『白』、国王に気に入られる
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「いやーん!! もう、何でレン君ってこんなに可愛いの? ねぇねぇ、ファルちゃん。持ち帰っていい? てか、持ち帰るっ!」
シャルロッテが、レンを抱き締めながら言う。
胸に関しては平均程度の大きさなので、レンが窒息する事はないが、拘束力が強いせいで中々抜け出せずにいた。
「むぅ~! お姉ちゃん、離して~!」
「ほら、シャル。離してあげなさい。それと、お持ち帰りについては、エレナに勝てるというのならどうぞご自由に」
「はうっ!? そ、そうだった……。エレナちゃんの息子じゃあ、持ち帰るのは不味いよね……」
現実を見て、拘束が緩んだ所を、レンは逃さなかった。
「ふぃ~……。やっと抜け出せたよぅ……」
クラクラする頭を押さえながら、レンはシャルロッテから離れ、ガリウスの所へ行く。
「うぇ~い! ツンツンのお兄ちゃーん!!」
「どわぁ!? いきなり飛びつくなよ! 危ねぇじゃねぇか、ボウズ!」
他国の王、しかも、見た目は超ヤンキーのガリウスの肩に飛び乗るレン。
ちなみに、身長差七十二センチ。
「ふぉぉおお! いい眺めだねぇ~」
「コルァ!! 仮にも俺ぁ王だぞ!? 肩に乗るなっつーの!!」
「ぶぅ……じゃあドコに乗ればいいの? 頭?」
「乗る事前提で話してんじゃねぇ!! ホラ! 降りろ!!」
ガリウスに頭を鷲掴みにされ、引き剥がされるレン。
「おい、アマちゃん王女! そろそろ始めねぇと、時間がなくなんぞ?」
ガリウスが壁にかけてある時計を見て言う。
その時計は、午後三時を示していた。
彼らは、仕事をすっぽかしてココに来ている。皆、今日中に帰らないといけないのだ。
「そうですね。レン君? 少し外で待っててくれる? あそこにいるメリッサと遊んでてね。メリッサ、頼めるかしら?」
「はい、勿論です。さぁ、レン君。こっちで遊びましょ?」
メリッサと呼ばれたメイドが、レンを連れて部屋の外に出でようとする。
「おじさーん! 後で遊ぼー!」
「……仕事が終わったらな」
『冷血魔王』も形無しである。その顔は、初孫と遊ぶ祖父そのものだった。
「……行きましたね。で、どうでした?」
ファルメスが、シャルロッテのほうを見て、言う。
「確かにあったよ。うなじの所に『六角形の黒子』が」
シャルロッテは自分のうなじを人差し指でトントンと叩く。
「だがよぉ? あの計画は俺たちの先代が凍結したはずだろ? もう何十年も前の話だぜ? ボウズの年齢と合わねぇぞ」
ガリウスが、真面目な表情で言う。
「それに、あの計画は失敗ばかりだったはずだ。百年以上続けて駄目だった物が数十年で解決するはずがない。私達にバレない様にやっていたとなると尚更だ」
グリードの意見に、他の王達は皆、押し黙る。
長い沈黙。その沈黙を破ったのは、ファルメスだった。
「……あの計画に関係した物は全て消し去られたはずです。私達の思い過ごしである事を祈りましょう」
その言葉に、皆が黙って頷く。
普通なら、急に話を終わらせたファルメスが疑われてもいい場面だが、各国王達は、ファルメスの性格を良く知っている。
彼女の『人が良すぎる』性格は、嘘を吐き続けるのは不可能だと判断されたのだ。
「…………さて、話が終わったのなら私は小僧の所に行こう。約束は守らねばな」
「ケッ! よく言うぜ。顔がニヤけてんぞ?」
「貴様があの小僧ぐらい純粋無垢だったのなら可愛がってやったのだがな」
