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白のキャンバス  作者: 夢原ノゾム
少年編
8/9

『白』、龍と出会う

 今回で少年編は一応、終わりの予定です



 王達の会合があった日から、二ヶ月ほど経った。


 あの日以来、“PALETTE”はレンを襲ってきていない。


 国王が警備を強化したから、当然といえば当然である。


 そして、レンを襲撃してきたあの男は、黙秘を続け、今は牢獄に入れられている。


 そんな世界の情勢など、あの少年が知るはずもなく


「うぇ~い!! アンナー! 早くぅ~!」


「ちょ……ちょっと待ってぇ~……速すぎるってばぁ~……」


 何時ものように依頼を受け、街から数キロ離れた森に来ていた。


 今は、長期休暇中なので、全寮制のフォルティナ学園に通っているアンナも家に居た。


 彼女自身もEランクハンターなので、レンと一緒に依頼を受けているのだ。


「ね、ねぇレン……。本当に、こっちで合ってるの……?」


 漸く追いついたアンナが、息を切らしながらレンに聞く。


「うん! 多分ね!!」


「多分!? 勘でこっちに来たって事!?」


 レンの能天気さを、久しぶりに体験したアンナは、勢い良くツッコミを入れる。


 彼女が息を切らしているのは、ココに来るまでの過程で、ツッコミすぎたというのもある。


「はぁ……そういえば、レンってず~っとこんな調子だったっけ? 忘れてたよ……。……あれ? レン?」


 ふと、レンの足が止まっているのに気が付くアンナ。


 レンのほうを見ると、遠くにある古ぼけた洋館を、厳しい目で見つめていた。


 あそこに一体何があるのだろうか?


