの子達も、動ける子は居ないだろうし……残ってるのって三人かしら?」


 確かに、グラウンドに、自分の足で立っている受験者は、レンとガルーダとアイシャの三名だけだ。


「う~ん……でも、これじゃあ理不尽よね……よし! 定員を増やしましょう! あと二十人くらい!」


 ファルメスの爆弾発言に、後ろに居た眼鏡の男性が抗議の声を上げる。


「王女様!? その様な勝手な事は……学園の伝統が!」


「古臭い仕来りに固執するだけではなく、新しいモノを取り入れる――そう言って、この編入試験を考案したのは爺、貴方でしょう?」


「むぅ……一クラス増やすおつもりで?」


「えぇ、編入生だけのクラス、と言うのも面白そうじゃない? きっとより良い競争意識が芽生えるわ」


「……分かりました。王女様の意思に従いましょう」


 爺と呼ばれた男性は、渋々といった表情で、引き下がった。


「じゃあ、君達三人は合格よ。今日はお疲れ様」


「本当!? やったぁ!!」


「……え? え~っと……え?」


 喜ぶレンと、この状況を飲み込めていないガルーダ。
















「あ。合格といっても、実技だけだからね? 筆記でとんでもない点数を取らないように」


「はうっ!? わ、忘れてたぁ……」


 さっきまでの笑顔は一転、ファルメスの言葉で泣き顔になってしまった。






編入試験とは名ばかりの、とんでもなく適当なものになってしまった……(汗)


感想、待ってます。


『自称メンタル強め』ですので、どんどん評価してやってください。




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