「やめろ、気持ち悪ィ。大体、純粋だったら『純色の赤』なんてやってねぇよ」
「それもそうだな」
グリードは、部屋を出て行ってしまった。
「あの『冷血魔王』がああも柔らかくなるとは……」
「レン君が『純色の白』なのってさ、人を惹きつけるからなのかな?」
「テメェらも随分と可愛がってたしな。お気楽女は特によぉ」
「私の国は『女性大国』だからねぇ~。あんなにいい男の子は滅多に居ないんだよ?」
「ヴェスパニア王国の男性は、皆優しいことで有名ではないですか。もしかして年下が好みなの?」
ファルメスがSっ気たっぷりに笑みで聞く。
「別にそういう訳じゃないよ? ただ、国にもあそこまでいい子は居ないなーって思っただけ」
「そうなの……良かった……」
ボソッと呟いたその言葉は、思いのほか部屋に響いてしまった。
「良かったぁ? じゃあアレか? アマちゃん王女はガチでボウズに惚れちまったってのかぁ?」
ガリウスがニヤニヤしながら言う。
「へぇ~。東の大陸でもトップクラスの美女を堕とすなんてやるね~、レン君は」
シャルロッテも、それに便乗する。
「も、もうっ! やめてよ、二人とも!! 今はまだ……その、手のかかる弟程度だし! 別にそんなんじゃ……」
ファルメスは顔を真っ赤にして否定する。
はっきり言って説得力の欠片もない。
「「へぇ~?」」
その反応を見て、二人のニヤニヤは加速する。
「うぇ~い! 僕、王様~!」
「待て、小僧! それを返せ!!」
レンが、グリードの王冠を頭に乗せて、入ってきた。
「あっ! お姉ちゃん! あ・そ・ぼー!!」
「オイ! 投げ捨てるな!!」
王冠を投げ捨て、ファルメスに飛びつくレン。
「きゃっ!? レ、レン君? ダメよ、いきなり飛びついちゃ。危ないでしょ?」
咄嗟に抱きとめる事に成功したファルメスは、レンを軽く叱る。
「は~い。ごめんなさ~い」
「うん、素直でよろしい」
ファルメスは、素直に謝ったレンの頭を笑顔で撫でる。
「ふぁ~……。俺ぁ眠ィし、帰るぜ」
「私も~。国が心配だからね~」
「そういえば、そろそろ『大寒波』の時期だな。帰らねば、帰れなくなってしまう」
各王が、次々に帰ると言い出した。
「……また会える?」
レンが寂しそうな声で言う。
「うん! 勿論だよ!!」
「ま、会わねぇ方が平和なんだけどな」
「私の国はココから遠いが……会えないことはないだろう」
「うふふ……良かったわね、レン君」
「うん!!」
レンが、ファルメスの問いに満面の笑みで頷く。
各国の王と関係を持ったレン。
この関係が役に立つのは、そう遠くない未来かもしれない。
◆◆◆◆◆◆
――東の大陸・某所
「そうか……失敗したか……」
「はい。RENは思いのほか力をつけています。いかが致しましょうか?」
『黒髪』の男性と、『紫色』の髪を持つ女性が話している。
「奴は国王達と関係を持ってしまった。迂闊に手を出すのは危険かも知れんな……」
黒髪の男性は顎に手をやり、何かを考える。
「……この調子だと、RENの中の『アイツ』が目覚めるのも時間の問題だ。そうなれば手が出せなくなる……」
「では、始末をするので?」
「……いや、逆に利用しよう。『アイツ』は、白を守るためならなんだってするさ」
「畏まりました。では、暫く様子を見るということでよろしいのですね?」
男性は、手に持っていたグラスの中身を一気に飲み干す。
男性の目の前には、巨大なモニターがある。
「あぁ。愛すべき我が息子がドコまで成長するのか、楽しみだ」
そこに写っているレンの姿を見て、男性はニヤリと笑いながら言った。