 そう思うアンナだったが、次の瞬間には別の事で頭がいっぱいになっていた。


「な、何で!? 何でこんな所に龍がいるの!?」


 ズシン、ズシンと重い物が動く音がした。


 アンナが音源を捜していると、洋館とは逆方向から、赤黒い鱗を持った巨大な龍が、こちらに向かって歩いてきていたのだ。


 彼女達の後ろには、街がある。


 このままでは、街が無くなってしまうかも知れない。


 だが、龍種は自分達だけでどうにかできる相手ではない。相手をすれば、必ず死んでしまうだろう。


「レン!! 何ボーっとしてるの!? 逃げるよ!!」


 だから、アンナは逃げようとして、レンの腕を引っ張るのだが、レンはビクともしなかった。


「レン!? 龍が来てるんだよ!? 逃げないと!!」


「……? ふぇ!? 龍!? 龍だよ、アンナ! あははっ! すっごーい!!」


 漸く正気に戻ったレンは、龍を見て大はしゃぎする。……いや、戻っていないかもしれない。


「喜んでる場合じゃないよ!? 逃げなきゃ!!」


「はっ!? そ、そうだね!! おーい、龍さーん! 街に行っても何も無いよー!」


「何呼んじゃってるの!? ほら、こっち見てるじゃん! 口から炎が漏れてるよ!? 私達を丸焼きにする気だよ!?」


 龍に恐怖しながらも、アンナは突っ込むのを止めない。


 この状況で、レンを置いて逃げるという選択を取らないのは彼女の優しさだろう。


「うん。こっちに注意が向いた今なら……」


 ゴソゴソと、レンが懐を漁って取り出したのは、あまりにも毒々しい色をした、紫色の煙草。


 レンはそれを口に咥え、火をつけた。


「レン!? そんな毒々しい物を吸っちゃダメだよ!! それ以前に、何で煙草を持ってるのさ!?」


「すぅ~……はぁ~……。これは僕の魔力の塊だよ。相手の脳に直接効く魔法だから、煙にするのが一番でしょ?」


 霧ぐらいの大きさの魔力球を作るのは大変だからね~、とレンが言う。


 吸引する理由は、燃やす際に混ざった『赤』の魔力を取り除くためでもある。


「あ、そうなのね……でも、何で煙草?」


「一番身近にあったからだよ?」


 カッコよさそうだから、と言う中二じみた理由で無いらしい。


「実戦で使うのが初めてだから、どこまでいけるか分からないけど、幾ら龍とはいえ、視界は暈せるんじゃないかな?」


 レンが吐き出した煙が、風に乗って龍の中へ入っていく。


『……?』


 龍が突然、周りをキョロキョロと見渡し始める。


「あ、思いのほか効いたみたいだね。【幻惑の紫煙(ミラージュ・パープル)】……『紫』を作っておいて良かったよ」


 色彩魔法で作った『純色の紫』は、幻惑属性――つまり、幻術の類が得意なようだ。


「これだけ大きいと、お城からも丸見えだろうし、そのうち援軍が来るよ」


 レンが、ゴソゴソと木々の中を漁りながら言う。


「うん、これで依頼完了だよ」


 その手には、ある薬草が十本ほど握られていた。


「依頼完了はいいんだけど……龍がまだこっちをガン見してるよ?」


「ふぇ? 僕達は消えてないのかもね。てか、アレだけ注目されてたら消える訳ないか。あはははは」


 乾いた笑いをするレン。一筋の汗が、頬を伝って落ちる。


『テメェらか? このふざけた煙、撒いてんのは』


 龍が人間の言葉を発する。


「ほぇ~……長生きした龍は、あらゆる言語を話せるって噂は本当だったんだ~」


「レン!? 感心してる場合じゃないって!!」


『で? どうなんだ?』


 龍が頭を下げ、レンたちの目の前に持っていく。


 赤黒い鱗には傷一つなく、大きな口の中には、触れただけで指が切れそうなぐらいに鋭利な牙が並んでいた。


「僕がやったんだよ! 凄いでしょ!!」


 エッヘン! と言いながら、胸を張るレン。


『そうか……これはテメェが……』


(レン!? 何を正直に暴露してるのさ!? そこは嘘を吐く場面でしょうが!!)


 アンナは、声に出したら死ぬと思ったのか、心の中で、思い切りツッコむ。


『……すげぇじゃねぇか、小僧。俺の視界を暈すたぁ、大したもんだ』


 怒っているかと思ってた龍が、急にレンを褒めだすものだから、ズルッと滑ってしまうアンナ。


「でしょ? んでさ、何で街のほうに向かってたの?」


『あぁ? ンなもんはあれだ。散歩してたら街があった。只それだけだ』


「それだけ!? 近づいたら攻撃されるとか思わなかったの!?」


 アンナが耐え切れずにツッコむ。彼女は、ツッコミ気質らしい。


『あぁ? あれって攻撃だったのか? 全身マッサージかと思ってたぜ……』


「国の総攻撃がマッサージ!? 君らどれだけ強いのさ!?」


 アンナが、またも声を張り上げる。


『龍種ってのはよぉ、鱗の色で大体の強さが分かるんだ。俺みてぇに黒に近い鱗を持つ輩は、滅茶苦茶強ェが、無闇に人は襲わねぇんだよ』


 その説明に、そういえば……、と思うアンナ。


 ニュースに取り上げられる龍による被害は、その殆どが、赤い鱗を持つ火龍による物だった。


 黒い龍の話など聞いたことがない。


『青、緑、白、紫の鱗を持つ龍にはメスしか居ねぇし、赤には龍種至上主義なんつーふざけた思想を掲げる奴もいる。テメェらが知ってる事なんて、ほんの一部だ』


「ふ~ん……ねぇねぇ、一つ頼み事していい?」


 レンが、龍の近くに行き、小声で何かを言う。


『……あぁ。それ位ならお安い御用だぜ』


「本当っ!? やったぁ!!」


 ピョンピョンと飛び回るレン。よほど嬉しいようだ。


「ねぇ、一体何をお願いしたの?」


 アンナが聞く。


「ん~? それはねぇ~……」


 レンはニヤニヤしながら言った。


「背中に乗せてって言ったんだよ!」





◆◆◆◆◆◆





「わぁ~! すっごーい!!」


「レン、見て! お城があんなに小さいよ! 龍って凄いね!!」


『ガハハハハ!! テメェら人間に、翼はねぇもんなぁ! 空を飛ぶ機会なんて滅多にねぇだろ!!』


 龍の背に乗り、街の上空を飛び回るレン達。


 ヴェスパニア王国の『飛龍』や、一部の魔法を除けば、この世界に空を飛ぶ術はない。


 魔法が発展しているこの世界では、科学と言う概念があっても、そこまで発達していないのだ。


 物作りに関しては、また別なのだが。


「ん? ねぇ、あの光は何?」


 レンが指を指した方には、神々しい光を放ちながら、西のほうへ飛んでいく鳥のようなものが居た。


『ほぉ……テメェらは運がいい。ありゃあ、霊鳥だ。見た奴の未来を明るく照らしてくれるっつー縁起のいい鳥だぜ』


 龍が感心しながら説明する。


「あっちの方向に何かあるの?」


『あっちには【霊峰キルミーネ】がある。あいつらはそこに住むと言われてんだよ』


 霊峰キルミーネとは、東西南北、四つの大陸に囲まれる『中央大陸』と言う場所にある巨大な山だ。


 そこに、国はなく、自然がほぼ手付かずのまま残っている。


「……行けるの?」


『お前、何も知らないのか? あそこは十年に一度しか俺たちの前に姿を現さない。学校で習ったろう?』


 龍がレンに聞くが、レンは、聞き慣れない単語に首を傾げるだけだった。


「ガッコウって…………何?」


 その返しは予想して無かったのか、龍は、目を見開き、驚いているようだった。


『俺の認識が古いわけでもねぇよなぁ……。おい、嬢ちゃん!』


「ひゃい!? な、何かな!?」


 突然話しかけられて、驚くアンナ。


『ルシュタリアに、学校ってあったよな? 行ってねぇのか? この小僧は』


「確かに、学校はあるけど……レンは行ってないよ? 私はフォルティナ学園に行ってるけど……」


「ねぇねぇ、ガッコウって何? 楽しいの?」


 レンが興味を持ったようだ。その目がキラキラと輝いている。


「うん! とっても楽しいよ!!」


「そうなの? じゃあ、僕もアンナと同じことに行く!!」


『行くっつってもよぉ? フォルティナ学園って名門なんだろ?』


 昔、俺を討伐しに来たハンターが行ってたぜ? と語る龍。


「う~ん……お母さんに言ってみよっか。もしかしたら何とかしてくれるかも……」


「それより、もっと凄い人が居るよ。ねぇ、お城に飛んでくれる?」


『城? 分かった、行ってやるよ』


 そう言った龍は、城の方へ方向転換し、飛び始めた。


『ほれ、着いたぞ? 降りるのか?』


 やはり、空を飛べるというのは凄い事だ。


 ものの数秒で着いてしまった。


「うん! あの広いとこにお願い!」


『おうよ!』


 龍が着陸態勢に入る。


 下では、騎士達が風に煽られて、飛ばされていた。


「よっと! これだけ騒げばきっと出て来ると思うんだけど……」


 レンが待っている人と言うのは勿論


「レン君!? な、なんで龍の背中から!?」


「ファルお姉ちゃん! 久しぶりー!!」


 ルシュタリア王国の王女、ファルメス・ルルフォニアだ。


 ファルメスを見るや否や、走って飛びつくレン。


「キャッ! もう、飛びついちゃだめだって言ったでしょ?」


 そう言うわりには、顔がほんのり桜色に染まっているファルメス。


「レン!? 何で王女様とそんなに親しげなの!? ……あ、すみません……」


 レンがファルメスに飛びついたのを見て、龍の背から大きな声を出すアンナだったが、すぐに謝る。


「いいのよ、別に。エレナの娘さんでしょ? それより、何で龍と一緒に居るの?」


「えっとね、依頼の途中でばったりと出くわしちゃって、色々あって仲良くなったんだよ!」


「その『色々』の部分が聞きたかったのだけれど……まぁ、いいわ。何か用?」


 その問いかけに、はっとなるレン。


「えっとね、学校に行きたいんだ。どうにかならない?」


「ちょっとぉ!? 王女様に何図々しくお願いしてるの!? スイマセン、本当に!! この子に悪気は無いんです!」


 あまりの大胆さに龍の背から駆け下りて、レンをファルメスからひったくるアンナ。


 そして、物凄い勢いで頭を下げている。


「いいのよ、もう慣れたから。フォルティナ学園でいい? あそこは私が理事長だから、どうにかしてあげるわよ」


「うんっ! ありがと、お姉ちゃん!!」


 アンナの拘束を振りほどき、またもファルメスに抱きつくレン。


「うふふ。本当に可愛いわねぇ~」


 危なげなくレンを抱きとめたファルメスは、笑顔でレンの頭を撫でる。


 その豊満な胸に、レンの顔が埋まっているのだが、本人達が気にしていないのなら、別に問題はないのだろう。


「でも、編入試験は受けてもらうからね? 魔法はともかく、筆記は勉強して無いでしょ?」


「うんっ! 自慢じゃないけど、何も知らないよ!」


「うふふ。本当に自慢にならないわね。でも、そうなると……約二年後の中等部の編入試験がいいかもしれないわ」


「ちゅーとーぶ? 何それ?」


「それは知らなくても良いわよ。じゃあ、エレナに言ってきなさい。お金のほうは、大丈夫だろうから」


 エレナは元Sランクハンターだ。お金は、たくさんあるだろう。


『俺ぁ帰っていいか? 眠ィんだ』


 大きな欠伸をした後に、龍が言った。


「あ、ねぇ! 名前はなんていうの?」


 レンが、ファルメスに抱きつきながら、頭だけを龍のほうに向けて言う。


『俺ぁスルトってんだ。ま、もう会う事はねぇかも知れねぇが、覚えとけ』


「僕、レン! そっちの女の子はアンナだよ! 僕のお姉ちゃんなんだ!」


 にしし~、と笑いながらアンナを紹介するレン。


『そうか。んじゃな、楽しかったぜ』


 スルトは、その大きな翼を羽ばたかせ、空に飛んでいってしまった。


「ん~……さ、帰ろっかな。依頼の報告もあるし」


「そう? 残念ね。また何時でも来ていいのよ?」


「うんっ!」


「レン~! 早く行かないと日が暮れちゃうよ~?」


 いつの間にか、門の所にいたアンナが、レンを呼ぶ。


「あ~! 待ってよぉ~!!」


 レンがアンナに向けて走り出す。


――――色は知れたか? 白い俺。


「ッ!?」


 突然の声に、バッ! と後ろを振り返るレン。


 だが、そこにはファルメスと、その護衛しか居ない。


「……? なんだったんだろう?」


 気のせいか、と思ったレンは、また走り出そうとする。


「……何か忘れているような……ま、気のせいだよね!」


「レン~! 何してるの~?」


「あっ!? 置いてかないでよぉ! アンナ~!!」


 一瞬、足を止めたレンだったが、気にせずに走り出してしまった。





◆◆◆◆◆◆





 ――森の中の古ぼけた洋館


「ふむ、どうやら隠蔽魔法が切れていたようだ。危ない、危ない……」


 『黒髪』の男性が、隠蔽魔法【神隠しの結界(ジャミング・シート)】を屋敷全体に掛け直しながら言う。


「マスター、食事の時間です。……マスター?」


 メイドと思われる女性が、部屋をノックしながら言った。


「あぁ、分かったよ。今行く」


 結界を張り終えた男性は、机の上にある写真立てを見ながらポツリと呟く。


「もうすぐ……もうすぐ会えるよ……REN……」


 その写真に写っていたのは、レンと瓜二つの容姿を持つ、黒髪(・・)の少年だった。





ここまで読んでいただき、誠に感謝です。


さて、次回からいよいよフォルティナ学園へ行きます。

読んでいて分かったと思いますが、また時間が飛びます。

あまり飛ばしすぎるのはよくないと思ってはいるんですが、その辺は、見逃してください。


では、どんな感想待ってます。

誤字脱字報告もどんと来いです。


さよなら~


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